家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第79話 魔王と女神、それぞれの1日 ~魔王ガチャで失敗したベザルオール様と英雄ガチャで当たりを引いたミアリス様~
第79話 魔王と女神、それぞれの1日 ~魔王ガチャで失敗したベザルオール様と英雄ガチャで当たりを引いたミアリス様~
とある山脈。
魔王城の近くでは、新魔王・
資材は虚無将軍・ノワールが生み出して、それを獣人や魔人が総動員されて組み立てている。
なお、毒の沼地の真上に家を建てたのは、ガイルが「何かの間違いで毒にやられてくれると助かるのだよ」と画策した末の悪あがきであった。
既に、鬼窪玉堂も春日黒助と同様に、ただの人間ではない。
春日黒助が女神・ミアリスによって最強の肉体を与えられたように、鬼窪玉堂には魔王・ベザルオールから大魔王の魔力が与えられていた。
大魔王の魔力と極道の精神力の相性は残念ながら良好であり、鬼窪は毒の沼地に膝まで入って「なんじゃい。魚おらんのぉ」とガッカリしている。
「……毒の沼地に入ろうと言う発想が理解できんのだがね」
狂竜将軍・ガイルはもっとガッカリしていた。
では、召喚を強行したベザルオール様はと言えば。
「くっくっく。敵を倒そうと思って召喚魔法を使ったら、なんか知らんけど敵が増えた。くっくっく。時すでにお寿司。くっくっく。上手い、寒ブリ一丁」
かなりお疲れのご様子である。
そこにやって来たのは通信司令長官の仕事よりも魔王の傍仕えの方がメインになりつつある男、アルゴム。
彼はベザルオールの命を受けて、魔王城の宝物個から古い金属製の箱を謁見の間に運び込んで来た。
4つもあるので、四度往復をしたアルゴム。
魔王城の主だった兵士は全員が鬼窪の家を建てに行っているので、こればかりはどうしようもない。
「ベザルオール様! お持ちしました! この箱の中に、例の者たちが……!?」
「くっくっく。そうだ、アルゴム。魔王軍四天王が封じられておる。ヤツらはかつて余が生み出した神獣たちであり、女神軍との戦いでは大いに戦果を挙げてくれたものよ」
「そ、それでは、なにゆえ封印をなされたので!?」
「アルゴム! その話題には触れてはならんのだよ!!」
ベザルオールは「良い」と言って、まだ若いアルゴムに分かりやすく説明した。
「くっくっく。4人も常に謁見の間にいられると、ちょっとうるさいし。パーソナルスペースが侵されるしで、困ったからだ。だべるなら余も含めて4人くらいがちょうど良い」
「あの頃は、五将軍も全員謁見の間におりましたからな! ソーシャルディスタンスがまったく保てておりませんでした!!」
ベザルオールは手早く封印を解くことにした。
今は少しでも賑やかな方が心も落ち着くからである。
「くっくっく。蘇るが良い。魔王軍四天王よ。ぬぅぅんっ!!」
赤い箱が開き、強大な魔力と共に発光する。
それからすぐに、真っ赤な翼を生やした鳥人が跪きながら現れた。
「……不死鳥・ガルダーン、ここに。お久しぶりでございます、ベザルオール様」
「くっくっく。壮健なようで余も嬉しい。無理やり封印してごめんね」
アルゴムは四天王なのに1人しか復活していない現状を不思議に思い、隣のガイルに事情を伺った。
ガイルは「良い質問なのだよ」と言って、その答えを授ける。
「四天王が一気に4人復活したら、なんかごちゃごちゃするのだよ。順序立てて蘇らせるところに、ベザルオール様のお心遣いを感じるのだ」
「な、なるほど! 確かに! 急に4人も増えたら、混乱いたしますな!!」
再び勢力を取り戻しつつある魔王軍。
だが、ベザルオール様の表情は優れないままだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、ユリメケ平原の春日大農場では。
「ミアリス。聞くが、お前最近少し働き過ぎではないか? ちょっと休め」
「な、なによ!? 急に優しくして! 言っとくけど、わたしそんな態度で今更どうこうされないからね!? もう完全に落ちてるから!!」
「そうか。では、今日は有休休暇とする。お前はどうやって休日を過ごす?」
「へっ? ……良い感じの石を積んで、自己ベスト更新を目指すとかかしら」
「賽の河原か。お前、さてはまともに休めない人種だな?」
「だ、だって! 仕方ないじゃない! これまでずっと、いつ魔王軍が攻めて来るか分からなかったんだし!!」
黒助は「なるほど」と頷いて、近くを通りかかったゴンゴルゲルゲとイルノを呼び止めた。
「どうなさいましたか、黒助様!?」
「イルノでお役に立てるか不安ですぅ」
「すまんが、今日は午前休を貰う事にする。昼過ぎには戻るから、それまで農場を任せて良いか?」
「ははっ! かしこまりましてございまする!! ワシらにお任せを!!」
黒助は「任せたぞ」と言って、ミアリスの手を引く。
「ちょ、なによ!? どこに連れて行く気よ!? さては、わたしに変な事をする気ね!? まったく抵抗しないけど、抵抗するふりくらいはした方がいい!?」
「何を言っとるんだ、お前は。未美香から聞いた場所に連れて行くだけだが」
そう言うと、黒助はミアリスをお姫様抱っこして空を駆けて行った。
「いつ見ても、黒助様の動きは凄まじいな。あれで魔力を一切使っていないとは」
「イルノたちの常識で黒助さんを理解しようとする事自体がおこがましいですぅ」
黒助との付き合いが最も長い四大精霊の2人は「ホントにねー」と言い合って、自分の仕事に戻って行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
農場を出て、1キロほど東に行くと窪地がある。
つい先日、未美香がゴブリンたちと散策に来た場所であり、小さく可憐な青い花が咲き乱れていた。
「見ろ、ミアリス。なかなか綺麗な花だ。コルティオールの植物も悪くないな」
「あんたが果実の方にゴブリンメロンとか名前付けたヤツね。結構昔から自生してる植物よ」
「そうか。この植物も女神が創造したのか?」
「あー。多分ね。わたしより何代も前の女神だと思うけど」
「そうか。花の名前はないのか?」
「んー。多分あると思うけど、調べないと分からないわね」
黒助は「なるほど」と納得して、ミアリスに提案した。
「ならば、この花をミアリスと名付けるのはどうだ? 美しいものには美しい名前が似合うだろう。ああ、気を悪くするなよ。お前の方が綺麗だ」
「ほ、ほぁ、ほぁぁぁっ」
この後、ミアリス様が叫びます。
「ほあぁぁあぁぁぁっ!? ばっ、あんた、バカじゃないの!? そ、そんな、わたしより花の方が綺麗に決まってるじゃない!!」
「そうか。だが、花はいくら美しくても口がきけん。その点、お前は鈴の音のように可愛らしい声を出すではないか。総合的に考えると、お前の方が綺麗では?」
それから、ミアリスは窪地をゴロゴロと転がって行った。
もはや、彼女もどうしてそんな奇行に走ったのかは分からないらしいが、その様子を見ていた黒助は「ストレス発散ができたようで何よりだ」と満足気であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
コルティオールを巡り、戦争状態にある魔王軍と女神軍。
だが、気付けば随分と幸福度の違いが明確になってきた。
どこか1つでも歯車が噛み合い損ねていれば、彼らの境遇は真逆だったかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます