第3章

第62話 勢力拡大! 春日大農場!!

 最強の農家、春日黒助。

 彼は神だろうと構わずにぶっ飛ばす。


 魔の邪神・ナータも例外ではなかった。


「おっかしいわねー。全然見つからないんだけど? ちょっと、メゾルバー? そっちいた?」

「くははっ。女神よ、貴様何か勘違いしているな? 我が服従したのは春日黒助様とその一族よ。女神、貴様の指図など聞くはずがなかろう。くははっ、何ならこの場で亡き者にしてやってもいいのだぞ?」


 ミアリスとメゾルバの戦力差はコイキングとイワークくらいある。

 だが、ミアリスは慌てない。


 最近は柚葉や未美香と一緒にファッション誌を見ながら現世の服を創造して着こなす女神様は、スカートのポケットからスマホを取り出した。

 これは黒助から預かっているものであり、動画撮影モードに設定されている。



「別にわたしに何しても良いけどさ。あんた、その後で黒助に殺されるわよ?」

「うわぁー! 全然いませんね、本当に! どこまで飛んで行っちゃったんでしょうか!? あっ、地平線の向こうかな!? うふふふ!!」



 力の邪神・メゾルバは賢い脳筋と言う希少種。

 黒助のスマホを持つミアリスはコイキングからギャラドスに進化する。


 こうして平和な関係になった2人は、ナータの姿を探した。

 が、見つからない。

 当然である。


 ナータは虚無将軍・ノワールの影から生まれた存在であり、今はもう本体のノワールにその存在ごと回収されていた。


「困ったわね。ブロッサムの時みたいに、実はいたけど見逃しちゃったってパターンだと、あとから黒助に怒られるのよねぇ」

「くははっ。良いざまだな、女神よ」



「いや、あんたも怒られるのよ? むちゃくちゃ怒られるわよ?」

「くっ! ナータめ!! あの女、どこに隠れた!? 女神、我はあちらを捜索する!!」



 それから30分ほどくまなく森を探したミアリスとメゾルバ。

 結局成果はあがらなかったものの、「そろそろ良いでしょ」「であるな」と2人の間でセーフティゾーンに入った事を確認して、女神軍の陣に戻った。


 が、そこにはもう誰もいなかった。

 全員で農場に引き上げていたのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 春日大農場では、祝勝会が行われていた。

 本来ならば翌日以降の出荷分であるサツマイモとスイカを大放出して、黒助は戦ってくれた者たちの恩に報いる。


「ゲルゲ。焼き芋をどんどん量産しろ。なにせ数が多い。全員に行き渡らせるにはスピードが重要だ。ギリー。お前も芋を焼け。マグマの血液は使うなよ」


「ははっ! かしこまりましてございまする!!」

「おっしゃあ! 焼くぜ焼くぜ! 倉庫の中身を全部焼くぜぇ!!」


 先んじて、ケルベロスたちには備蓄されているサタンキャロットが振る舞われている。

 ゴブリンは生でサツマイモを齧っている。

 美味しそうに食べているので、それはもうそれで良いのだろう。


「ちょっとぉ!! 黒助ぇ! あんた、なんでわたしを置いて帰ってんのよぉ!!」

「ああ、ミアリス。戻ったか」


「そりゃ戻るわよ!! あんな鉄くずの残骸が残ってるとこになんかいられないわよ!!」

「そうか。ナータはいたか?」


「いないわよ! あんた、どこまでぶっ飛ばしたのよ!!」

「そうか。聞くが、ミアリス。鉄くずがあったと言っていたな?」


「言ったけど? 言いましたけど!? 不気味過ぎて秒で通過しましたけど!?」

「ふむ。聞くが」


 春日黒助。

 彼のメンタルは現世で最も強く、どんな時でも正常に機能する。



「ナータが死んだのならば、あの鉄くずは全て塵になって消えるのではないか? 現に、鉄人が消えていくのを見たと言っている。それが残っていたと言う事はだ。何らかの形でヤツが存在している証拠にはならんか?」

「ああ、なるほど! 言われてみればそうね! ……ってぇ、じゃあナータ生きてるの察しながらわたしを行かせたの!? 危ないじゃない!!」



 黒助は「だからメゾルバも随行させただろうが」と言って、ゴンゴルゲルゲの持って来た焼き芋の塩梅を確認する。


「よし。では、牛頭と馬頭。それからリザードマンに腹いっぱい食わせてやれ」

「ははっ! 拝承仕りましてございまする! ギリーよ! そしてブロッサム! 手を貸してくれ!!」


 量産される焼き芋。

 普段は肉食の牛頭と馬頭。

 リザードマンもそうだが、この紅はるかの味には抗えず、すぐに虜になった。


「黒助ってば! まだ話が終わってないんですけど!? わたしに何かあったらどうしてたのよぉ!!」



「お前に害が及ぶ前に駆け付けて、必ず守り抜くつもりだったが?」

「へぁっ!? ……あ、そうなの? ……わたし、スイカ切るの手伝って来るわね」



 イルノが冷やしたスイカをウリネが手慣れた動きで切っていく。

 その現場にミアリスも合流した。

 どうやら、何かフラグめいたものが立って、代わりに角が立っていたミアリスの心は丸くなったらしい。


「兄貴ー。とりあえず、ナータさんの事は放置で良いんじゃない? 今回の件で相当魔力を使ったから、当分はあんな軍勢作れないだろうってセルフィちゃんが言ってるし」

「なるほど。的を射ている。セルフィ。お前もご苦労だった。鉄人の首席補佐官の任をしっかりと果たしてくれたな。感謝している」


 セルフィは「だ、誰が! 補佐官じゃねーし!!」と言って、母屋の方へ飛んで行った。


「鉄人。あれはツンデレとか言うヤツで合っているか?」

「おっ! さっすが兄貴! 学習能力が高い! バッチリ合ってるよ!!」


 宴は日が暮れるまで続き、女神軍に参陣したモンスターたちは大いに満足した様子だったと言う。

 なお、放置されっぱなしのヴィネは「この素っ気なさ、逝っちまいそうだねぇ!!」と独りで発酵の勉強をしながら、時おり叫んでいたそうな。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日。


「わー! ホントになんか従業員がいっぱいいる! お兄、また仲間が増えたんだね! 良かったねー!!」

「未美香……。俺の農場をまるで自分の事のように……!!」


「当たり前じゃん! お兄の幸せはあたしの幸せだよっ!!」


 試験休みで暇を持て余していた未美香と一緒に異世界へ出勤して来た黒助は、感動のあまり過呼吸を起こして朝礼の開始が20分ほど遅れることになった。

 どうやら、未美香ならば黒助の息の根を止められそうである。

 恐らく、柚葉にも可能だろう。


「お前たち、おはよう。今日から、リザードマンが100といくつか農場で働くことになった。オーガたちは気を付けてやるように。それから、聞けばゴブリンの住む盆地が何者かによってクレーターにされたらしい」


 それをやったのは、力の邪神・メゾルバです。


「まあ、これも1つの縁だ。ゴブリンたちには農場の周りに住んでもらうことにした。従業員は敵だと勘違いして攻撃しないように。では、今日も頑張って農業に励もう! 解散!!」


 規模がさらに拡大する春日大農場。

 彼らは今日も元気に畑で働くのである。

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