第90話 今度こそ我々は目立たない! 春日未美香の応援に行こう! リベンジ!!

 春日大農場の母屋では、会議が開かれていた。


「お前たち。次の日曜日に、未美香のテニスの試合がある。言いたい事は分かるな?」


 息を呑む四大精霊。

 今回はそこにブロッサム、ギリー、メゾルバも加わっていた。


「鉄人に聞いたところ、前回の俺たち『未美香大応援団』はクソ目立っていたらしい。しかも、悪い感じに。俺自身、まったく気付けていなかったので強くは言えんが、今回は目立たないように行きたいと思う」


「あのさ、黒助? 応援に行かないって言う選択肢はないのかしら?」

「ミアリス。聞くが。俺が未美香の応援をしない選択をしたとして。それは果たしてまだ春日黒助と言う人間なのだろうか?」



「ごめんなさい! わたしが間違っていたわ!!」

「いや、良い。分かってくれると信じていた」



 なんだか心を通じ合わせる女神と救国の英雄。

 2人の立場を考えるとそれは大変結構な事なのだが、心を通じ合わせた内容は「妹、ラブ」と言うものであり、もっと他に共有する情報はあるのではないかとも思われた。


「聞くところによると、悪目立ちした場合。最悪、未美香が学校でいたたまれない思いをする事になるらしい。そうなると、俺は現世を滅ぼしかねない」


「ブロッサムの旦那ぁ……。こいつぁ、穏やかじゃねぇぜ?」

「うむ。だが、吾輩は魔獣人。出番は回って来ないでござるよ」

「くははっ。のんきなものであるな。我は準備など既に整っておるが?」


 元魔王軍チームは今回も出番はないだろう。

 ヴィネに至っては、「母屋の床が腐るから」と言う理由で肥料工場から呼んでもらえてもいない。


「鉄人による、完璧な人選を実は既に貰ってきている。よって、今回の応援隊は選抜済みだ。名前を呼ばれたら大きな声で返事をするように」


 黒助は淡々と会議を進める。


「まず、ミアリス。それからウリネ。セルフィ」


「まあ、わたしは呼ばれる気がしてたわ」

「ボク、また現世に行けるんだー! やたー! 頑張ってみみっち応援するねー!!」

「……面倒だけど。て、鉄人が決めたなら。行かないこともないし」


 イルノは周囲に水の玉が浮遊しているため、ゴンゴルゲルゲは前回なんかバイブスが合わなかったため今回は残留となった。


「続けて、ギリー!」

「うぉっ!? オレっすか!? いや、まずくねぇっすか!? 頭に角生えてるし! 肌とか浅黒いっすよ!?」


「お前はインドからの留学生という設定らしい。角がどうした。肌の色など知るか。俺が選んだ。それでは不服か?」

「う、うっす! 現世なんて初めて行くけど、旦那の命令なら……!!」


 鬼人将軍・ギリー。

 元魔王軍で初めて現世に降り立つ勅命を受ける。


「それから、ブロッサム」

「ははっ! 留守はお任せでござる!!」



「何を言っとるんだ。お前も応援隊として、現世に行くんだ」

「……はっ? 黒助殿。吾輩、頭は竜でござるし、体の色んな所からトゲ生えているでござるが?」



 魔獣将軍・ブロッサム。

 理外の選出である。


「鉄人が言うにはな。大きな市営スタジアムで活動する以上、やはり目印になる者が1人は欲しいらしい。前回はゲルゲで失敗したそうだが、ブロッサム。お前なら、異質過ぎて逆にスルーされると鉄人は言っている。……やれるな?」


 黒助の命令を拒否する理由が元魔王軍には存在しない。

 恩人の彼が自分を頼ってくれている。

 その事実だけで、異世界にだって臆せず向かう事が出来るのだ。


「ははっ! 謹んでお受けするでござる!!」

「くははっ。我らがこぞって現世に赴くことになるとは。我が主も傾きまするな」


「メゾルバ。お前は田んぼに放っているオクルデントアビスたちの世話をしておけ。元気のないヤツはいないか、よく見ておくように」

「……我は妹君の応援に行かずとも?」


「お前な。邪神が応援に来て、邪な気で万が一にも未美香が怪我でもしたらどうする。適材適所と言うものがあるだろうが。邪神らしく、コルティオールに残ってろ」

「……くははっ。なるほど。これが疎外感と言うものか!」


 最後に黒助は「当日はミアリスの創造で現世の服を着て、午前9時に集合だ」と告げて、会議を終了した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 テニスの大会。当日がやって来た。

 今回は未美香と一緒に向かう、未美香大応援団。


「……あのさ、黒助。ごめん。わたしの創造でも、ちょっとこれはカバーしきれなかったわ。主にブロッサムが」


 ブロッサムは竜の頭に赤い三角帽子をかぶり、体の至る所から伸びるトゲには綿で出来た丸い飾りを突き刺していた。


「良いじゃないか。クリスマスツリーみたいで目立たんぞ」

「ぷーっ! 兄貴、クリスマスツリーは目立ってなんぼだよ! うんうん! だいたい僕の想像通りの布陣になったね!! ぷーっ!!」


 ミアリスが黒助に耳打ちする。


「あのさ、黒助? 未美香と一緒に会場に向かうのよね?」

「ああ。そのつもりだが」


「未美香、メンタルに影響出ないかしら? わたしの背中の羽が霞むくらい目立ってるんだけど」

「そうなのか!? 前回に比べると大人しい気すらしていたが!?」



「負けず劣らず騒がしいわよ! お祭り騒ぎだから!!」

「なん……だと……!!」



 黒助は未美香に声をかけようか3分ほど迷い、結局声をかけた。

 彼女は既にユニフォームに着替えており、その姿は天使と形容するに相応しかった。


「未美香。俺たちは留守番しておくべきだろうか?」


 客観的な意見を述べると、留守番しておくべきである。

 だが、未美香は「ほえ? なんで?」と首をかしげる。


「お兄たち、せっかく集まってくれたんでしょ? あたし頑張るから! 見ててほしいなぁ! あ、他の女の子はあんまり見ないでね? あたしだけ見ててっ!!」


 その爽やかな笑顔を見たミアリスは「天使ってすごいわね」と畏敬の念を抱いたとか。

 そののち、黒助が手配しておいた養豚場のトラックに乗って、一同は会場へ移動する。


 今回、柚葉が大学の行事とバッティングして来られないため、黒助の気合はいつもの4割増しである。

 道すがら、未美香がミアリスに言った。


「あのさ、ミアリスさん! あたしの中にも魔力ってあるんだよね?」

「へっ? ああ、うん。そうね。どうしたのよ、急に」


「んっとね、その魔力は大会の間、封印とかできます?」

「できるけど……?」



「じゃあ、お願い! だって、他の子には魔力なんてないんだからさ! ズルはダメでしょ?」

「ヤダ……! この子、本当に心が清らかなんですけど……!!」



 その後、ミアリスによって魔力は一時的に封じられた。


 大会の結果は、未美香の優勝で幕を閉じる。

 彼女の日頃の努力は、他のどの選手にも勝っていたらしい。


 なお、「大会にサーカス団が来ていたらしい」と翌日の時岡市エフエム放送で報じられた事実を知る者は、春日鉄人を除いていないのであった。

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