家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第81話 妹がラブレターを貰ったので、今日は仕事を休みます。
第81話 妹がラブレターを貰ったので、今日は仕事を休みます。
朝礼の時間になっても春日大農場に事業主が現れない。
これまでも朝礼に黒助がいない事はあったが、全て事前に連絡が行われていた。
「どうしちまったんだろうなぁ? 黒助の旦那」
「ううむ。コカトリスについてご相談したい事があるのでござるが」
「それならオレもだよ、ブロッサムの旦那。プリン作りで行き詰まっちまってよ。柚葉の姉御に手紙書いたんだ。黒助の旦那に渡そうと思ってたのになぁ」
「もう10時になろうとしておるな。これは心配でござる」
定期的に言っておかないと混乱を招くため、いつものお知らせである。
コルティオールでは言語が統一された。
よって、この世界で書いたものは現世に持って行くと日本語になる。
そう、チートである。
だが、そう目くじらを立てないでほしい。
ドラえもんだって大長編になると結構な頻度で翻訳こんにゃくを使うではないか。
ついでに、春日大農場では日本の標準時刻が採用されている。
もちろん黒助に合わせるためである。
と、そんな説明をしていたら、転移装置が光った。
それは現世からコルティオールに誰かがやって来た合図でもあった。
「どうもー。やー。すみません、兄貴がちょっとトラブルに遭いましてー。代役で僕が来ましたー。みんなの弟分、春日鉄人でーす」
鉄人はひとまず黒助の代わりにそつなく朝礼を執り行い、ブロッサムのコカトリス育成法にアドバイスをして、ギリーから手紙を受け取った。
「本気を出したらやれる!」がモットーのニートだが、本当に本気を出したらやれるのが春日鉄人と言う名のニート。
ならば普段から本気を出せ。
「ミアリスさーん! あと、んー。セルフィちゃんでいいや! ちょっと来てくれます?」
まずセルフィが飛んで来た。
「ちょっと! なによ、ウチがついでみたいにさ! あなたって、本当に女心が分かってないし。マジでそーゆうとこ、なし寄りのなしだから!!」
「ごめんごめんー。僕の中ではセルフィちゃんが一番だよ! ほら、一応上司の方から呼ばないとさ! 角が立つじゃない?」
「そ、それなら別にいいし! 最初に言えば? バーカ!!」
セルフィさんがニートに半落ちしている気配を感じるのは気のせいか。
「あー。わたし、もう少しその辺をぐるっと回ってきた方がいい? なんか、セルフィの邪魔しちゃ悪いかなって」
「ばっ! ミアリス様、バカじゃん!? じゃ、邪魔とかむしろして欲しいし!!」
「あのですね。兄貴がちょっと大変なことになってまして。現世に来てくれます? 女神軍の中でも女子力高めな2人だったら、力になってくれるかなって!」
救国の英雄が「大変なことになっている」と聞かされては、女神と四大精霊も黙ってはいられない。
2人は鉄人に続いて、急ぎ転移装置をくぐり抜け、現世へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「オッケー、グーグル。穏便な人の殺し方を教えてくれ」
「……何やってんの、黒助」
英雄が検索してはいけないワードをグーグルアシスタントさんに呟く黒助がそこにはいた。
「今朝からずっとこの調子なんですよー。ちょっと、女子代表として悩みを聞いてあげてもらえます? 僕じゃ力になれなくて」
「うぇぇ……。ウチも力になれそうにないんで、ミアリス様、よろっす」
鉄人とセルフィに背中を押されて、押し出されて、ミアリスが黒助の隣に向かう。
「ちょっと、どうしたのよ、くろす」
「ああっ! ミアリス! 良く来てくれた!! お前は本当に女神のようだ!! 頼む、俺を助けてくれ!!」
黒助、ミアリスを力強く抱きしめる。
「ほ、ほぁ、ほぎゃあぁぁぁぁっ!! あびゃ、わたし、ちょっ、まだ、はぁう!!」
「あー。ウチが行かなくてマジで正解だったし。あぶねーし」
ひとしきりミアリスを熱く抱きしめたあと、真顔で黒助は相談した。
「聞いてくれるか!? 今朝な、未美香が学校に行った後、掃除をしていたらな!! これが出て来たんだ!! あああっ! この世の終わりだ!! ぶっ殺してやる!!」
黒助の手には、ピンクの封筒にハートのシールが貼られた封筒があった。
まず、セルフィが苦言を呈した。
「あーね。黒助様さー。いくら家族でも、勝手に部屋の掃除すんのはなしだわー。それ、女の子が一番嫌がるヤツだし」
「ち、違うんだ! 聞いてくれ!! 未美香が体操着忘れたって言うからな! ちゃんと許可を得て入室したんだ!! その後、空を走って届けたさ!! だけど、ついでに掃除機だけかけようと思っただけなんだ!!」
「うん。それが女の子が一番嫌がるヤツだし」
「ミアリス、俺を殺してくれ……」
話の流れをだいたい理解したミアリスは、女神の翼で黒助を包んだ。
女神の羽には精神を落ち着かせる効果があり、その羽ばたきひとつで状態異常のほとんどを消し去る事も可能。
「要するに、未美香がラブレター貰ってたのを見つけちゃったわけね?」
「野郎! ぶっ殺してやる!! 差出人はアキラと書いてあった!! 鉄人、半径100キロ以内に住んでいるアキラをピックアップしてくれ! 高校生から順に殺していく!!」
時岡市にお住いのアキラさんは至急避難してください。
「ね、この調子なんですよ。僕の手には負えないでしょ? 何なら、アキラ探しはもう済んでるから、このデータ渡しちゃおっかなくらいまで考えてます」
「ヤメなさいよ! 女神の与えた肉体で殺人事件とか、女神の歴史にわたしの名前がものすごく大きな字で遺るでしょうが!!」
「あーね。いいすか? 未美香に確認してからでもアキラくんを殺すのは遅くないんじゃないかと思うし」
3人は「その手があったか!!」とセルフィに尊敬のまなざしを浴びせた。
セルフィは「バカの三連星がここにいるし」とため息をつくのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「たっだいまー! ふぃー! お腹空いたー! およ? お兄、どしたん? あれ、ミアリスさんとセルフィさんもいる!!」
未美香さん、ご帰宅。
「未美香ちゃん! 僕もいるよ!!」
「あ、そだね。鉄人はいつもいるから、何の特別感もないよ?」
ニートを軽く躱して、未美香は大好きな兄に尋ねる。
「どうしてこの世の終わりみたいな顔をしているの」と。
「未美香! お前にはまだ早い!! せめて二十歳、いや、できれば一生なのだが、ここは譲ろう! 二十歳まではダメだ!! 男女交際なんて!!」
「ほえー? あ、その封筒見たんだ? お兄、なんか勘違いしてるでしょ?」
「ね、セルフィ? 未美香、勝手に部屋の掃除した事についてスルーしてるわよ?」
「春日家の結束力舐めてたし。ちょっと引くし」
「俺はアキラを殺してしまうかもしれん!!」
「あははーっ! お兄、お兄!」
未美香は天使のようなスマイルで言った。
「アキラちゃんって女の子だよ! テニス部の後輩!!」
「なん……だと……」
未美香は男女問わず人気があり、可愛らしい風貌でラケットを握る姿にファンレターを貰う事も多いと語った。
「良かった……! ああ、良かった……! 神様、女神様、ありがとう……!!」
「女神様、拝まれてますよ?」
「鉄人、あんたさては全部知っててわたしたちを呼んだわね?」
「あーね。鉄人ならやりそうだし」
鉄人は質問に答えず「さあ、兄貴! ご飯にしよう! お腹空いたよ!!」と言った。
「ああ! そうだな! 今日は俺が飯を作るか!! ミアリスとセルフィも食っていけ!!」
この日、春日黒助は生まれて初めて無断欠勤をした。
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