第80話 コルティオールに米食を! 今度は稲作だ!!

 黒助は考えていた。

 春日大農場の従業員も気付けば250に迫ろうとしている。


 ゴブリンたちも含めると、そこに500が加わる。

 とんでもない数である。


 現在、彼らの食事はサツマイモと黒助が現世で安く仕入れて来る古米がメイン。

 ゴブリンたちは適当にその辺の草とかモンスターの肉とかを食べているので除外したとしても、従業員たちに食わせる米の肥大化が彼を悩ませていた。


 ぶっちゃけて言うと、むちゃくちゃお金がかかるのだ。


 一般的に、古米になると新米に比べて値段は下がる。

 だが、そもそも古米の流通は少なく、値段はその年の新米の出来不出来によっても変動する。


 現在、黒助の知人の老夫婦から大量に買い付けているが、今年でその夫婦が米農家をヤメる事にしたらしい。

 米は大量に作ってなんぼであり、米を大量に作るのは田んぼであり、そのためには手間も人件費もバカにならない。


 そんな事情を鑑みて、いざ自分の農場を見てみると。

 彼は気付いた。


 「条件が整っているではないか」と。


 そこで彼は決断をする。

 今日は、そんなお話である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「お米? ああ、おいしいわよね。わたし、おにぎり好きなのよ」

「イルノも大好きですぅ。コルティオールにはない作物ですから、黒助さんには感謝ですぅ」


 母屋にて、農場戦略会議が開かれていた。


「そうか。俺は日本人であり、日本では米が主食として長い歴史を築いて来た。その伝統をお前たちが気に入ってくれる事は嬉しい」


「柚葉殿からお教え頂いた焼きおにぎりなる食し方がワシは好きですぞ! この火の精霊・ゴンゴルゲルゲにお任せ下され!!」

「ウチは梅干し入りのおにぎりが好きだしー。それに、カツオブシ? なんかよく分かんないけど、鉄人が持って来た粉入れたら、最高にアガるんだけど!」


 四大精霊のおにぎり談義に花が咲く。

 米食文化がコルティオールに根付き始めている証拠であった。


「クロちゃんがそーゆう話する時ってさー! だいたい次に作るものの事多いよねー?」

「ウリネ。さすがは五穀豊穣の精霊だな。その慧眼には脱帽せざるを得ん」


 黒助は「これから春日大農場で稲作を始める」と彼らに告げた。


「うん。いいんじゃない? で、どうやって作るの? 畑に種を植えるの?」

「そうか……。そこから説明しなければならんのか。だいたい17000文字くらいかかるが、聞いてくれるか?」



「えっ!? や、ごめん! それはちょっと困るって言うか!」

「そうか。では、口頭で説明をする。3時間くれ。全員、死ぬ気で覚えろ」



 我々は時を進めよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「はへぇー。お米って結構手間がかかるのねー。今度から、もっと感謝して食べなくっちゃだわ。……セルフィ、あんた大丈夫?」

「いや、無理っぽいっす、ミアリス様。ウチのキャパ軽くオーバーする情報量だったんで」


 セルフィの頭が悪いわけではない。

 黒助が縄文時代に中国大陸で稲作が始まったところから、昨今のお米事情に至るまで余すことなく語ったため、セルフィがダウンした。


「米が税として使われ始めたのは……飛鳥時代で……ぐぬぅ……」

「イルノはトマトのお世話に行っていたのでノーダメージですぅ」

「とりあえず、お米ってすごいんだねー!!」


 四大精霊が軒並みノックアウトされる米。

 その偉大さは次元を超えるらしかった。


「それでは、これより水稲すいとう栽培による米の育成方法について説明しよう。大丈夫だ、お前たち。あと3時間もあれば全てを伝える事が出来る」

「意外と短くまとめられるのね。オッケー。教えてくれる?」


 お忘れかもしれないが、ミアリスは創造の女神。

 さらに、女神には代が変わる度に知識の継承が行われるため、実はものすごく記憶力に長けている。


 なお、四大精霊は全員がダウンしたため、稲作班のリーダーにはミアリスが就任した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 開墾された農地の横に、巨大な水田をいくつか作る事になった。

 呼ばれて来たのはブロッサムとギリーにメゾルバ。


「よし、お前たちに重要な任務を与える。ブロッサム。お前の知っている魔獣でアイガモに近いものはいないか? これが図鑑だ」

「拝見するでござる。おお、小さくて可愛いでござるなぁ」


「できれば無農薬で行きたい。雑草や害虫を食べてくれる魔獣がいればベストなのだが」

「それでしたら、黒助殿。コカトリスはどうでござるか?」



「あいつら体長3メートルくらいだろう。稲が全部潰れるわい。バカタレ」

「ぬぅ。これは考えが足りなかったでござる」



 ブロッサムは少し考えてから「そう言えば」と切り出した。


「オクルデントアビスはいかがでござろうか?」

「ちょっと待て。オッケー、グーグル。オクルデントアビスについて教えて。……おい、現世で見つかった恐竜とか出たぞ?」


「なんと、現世にもおるのでござるか!? こやつらは、全長が大きくとも10センチくらいの鳥獣でござる」

「もしかすると、古代の現世にもコルティオールとの転移装置があったのかもしれんな。そいつらは用意できるのか?」


 ブロッサムは胸を張って答えた。

 「小さいので吾輩の事をまだ主と思ってくれてござります」と。


 それは、ある程度の大きさの眷属の大半にそっぽ向かれて魔王軍に戻られた事を意味するのだが、黒助は敢えて感想は言わず「手配してくれ」とだけ口に出した。


「では、ギリー。お前の地面抉るキックで、この図のように田起こししてくれ。本来ならトラクターを使うのだが、ミアリスによって消されてしまったからな」

「うっ。悪かったわよ」


 黒助のトラクターは、転移装置の供物として消滅してしまった。

 だが、彼はそれをいつまでも根に持つような男ではない。



「別に咎めているんじゃないぞ。トラクターの犠牲のおかげで、俺はミアリスに出会えた。今では感謝しているくらいだ。お前に会えて良かった」

「ほぁ、ほあぁぁぁ!! 怒られると思って身構えたのにその切り返しはファウルよ!! ふぎゃあぁぁ!! さぁぁぁぁぁいっ!!」



 ミアリス様が奇声を上げて地面をゴロゴロと転がる。

 羽が泥だらけになっていく。


「メゾルバ。お前も同じようにこの図のような形の田を作れ」

「くははっ。容易い事。要はクレーターを作るのであろう? 我が『ボンバーマッスル』を使えば一瞬である」



「お前は農地に何と言うことをしようとしとるんだ。バカタレ」

「えみゅうぅぅぅぅぅぅんっ」



 とりあえず地面に埋まるメゾルバ。

 もはや、コルティオールの伝統芸能の1つである。


「黒助の旦那ぁ! こんなもんでどうっすか!?」

「……驚いたな。ギリー。完璧じゃないか。お前、繊細な作業に向いていたのか」


「いや、最近はプリン作ってばっかだからよ! 菓子作りは分量をミリ単位で間違えんなって柚葉の姉御から習ったもんで!」

「そうか。では、その調子で作業を続けてくれ。メゾルバ。お前はもういいから、ブロッサムと一緒に鳥さん捕まえて来い」


 春日黒助。

 彼は、コルティオールに米食を定着させるべく立ち上がるのだった。

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