第61話 魔の邪神・ナータの正体

 ミアリスが羽をパタパタさせながら飛んで来た。

 女神様の飛行速度はそれなりに速い。


 だが、それ以上に黒助の空中ダッシュが速過ぎるのである。


「はぁ……はぁ……。あ、あんた……。黒助、スピード違反よ……」

「ミアリスか。ちょうど良いところに来た」


「な、なによ? あれ? まさか、もう倒したの!? 魔の邪神を!?」

「知らん。とりあえず、全力で蹴ったら気味の悪い悲鳴を上げながらあっちの方に飛んで行った」


 ミアリスが周囲を確認すると、ナータの軍勢である鉄の兵士たちの一部がサラサラと塵になって消え始めていた。

 これは、ナータの魔力が供給されなくなったことによる現象であり、ミアリスは勝利を確信した。


「すごい! すごいわよ、黒助! さすがね!! 邪神、2人目撃破! やったわ!」

「そうか。……だが、心配だな。万が一ナータとやらが生きていたら、隙をついて畑にお礼参りを仕掛けてくるかもしれん」


「そ、そうね! 確かに、黒助の言う通りだわ! あんた、慎重で冷静な判断もできるようになったのね! 英雄としての自覚が芽生えて来たのかしら!!」


 黒助は「ああ」と答えて、さらに続けた。



「と言う事で、ちょっと見て来い。ミアリス」

「はいはい、分かったえぇぇぇぇ!? 危ないじゃない!! もしナータが生きてたら、わたし殺されちゃうわよ!?」



 黒助は「聞くが。先ほどお前は、ナータの撃破を認定したが?」と冷静な判断をする。

 ミアリスは「変に知恵を付けた分、なんかやりにくくなったわね……」と手の平を返すのであった。


「だが、確かにミアリスに死なれるのは困るな」

「へっ!? そ、そうよ! わたしだって立派な農業従事者なんですからね! いなくなったら、黒助だってちょっぴり困るでしょ?」



「いや。俺はミアリスを1人の人間として、死んでしまうと寂しくなると思っただけだが? お前とは一番付き合いが長いし、会話も弾むからな」

「ひ、ひやぁぁぁぁぁっ!! またこいつぅ! 急にイケメンムーブ仕掛けてくるぅぅ!! もうダメ、女神がしちゃダメな顔になりそう!! わたし、行って来る!!」



 そう言って、ミアリスは来た時よりもずっと速いスピードで飛び去って行った。


「くははっ。女神ともあろう者が、あれでは威厳もなにもないではないか」

「メゾルバ。お前、割と元気そうだな?」


「くははははっ! 我が主! 我の肉体は傷を負ってもすぐに自己修復するのです! つまり、完全に粉々にされでもしない限りは無敵!!」

「そうか。では、ミアリスを追ってお前も行って来い」



「くははっ。……は?」

「メゾルバ。俺はお前の事を完全に粉々にしたくはないのだが」



 力の邪神・メゾルバが姿勢を正して敬礼したのち、ミアリスに続いて飛び立った。

 代わりに、女神軍のユリメケ平原合戦に参加していた者たちが集まって来た。


「兄貴ー! お疲れー! いやー、やっぱり兄貴はすごいよ! もう、遠くから見てても迫力が違うもんね!!」

「鉄人……。聞いたぞ。俺のために時間を稼いでくれていたと。俺は得難き男を弟に持った。俺が4歳の頃、お前が生まれた。思えばその時に人生の幸運を使い果たしていたのかもしれん」


 春日兄弟、熱い握手で互いを称え合う。

 「そうそう」と鉄人が言った。


「このさ、寄せ集め女神軍ね。もしかして農場の従業員にならないかなーと思ってさ。兄貴に見てもらおうと思ってたんだよ」

「……お前は天才だ。神が今、腰を抜かしているだろう。神を越える男の存在にな」


 そこから、黒助のワクワクドラフト会議が始まった。


「ギリー。牛頭ごず馬頭めずについて聞くが。こいつらの炎を消す事は可能か?」

「いやー。ちょっと難しいっすわ。こいつら、元々燃えてるのが基本なんす」


「そうか。残念だな。いい筋肉をしていたのだが。ゲルゲ。お前の燃えなくなった精神力について俺の中で評価が上がった。今日からサツマイモ2本余計に食って良いぞ」

「ぬぉぉ!! ありがたき幸せ!! この火の精霊・ゴンゴルゲルゲ! 生涯燃えませぬ!」


 火の精霊のアイデンティティがなくなった瞬間である。


「ゴブリンは使えそうだな。単純作業をさせる時には呼び出そう」

 ゴブリン、ドラフト5位で春日大農場に就職決定。


「ケルベロスは既に1匹飼っているから良いか。おい。ブロッサム。聞くが、このケルベロスの背中に乗っているトカゲともワニとも言えん微妙な生き物はなんだ?」

「ははっ! こやつらはリザードマンと申しまして! 気性は穏やかながら、力が強く体力もござる! 我が眷属なので、魔王様に与することもござりません!!」



「よし。リザードマンたち。野菜は好きか? 嫌いなら好きにさせてやる。好きならもっと愛せる職場がある。明日から、うちで働け」

 リザードマン、ドラフト1位で黒助が交渉権を獲得。



 なお、就職拒否と言う選択は用意されていないので彼らは無言で運命を受け入れた。


「合戦と言うのも存外悪くないな。従業員を増やす機運になるとは」

「兄貴のカリスマ性の成せる技だよ! 自信もって!! 兄貴、ステキ!!」


 黒助から「欲しがっていたプレステ5とか言うの、買って良いぞ」と報酬を得た鉄人も実に嬉しそうであり、こうして魔の邪神・ナータを退けた春日大農場なのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うっ、ううっ……。油断をしましたわね……。まさか、たった一撃でこのような……!!」

「無様な姿ですわね。ナータ様」


 森まで吹き飛ばされたナータは、岩肌にもたれかかっていた。

 そこに現れたのは、虚無将軍・ノワール。


「の、ノワール! あなた、来てくれたのですわね!」

「ええ。ナータ様。いえ、ナータ。所詮、影は影なりの仕事しかできないのですわね。期待していたのに、これにはガッカリですわ」


「ノワール? 何を言っているの?」

「まだ自分の正体にも気付けていないだなんて。笑えませんわ。まあ、冥途の土産と言うものも1つくらいは持って消えたいでしょうから、教えて差し上げますわ」


 ノワールは表情を変えずに言う。

 その目は、生き物を見つめるものではなかった。


「あなたは私の影から生まれたのよ、ナータ。100年前はよく働いてくれたけれど、どうやら消費期限切れのようね。再び私の中にお戻りなさい」

「ひっ、嫌! 嫌よ! わたくしは魔の邪神・ナータ!! 影なんかじゃな……い……」


 ナータを吞み込んだノワールの影。


「まだ、私が出るまでもありませんわね」


 そう呟いた彼女は、どこかへと消えていくのであった。




 ——第2章、完。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 拙作にお付き合い下さっている読者様、ごきげんよう。

 カクヨムコンもいよいよ終盤戦に差し掛かり、拙作はかなり厳しい状況になっております。


 やはり異世界ファンタジーの壁は高く厚く、初挑戦にも関わらず王道から外れたあぜ道をトボトボ歩いている拙作は、収穫を忘れられたきゅうりのようにやせ細っております。

 とは言え、ニッチなテーマで走ると決めた以上は完結までひぃひぃ言いながら疾走するのみでございます!!


 まずは読者様にこれまでのお付き合いに感謝いたしまして、今後のご愛顧を賜りたいとお願いを申し上げて結びとさせて頂きます。

 と、ここまで書いていて気付きましたが、肝心なお願いを忘れておりました!


 よろしければ、☆と作品フォローによるご支援をお願いいたします!

 今画面の前におられるあなた様の一票で拙作が生き残るかもしれません!!


 さて、熟れ過ぎたスイカのようにグズグズな感じになりましたところで、今度こそ結びとさせて頂きます。


 明日から3章!

 フルスロットルで書いて参りますので、よろしくお願いいたします!!

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