第70話 力の邪神VS夜の邪神

 ミアリスとメゾルバは2人とも羽があるため、移動速度が速い。

 なお、このコンビは魔の邪神・ナータの生死を確認するおつかいをさせられたペアであり、不運とは大の仲良しでもある。


「くははっ。女神よ」

「なによ。まーたしょうもない事を言い出す流れね、これ」


「しょうもないのは貴様ではないか。……いや。なるほど。そうか。くははっ」

「なにごちゃごちゃ言ってんのよ! キモいわね!!」


「キモッ!? 貴様、言うに事を欠いて、力の邪神を貶めるとは……」

「で、なに? そのキモい笑いの理由を言いなさいよ」


 メゾルバは「よかろう」と言って、羽を休めずに解説する。

 この男もずいぶんと女神軍に馴染んだものだ。


「貴様には、と言うよりも貴様たち女神軍の者が全て対象になるが。貴様らは邪神の魔力を感知する事ができないのか?」

「はあ? 別にできない訳じゃないわよ。ただ、あんたの魔力を四六時中感知しとく意味が分かんないんだけど」


「くははっ。愚かなり、女神よ。邪神は我の他に、ナータの生存は不明だが、もう1人いるのだ。夜の邪神がな」

「あー。そう言えばそうね。じゃあ、現れたらあんた教えなさいよね」



「現れている」

「ちょっと何言ってるか分からないんだけど」



「現れていると言っている。この先の肥料研究所より、邪神の魔力を感じ取ったのだ。それも、かなりの出力。察するに戦闘中ではないか?」

「いや、早く言いなさいよ!! このバカ邪神!! あんたがもったいぶった言い方してる間に、ヴィネがやられてるって事でしょ!? 今のやり取りについて、後で黒助に言いつけるから!!」


 メゾルバさん、体を硬直させる。

 どうやら、その想定はしていなかったご様子。


「め、女神よ。少し話し合おう」

「話してる間にヴィネがやられるでしょうが! ほら、さっさと行くわよ!!」


 女神と力の邪神は、力強く翼を羽ばたかせる。

 肥料研究所までは1分もかからないだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 だが、ヴィネはその1分を持ち堪えられそうになかった。


「ははっ! 器用に避けるね! けど、それもそろそろ限界かな? 君の周囲はすっかり消滅しちゃったよ?」

「くっ。せめて一矢報いなきゃ、逝っちまえないねぇ!! 『エビルスピリットボール』!!」


「はははっ! 何回やっても無駄なんだよね! 邪神の魔力は君たちのものと質が違うのさ! その弱々しい魔力の弾で僕に何かできると思ってるのが愚かだね! 『イレイザーハンド』!!」


 ブランドールの『イレイザーハンド』は、巨大な白い手を具現化する。

 そして、その手を握る事で空間そのものを掴み、削り取る。


 跡には何も残らない。

 削り取られたものは時空の狭間へと消えて行く。


「くははっ! 『ボンバーマッスル』!! 弱いものをいたぶって遊ぶとは! その醜悪な趣味は変わっていないようだな!」


 ヴィネが命を諦めたタイミングで、頭の悪い名前の光弾がブランドールを襲った。

 それはかつて、メゾルバが魔獣の森付近に巨大なクレーターを作った魔力の塊の放出による攻撃。


「ヴィネ! あんた、まだ生きてる!?」

「ミアリス……! 恋敵にピンチを救われるなんて、こんなんじゃ、あたいも逝っちまえないねぇ」


 女神と力の邪神、死霊集軍のピンチにどうにか間に合う。


「誰かと思えば、メゾルバじゃないか。君、女神軍に下ったって言うのは本当だったんだ。相変わらず、バカだね」

「くははっ。貴様もナータと同じような事をほざく! 我が下ったのは女神にではない! 我が君と我が主にである!!」


「意味が分からないけど、僕の楽しみを邪魔するのなら君から片付けるよ。『イレイザーリング』!」


 ブランドールが輪っか状に魔力を放出する。

 先ほどまで使っていた消滅魔法の遠距離攻撃である。


 不遜な態度を崩さない夜の邪神だったが、力の邪神と近距離でやり合うのはその労力に対して得るものが少ないと知っている。


「くははっ! 賢しいな、ブランドールよ! 我の力を恐れるか! 『ボンバーマッスル』!! くははっ、これで相殺すれば問題なうわぁぁぁぁ!! 痛いぞーこれ!!」



「あんた何やってんの!? どう考えてもこの局面で2度同じ攻撃方法をチョイスするのは死亡フラグでしょ!?」

「おのれ、女神め。我が右腕が消滅する前に指摘をせぬか」



 メゾルバの右肩から先を綺麗サッパリ削り取ったブランドール。

 これには力の邪神も額に汗をかく。


「これは、まずいかもしれないねぇ。ミアリス、気付いてるかい?」

「言いたい事は何となくわかるわ。あの夜の邪神とか言うヤツ……。黒助との相性がものすごく悪そう!!」


 そうなのだ。

 メゾルバは春日黒助との力の差が次元を超えるほどあるものの、タイプで分類すると同じカテゴリに属している。


 黒助もメゾルバも肉弾戦を得意としており、主な戦法は「力によるごり押し」だ。

 対して、ブランドールは「存在そのものを消滅させる」魔法を使う。


 ミアリスとヴィネが「ひょっとして、黒助の脅威的なパワーも消されちゃうんじゃ?」と考えるのも道理であった。


「あははっ! 楽しいな! メゾルバ、どうするの? 右腕がなくなったら、自慢の何とかいう魔砲弾も撃てないじゃないか!」

「く、くははっ。心配は無用。……だりゃあ!!」



「いや、腕生えるんかい!! 心配して損した!! このバカ邪神!!」

「……女神よ。貴様はどちらの味方なのだ?」



 ミアリス様の言う通り。

 メゾルバの腕は普通に生えて来た。


 邪神は生命力の根源が魔力なので、その魔力が枯渇しない限りは外傷を治癒する事も可能である。

 が、逆を言えば、何回も腕を削り取られていてはじり貧であり、いずれメゾルバの魔力が尽きて消滅してしまう未来を暗示していた。


「持久戦は僕の趣味じゃないんだよね。同じことを何度も繰り返すのは苦痛でしかない。だから、もう消えてもらおうかな。……少し大きな魔法を使うよ」


 ブランドールが両手を天に向けて、魔力を溜め始めた。

 メゾルバは「これぞ好機!」と攻撃を仕掛けるかと思いきや、意外な事にそうはしなかった。


「女神よ。そして死霊将軍。我が次の一撃でヤツの注意を引き付ける。その間に貴様らは逃げるが良い」

「何言ってんのよ! あんたはどうすんの!?」


「くははっ。勘違いするな。我は主の利益のみを考えている。決して女神、貴様を助ける訳ではない」

「いや、あんた! そーゆうのヤメなさいよ! なんで自分から死亡フラグに向かっていくの!? ホントに死ぬわよ!?」


 そんなやり取りをしていると、ブランドールのチャージが終了する。

 なんと言う無駄なやり取りだったのだろう。


「これは君たちに使うのはもったいないけどね。特別だよ。ははっ! 『イレイザーバースト』!! 消えてなくなれ!!」


 その瞬間、あの男がやって来た。

 メゾルバが腕を失いながら稼いだ時間がなければ、間に合わなかっただろう。


 だからこの男は、まず従業員を称賛した。



「ご苦労だった。メゾルバ。今週の春日大賞はお前で決まりだ」

「我が主!!」



 迫りくる消滅の魔弾を前に、最強の農家、現着する。

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