第64話 春日柚葉の卒業祝いをしよう!
その日、春日大農場の母屋には女神軍の主だったメンバーが集まっていた。
集合をかけたのは他でもない、春日黒助。
彼は「緊急事態だ。全員の知恵を集結させる必要がある」と号令した。
「どうしたのよ、黒助。ガチガチに緊張して……。あんたがそんな顔する時って」
「うむ。ワシにも分かりますぞ!」
「ウチも何となく……。イルノとウリネ、ずるいし。ウチも農作業が良かったし」
ミアリス、ゴンゴルゲルゲ、セルフィはおおよその事情を察していた。
「吾輩たちまでお呼びになられるとは、何事でござるか!?」
「まさか、魔王軍がカチコミかけてくるんすか!? 旦那!!」
「くははっ。誰が来ようと、我の力をもって破壊してくれようひゅぅぅん」
「バカタレ! 破壊するな! これから、柚葉の卒業祝いについて話し合うというのに!! お前は本当にそういうところがあるな、メゾルバ!!」
「いや、黒助。あんた……。まだ何も言ってないじゃない……」
ゲンコツを喰らったメゾルバに、今回はミアリスたちも同情したと言う。
黒助は改めてこの場に集まった従業員たちに告げる。
改めても何も、女神様の言う通り。まだ何も言っていないではないか。
「俺の妹の柚葉がな。来週、高校を卒業する。これはもう、天文学的にめでたい。よって、春日大農場でもなにか祝いをしたいと思う。お前たちの忌憚なき意見が聞きたい。遠慮せずに発言してくれ」
「……ブロッサムの旦那ァ」
「ああ、ギリーよ。不用意な発言をすると、メゾルバの二の舞を踏む事になるでござる」
力の邪神をグーパン一発で黙らせる男、春日黒助。
彼に忌憚のない意見を述べられるようになるには、それなりの時間と付き合いが必要になる。
「ここはやはり、コルティオールの作物で料理でもするのはいかがですかな!? 現世にないものばかりですゆえ、柚葉様もお喜びになるのでは!?」
四大精霊の特攻隊長。
ゴンゴルゲルゲがまず一歩前に出た。
「なるほど。ゲルゲ、まず柚葉の事を考えているところは高評価だ。10ポイント加算しよう。だがな、モッコリ草もスッポンポンも、うちでは普通に食卓に並ぶのだ。台所は柚葉の主戦場だからな。いささかインパクトに欠けるかもしれん。あと、ピンポコ豆はくさい。これ以外の作物となれば、安全性を確認せねばならん」
「なるほど。時間的余裕がないわけでございますな!」
「ああ。着眼点は悪くなかったぞ」
それから「ははあ、こんな感じで発言したら無事で済むのか」と理解したブロッサムとギリーも意見を出すが、黒助の表情は固いままであった。
「まずさ、黒助は現世の家でお祝いしたりしないの?」
「ミアリス。お前、いい事を言うな。30ポイントやろう。もちろん祝うぞ。だが、未美香が張り切っていてな。姉のお祝いをしたい可憐な妹の姿を見ていると、そこに兄が割って入るのは無粋だろう?」
「つまり、未美香に遠慮して何もできないから、コルティオールでも何かしたいのね」
「お前のように察しの良い女ならば、嫁を貰うのも悪くないかもしれんな」
ミアリスが悶絶しながらジタバタとその辺を転がり始めたため、黒助は貴重なアドバイザーを1人失うことになった。
それからもブロッサムとギリーが特に建設的ではないけど的外れでもない置きに行った意見を出すのだが、当然黒助はイエスとは言わない。
メゾルバが「我が破壊のショーをご覧にいれよう! くははっ!」と言って、本日2発目のゲンコツを黒助から貰ったところでセルフィが呟いた。
「……や。ふつーにこっちでもパーティーすればいいんじゃね? パーティーって、別に1回だけしかしちゃダメって縛りはないと思うし」
「……セルフィ。お前、天才か? 200ポイントやろう」
「ええ……。なんか変なポイント大量ゲットしたし……」
こうして、春日大農場の総力を結集したサプライズパーティーの準備が始まったのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日。
「パーティーって言えばバーベキューだよ、兄貴!!」と言いながらコルティオールにやって来た鉄人の意見により、演目が決定された。
そうなると、色々と足りないものが出て来る。
まずは、バーベキューに不可欠な肉がない。
農場の近くで獲れるイノシシ型のモンスターをよくゴンゴルゲルゲやギリーが倒してきて食料にしているが、備蓄されている量では全然足りないと黒助は判断した。
「ブロッサム。それからリザードマン部隊。なるべく質の良い肉が欲しい。魔獣軍団と言うからには、獣の肉について造詣も深かろう。お前たちには、肉を調達して来てもらう。あと6日しかないが、できるな?」
「ははっ! 吾輩の頭の中にはモンスターの生息地が全て入ってござる! なれば、容易に狩りができるかと思うでござる!!」
「某どもはブロッサム様の指示を受けて動くのみです」
魔獣軍団を見送る黒助。
そこにたまたま通りかかったイルノが、念のために確認した。
「あのぉ……。ブロッサムさんたちは、同種族で狩りをすることになるんじゃないかと思うですぅ……」
「確かに。ブロッサム。聞くが、その辺は問題ないのか?」
「まったく気にならないでござる! ご安心くだされ!!」
「そこは少しくらい気にしてあげた方が良いと思うですぅ……」
力強い言葉を残して、ブロッサム率いる狩猟班は魔獣の肉を調達するために出掛けて行った。
続いて、黒助はヴィネの肥料研究所へと向かう。
「おい。ヴィネ。聞くが。今、暇だったか?」
「はぁぁぁぁ! 今、ちょうど味噌の出来栄えを確認してたとこさ! 急に話しかけられるなんて、逝っちまいそうだねぇ!!」
「そうか。逝くなよ。お前に頼みたい事があって来た」
「あ、あたいにかい!? ついに体を弄ばれるのかい!? あたいは身も心も準備オッケーだよ!?」
「そうか。それは良いことだな」
良いことないので、弄ばない方向でお願いしたい。
黒助はヴィネの肩を掴んで、彼女に熱弁する。
「お前の作った味噌の味は悪くない。あの臭いピンポコ豆を見事に発酵させている。そこで、お前にはバーベキューの際に使うタレを作ってもらいたい。良質な肉と野菜を生かすも殺すもタレ次第だ。やってくれるか?」
ヴィネは震えながら答えた。
「はぁぁぁぁ! あ、あたいを頼ってくれるなんて!! 逝っちまいそうだよ!! 黒助の頼みなら、どんな事だって叶えて見せるさ!! ……ところで、バーベキューってなんだい?」
黒助は「なるほど。そこからか」と納得した。
コルティオールにバーベキューと言う概念をもたらしたのは、春日黒助である。
これは女神の泉にも記憶されている、公式記録だと付言しておく。
バーベキューパーティーは着実に近づいていた。
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