第58話 いざ合戦! ユリメケ平原の戦い!!
ユリメケ平原の西から、魔の邪神・ナータの軍勢が姿を見せた。
その行軍は堂々としたものであり、「何かできるものならやってみればいい」とでも言わんばかりの余裕すら感じさせられた。
「じゃあ、ミアリスさんはそろそろ兄貴にこの事態を伝えに行ってもらえます? 多分、まだヴィネさんとこで発酵について色々話してると思うんですよね。兄貴、集中力が凄いから。恐らく全然気付いてないと思います。あっはっは!」
春日大農場から20キロほど離れた、平原のど真ん中に春日鉄人はいた。
そこには女神軍の主力が春日黒助と死霊将軍・ヴィネを除いて集結している。
「結局黒助を呼ぶのね。てっきり鉄人がどうにかするのかと思ったわ」
「またまたー! 女神様、冗談キツいですって! 僕みたいなモブニートに魔王軍の邪神様をどうにかできるわけないじゃないですかーやだー!! 精々時間稼ぎと、兄貴が気持ちよく敵をボコれるようにささやかなお手伝いをするだけですよ!」
ミアリスは「その落ち着き方は、間違いなく黒助の弟ね。あんたも……」と呆れながらヴィネの肥料研究所へ向かって飛び去った。
「しかしよ、鉄人さん。ここにゃ、ゴブリンとケルベロスしかいねぇぜ? ナータの軍勢は2000近いって言うじゃねぇか。数で負けてるし、兵の質で行くと計算するのも悲惨だと思うんだけどよぉ?」
「吾輩もギリーの意見を肯定するでござるよ。ケルベロスは強靭な魔獣であるが、数が50しかおらぬのでは、さすがに厳しいでござる」
元五将軍の2人は、ちょっと前まで魔王軍でブイブイ言わせていただけあって、状況の把握が的確だった。
「何を申すか! 我らが軍師、鉄人殿の事であるぞ! さぞかし高尚な策を用いられるに決まっておろうが!!」
「ボクもねー! てっちゃんならやれると思うなー!!」
四大精霊チームは春日家に全幅の信頼を置いているため、鉄人の余裕の表情を見て安心している。
安心して「この身を軍師殿に預けよう」と決めていた。
なお、イルノはトマトの世話が忙しいのでオーガたちと共に農場にてお留守番である。
「セルフィちゃん。質問なんだけどさ。敵の兵士の魔力って察知しているよね?」
「は? 当たり前なんですけど。ウチにかかればよゆーだし」
「さすがぁ! 僕も何となく感知できてるんだけどさ。敵の兵士、そこそこバラつきはあるけど、1体の戦闘力を1と数値化したら、ゲルゲさんが6くらいで合ってる?」
「……合ってる。なんなん、あなた。マジでキモいんだけど」
「ぐーっはは! ワシ1人で1度に10は受け持ちますぞ!!」と力こぶを作るゴンゴルゲルゲを見て、ギリー&ブロッサムが気付いた。
「あ、あれ!? もしかすっと、オレらも普通に戦う流れっすか!?」
「ゲルゲ殿を基準としたのは、自軍の最小値だからでござるか!?」
鉄人はテストで良い点を取った生徒を褒める教師のようにニッコリと笑って、親指を立てた。
それから、端的に指示を出す。
「この本陣はぶっちゃけ囮です。セルフィちゃんと僕だけでいいんで。ギリーさんは北側から
「う、うっす。こうなりゃ、やってやらぁ! 黒助の旦那を相手にした時の事を考えれば、なんか全然余裕な気がして来た!!」
「ギリーよ、共に参ろうぞ!! ワシの炎とお主のマグマで敵を焼き尽くすのだ!!」
右翼を担当する2人が、牛頭と馬頭を引き連れて本陣から離脱する。
「と言う事は、吾輩は南側でござるか?」
「プロッサムさんは察しが良いなぁ! ズバピタっす! リザードマンをケルベロスたんに乗せて、機動力の底上げよろしくです! ウリネさんもお手伝いしてあげてください!」
「分かったー! てっちゃん、気を付けてねー! 頭が良いけど、体は人間なんだからー! 敵の攻撃受けたら死んじゃうよー!!」
「あざーす! 死なないように隠れておくんで、大丈夫です!」
左翼には、リザードマンを主力にした重装兵をケルベロスで機動力アゲアゲ部隊を配置。
本陣はすっかり寂しくなってしまった。
「キィ! ケェキィキィィィ!!」
「あっはっは! ゴブリンさん、マジで何言ってんのか分かんないや!!」
残ったのは、ゴブリンが500匹とケルベロスが3匹。
そこに空飛ぶギャルと流浪のニート。
ゴブリンのおかげでパッと見た際に数がそこそこ揃っているように見えるのは救いだが、その実は非常に心許ない。
「……あー。これはウチ、死んだかもだし。最悪なんだけど、鉄人と死ぬとか」
「僕は死ぬなら可愛いギャルと一緒がいいから、セルフィちゃんにしがみついておくよ!!」
「ちょ、ヤメろし! くっ付くな!! あなた、状況分かってんの!?」
「なんか大勢の悪いヤツらが、僕の兄貴の大事な農場を襲おうとしているので、気の利く弟がちょっとだけヤンチャしようとしてる感じ?」
「……あー。未美香と一緒にパンケーキ食べに行く約束してたのに。なしだわー」
「えっ!? それ、僕もついて行っていい!?」
「いや、来んな!」とセルフィ。
鉄人の表情にはまったく緊張の色が見られず、その分、セルフィが不安そうに表情を暗くしていた。
「くははっ。さすがは我が主の弟君よ! よもや、我にノータッチとは!! 傾きおるわ!! 我の力をもってすればナータの軍勢など、単身で撃破できるゆえの余裕か! くははっ!! くははははっ!!」
力の邪神・メゾルバ。ひっそりと、味方にすら気付かれず本陣に居残りしていた。
それから15分。
鉄人は平原の先に鉄の兵団の姿を捉えた。
「さて。それじゃ、やるだけやってみようかなー。いやいや、信長の野望と銀河英雄伝説の一気見がここで火を噴くぞー!! もうね、イケる気しかしない!!」
「……パンケーキ。食べたかったし」
セルフィの飛行魔法により、鉄人の体が地上から3メートルほど浮き上がる。
開戦の時、
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、ヴィネの肥料研究所では。
「おい。ヴィネ。聞くが、コルティオールのピンポコ豆と言うものはこれほどまでに臭いのか? 農協の岡本さんの頭皮みたいな匂いがするのだが」
「はぁぁぁ! そいつは腐ってんだよ、黒助!! 何も恐れずに腐敗したものを口に入れるその姿! 逝っちまいそうだねぇ!!」
コルティオールでその辺に生えている豆。
その名もピンポコ豆を使った、味噌づくりに着手している黒助。
新たなコルティオール産の作物で柚葉の大学の入学金をゲットしようと、彼は本気だった。
余りにも本気だったせいで、春日大農場に襲い掛かかろうとしている悪の手に気付いていない。
鉄人の見立て通りであった。
既に6時間ぶっ通しで、ヴィネの『エビルスピリットボール』による発酵食品の生産に取り組んでいる春日黒助。
そこにミアリスがやって来るのは、もう30分ほど先の事である。
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