家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第85話 最強の農家VS最強の極道と不死鳥 ~遅れて来る絶望~
第85話 最強の農家VS最強の極道と不死鳥 ~遅れて来る絶望~
不死鳥・ガルダーンの背に乗ったままの鬼窪玉堂は、尋ねた。
「おい! 鳥ぃ!! どがいしてあの坊主は空に立っちょるんじゃあ!?」
「わ、分かりません。魔力は一切感じ取れないのに……!!」
「役に立たんのぉ、このボケェ!! よし、鳥ぃ! なんか火ぃ噴け! 火ぃ!!」
「ご、ご随意に……!! 『プロミネンス・テンペスト』!!」
不死鳥・ガルダーンの得意とする魔法は炎属性。
消しても消しても蘇る不死の炎にまかれると一巻の終わりである。
「熱いだろうが! バカタレ!! なんでこの世界のヤツらは火ばかり使うんだ!! バランスを考えろ!!」
「わ、私の不死の炎が……死んだ……!?」
春日黒助、手でパタパタやって不死の炎を鎮火する。
いい塩梅の風ならば炎をより大きくする助力となるが、理外の強風になると並の炎は一瞬で消え去る。
不死の炎が「並の炎」の範疇に入るのかどうかは、現在有識者によって議論されている最中である。
「よ、よっしゃ、分かったで、鳥ぃ!!」
「鬼窪様、何がですか!?」
「あの坊主、ほれ、なんちゅうたかいのぉ!? 無効化じゃ、無効化!! 無効化魔法とか言うのを使いよるんじゃないんか!?」
「な、なるほど!!」
鬼窪玉堂は意外と勉強家である。
中学校にもまともに通っていなかった過去を省みて、刃振組の若頭になってからは読書を趣味とし、かつて得る事ができなかった知識の吸収に努めている。
彼はコルティオールに召喚されてから、魔王城の書庫にある魔導書の類を読み漁っていた。
本来ならば意味すら分からないコルティオールの本が読めたのは、皆さんご存じ、ミアリス様による『言語統一』の恩恵である。
「確かあれじゃろ! 無効化魔法っちゅうんは、1種類の属性しか消せんはずじゃろがい!! ほいじゃったら、ワシと鳥が同時に別属性で攻撃したら、あの小僧もバチコン言わせちゃれるじゃろがい!! おおん!?」
喋り方には知性のかけらもないにも関わらず、鬼窪の作戦はインテリジェンスだった。
「では、私はもう一度不死の炎を放ちます!」
「おう! ほいじゃあ、ワシぁ雷の銃撃じゃあ! 合わせんかい、ボケェ!!」
鬼窪の「ボケェ」を合図に、ガルダーンと新魔王のコンビネーション魔法が炸裂する。
「おらぁ! 死ねぇ、ボケェ!! 『
「人間風情がと思っていたが……!! 鬼窪様、デキる!! 『プロミネンス・テンペスト』!!」
鬼窪の放った雷撃銃は合計8弾。
そこに加わるのは不死の炎の渦。
さすがの黒助も、魔法(のようなもの)を使わずに張られなかった。
彼は目の前の空気を掴み、ギュッギュッと握る。
銃弾を確認してからその作業に入り、空気の塊を作るまでの時間はいくらばかりか。
黒助の速度を測る計器が発明されていないので、分からない。
よって、目にも留まらぬ速さで黒助が空気の塊を投げた事実に鬼窪とガルダーンは気付けない。
「うぉぉぉぉっ! しゃぁぁぁぁいっ!! 『
1回目の投球で、ガルダーンの炎を2度消し、彼のアイデンティティを砕く。
2回目の投球で、鬼窪の雷撃銃の弾を全て吹き飛ばすよく曲がるスライダーを披露。
拳銃の弾に空気の球が勝つ理屈も、現在有識者が必死になって議論しているため解明まではお待ち頂きたい。
「お゛お゛お゛ん!? どうなっちょるんじゃあ!? 全部消えよったじゃろがい!! 鳥ぃ!! どうなっちゃるんばあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「お、鬼窪様ぁ!?」
黒助の投球が2回で終わると誰が言ったのだろうか。
彼は3回目の投球も済ませていた。
空気の塊が高速で飛来し、鬼窪の顔面を捉える。
鬼窪が体を大魔王の魔力で覆っていなければ、即死している威力である。
「む。しまった。人間っぽいヤツに当ててしまった。おい。聞くが、その黒いシマシマスーツのおっさん。生きているか?」
黒助の気遣いが遠くの喧騒のように聞こえる鬼窪。
辛うじて意識は保てていたものの、冷静さまでを求めるのは酷な状況であった。
「と、鳥ぃ……。ありゃあ人間じゃなかろうが? あんなもん、極道の世界にもおらんで? しかも、魔力
「どうなさるのですか!? 私は鬼窪様の家臣! ご指示をくださいませ!!」
鬼窪は損得勘定も得意としている。
コルティオールで得た魔力を使えば、裏社会を牛耳る事も可能。
ならば、速やかに異次元の農家を殺して筋を通し、現世へと帰ってウハウハパーティーライフを送るのが彼の目論見だった。
が、それは一瞬で上書き変更される。
「逃げぇ!! 逃げるんじゃ、ボケェ!! あんなバケモンに目ぇ付けられたら終わりじゃあ!! 鳥ぃ! 魔王城まで全速力じゃあ!! 魔王のじじいに手ぇ貸させにゃ、どうにもならん!!」
変更された価値観はシンプルだった。
いのちをだいじに。
「か、かしこまりました!! ……ひっ!?」
「どうしたんじゃあ!? 早う飛ばんかい、ボケェ!!」
鬼窪は先ほどの『
止血を試みているものの、顔や頭の傷は浅くても派手に血が出るものであり、彼の視界は極めて不鮮明だった。
「いやぁ。春日さん。ご無事で何よりですねぇ。それにしても、飛行魔法と言うのは気持ちが良い。まるで魔法使いになった気分ですよ! なっはっは!」
「岡本さん! これはなんとお礼を申し上げたら良いのか……!! お目汚しをお許しください!! すぐに片づけますので!!」
岡本さん、わずかな時間で飛行魔法をマスターし、戦場へ現着する。
「お、おおおおお、おにく! 鬼窪様ぁ!!」
「誰がお肉じゃ、ボケェ!! なんじゃあ!?」
「て、敵が増えました!! ぼ、ボラグンが!! 地上で倒れております!!」
「あああっ!? ほんまじゃ……。なんか、ハゲたおっさんが空に立っちょるやんけ……」
鬼窪玉堂。
彼が人生で初めて感じる、恐怖であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「んー。困りましたねぇ。私がこれ以上出しゃばりますと、さすがに農場の皆様にも申し訳がないですなぁ。春日さんのご活躍をご覧になりたいでしょうし」
「いえいえ! 岡本さん! 日頃のストレス発散をされてください!! 俺はまた、別の機会にしますので!!」
「いや、しかし春日さん。私、覚えたての魔法なので手加減の自信が」
「そんな事を言われると、俺なんか手加減に成功した事がないですよ!!」
「では、公平にじゃんけんで決めましょうかねぇ?」
「それは良いですね! では、最初はグーでいきましょう!」
空中に立つ農家と空飛ぶ農協の人。
彼らは、目の前にいる不死鳥と極道の人を屠る順番を決めるべく、じゃんけんを始めた。
このじゃんけんが地獄へのカウントダウンである事を悟ったガルダーン。
鬼窪もようやく血が止まって、視界が開けて来る。
世の中、見ない方が幸せな事もあると鬼窪が知るまで、残りわずか。
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