第82話 新魔王・鬼窪玉堂、動きます
とある山脈。魔王城。
「べ、ベザルオール様!!
「くっくっく。良い。ガイルよ。卿には鬼窪の世話をさせて余も心苦しく思っておる。許せ」
「はっ! もったいなきお言葉!! その鬼窪についてのご報告がございます!!」
「くっくっく。怖いからあんまり聞きたくないのだが」
「鬼窪が、女神軍の本陣へ攻め込むと申しております!!」
「くっくっく。……マ?」
鬼窪玉堂は、「ちぃと農家しよるガキをぶち殺してくりゃあええんじゃろうが!!」と言って、魔王ベザルオールに増援を要請して来たのだった。
ベザルオールは建設的に考えた。
「農家と極道が一緒にいるところへ隕石降って来ないかな?」と。
「ベザルオール様! どうなされますか!?」
「くっくっく。すまぬ。ちと現実逃避をしておったわ」
建設的な現実逃避である。
「ご心中、お察しするに余りあります……」
「くっくっく。では、四天王をもう1人復活させようではないか。しばし待て」
狂竜将軍・ガイルは申し訳なさそうに主君に進言する。
「鬼窪が、15分で用意せよと申しております。ちなみに、今11分経ちました」
「くっくっく。ぬぅんっ!! 蘇るが良い、四天王が一角、蒼き龍・ボラグン!!」
立ち込める魔力の霧の中から、全身がくすんだ青い鱗に覆われた竜人が現れた。
彼はかつて狂竜将軍・ガイルの配下だったが、その実力を高く評価されて四天王へと格上げされた経歴を持つ。
そのままの流れで「ちょっとごちゃごちゃしてきたから」と封じられた、気の毒な竜人である。
「お久しゅうございます。ベザルオール様。相変わらずの強大な魔力、敬服いたしますれば、このボラグン、身命を賭してベザルオール様のお役に立って見せましょう」
ベザルオールは満足そうに「うむ」と言って、ガイルに聞く。
「くっくっく。あと何分の猶予がある? ガイルよ」
「3分ありません!!」
「くっくっく。ボラグンよ。卿はこれより異世界から来たなんかやたらと怖い魔王の補佐をせよ。多分むちゃくちゃな命令されると思うが、頑張れ。では、時間がないゆえ、秒で向かうが良い」
「は? ……ははっ!! よくは存じませんが、秒で向かいます!!」
蒼き龍・ボラグンが飛び去った後で、ガイルがそっと呟いた。
「ベザルオール様。勘違いであったらご無礼をお許しください。……四天王の中で、1番単純なボラグンを敢えて選ばれましたか?」
「くっくっく。卿が何を申しておるのか、ちょっと余には分からぬ」
ガイルは思った。
「ボラグンのお墓は、立派なヤツを作ってあげよう」と。
◆◇◆◇◆◇◆◇
魔王城から10キロ離れた毒の沼地。
鬼窪の居城はそこにあった。
「あんのぉボケぇ! 頭ドラゴンズに使えるヤツ連れて来い言うたら、どがいしてまた頭ドラゴンズのシリーズ寄越すんじゃ!! さてはガイル、ドラゴンズファンか!!
「ははっ! 分かりませんが、分かりました!!」
「どっちなんじゃあ!? 分かったんか、分かっちょらんのか、ハッキリせぇ!!」
「では、分かりませぬ!!」
「かっはっは! 正直じゃのぉ、おどれぇ! 気に入った! おどれにゃあ、ワシの右腕っちゅう栄誉をくれちゃろう!! おい、鳥ぃ!!」
不死鳥・ガルダーンが跪く。
ボラグンと違い、ガルダーンは「この新しい魔王様、足滑らせて後頭部強打してなんやかんやで死ねばいいのに」と思っていた。
「……いかがなさいましたか、鬼窪様」
「お前、どう見ても飛べるのぉ? 空。飛べるじゃろ?」
「……はっ。飛べますが」
「ほいじゃあ、ワシを乗せて飛べぇ! 目指すは敵の本陣じゃ!!」
ガルダーンは「お待ちを」と意見具申を試みる。
鬼窪がなんやかんやで死ぬのは良いとして、自分が死ぬのは御免なのである。
「敵の異次元の農家は極めて強うございます。何の準備もなしに特攻するのは愚策かと」
「ほお。言うのぉ、鳥! 気に入った! お前は今からワシの左腕じゃ!!」
不死鳥・ガルダーン。
意見を述べたところ、腕にされる
「魔力言うたかいのぉ、この力。ワシ、才能あるわ。ほれ、見てみ? ドーン!!」
鬼窪が右手をピストルのようにして気合を込めると、魔力の銃弾が放たれた。
それ、ものすごく有名なバトル漫画の主人公が使う必殺技に似ているから、できればもう2度と使わないでほしい。
次からは拳銃を使うよう、厳重に求めたい。
「これじゃあ不服か? 鳥ぃ!! 同じ国の
無茶苦茶を言っているようで、鬼窪の発言はある側面の真実を捉えていた。
これにはガルダーンも言葉を失くし、最終的には「はっ!」と首を垂れるに至る。
「よっしゃ、出撃じゃあ!! 鳥ぃ! しっかり飛べぇ!! 竜! ちゃんとついて来い!!」
「はっ! 私が先陣を務めましょう!」
「……ボラグン。お前は相変わらずだな」
こうして、鬼窪魔王と四天王の2人が春日大農場に向けて飛び立った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃の黒助さん。
「旦那! 黒助の旦那ぁ! 困りますって! プリン全部食っちまうんですか!?」
「バカ野郎、ギリー!! 柚葉が作ったものは俺が食わないでどうする!!」
「いや、商品っすから! 旦那が食べちゃダメっすよ!! 昼から来る岡本さんに試食してもらうんでしょう!?」
「ぬっ。ギリー。お前、つまらない正論を吐くようになったな」
今日はコカトリスプリンの試食会が開かれる春日大農場。
まずは農協の朝市で売りに出して市場の反応を見るべく、農協次長の岡本さんをコルティオールに招いてその味を評価してもらうのだ。
「もぉ、兄さん! ギリーさんを困らせてはダメです! 兄さんのプリンなら、こっちにありますから! ほら、バケツサイズですよ!!」
「……ああ。ギリー。俺は生まれてきて良かった。もう人生に悔いはないかもしれん」
「いや、黒助の旦那ぁ……。せめてプリン食ってから言ってくださいよ。今死んだら、プリン食えてないから悔いしか残らねぇと思うんですけど」
「なるほど。一理あるな。岡本さんが来るまで……うん。あと1時間か。よし。オッケー、グーグル。プリンを食べて幸せのあまり死ぬ確率を教えてくれ」
『すみません。何を言っているのか分かりません』
こんなアホな事をやっている間にも、新魔王・鬼窪玉堂の魔手が春日大農場へと迫りつつある。
せめて気付け。春日黒助。
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