第57話 迎撃準備! 鉄人(ニート)の軍勢!!

 ギリーとブロッサムはコカトリスの養鶏場にいた。


「ブロッサムの旦那。こっちのサタンキャロットの山、どうしたんだ? 全部仮死状態になってやがるじゃねぇの。旦那、こんな器用な事できたっけか?」

「それをやったのは吾輩ではない。現世より参られし、達人の御業よ」


 ギリーは「ヒュー」と口笛を吹いた。

 続けて「それって、もしかすると黒助の旦那の血族かい?」と聞いた。


 ブロッサムは首を横に振る。

 確かに黒助の関係者だが、血族ではないらしいと彼は知っている。



「いわく、その御仁の名は。農協の岡本さんでござる」

「マジか。黒助の旦那以外にもすげぇ人がいるんだなぁ。農協ってのは武術の名前か?」



 ブロッサムも農協については何も聞かされていない。

 よって、彼は自分の推論を若き鬼人に聞かせる事にする。


「吾輩が察するに、農協と言うのは現世の戦士養成所ではないかと睨んでいるのだが。岡本さんなる達人は、ニンジンなら毎日手入れしていますからねぇ、と申されていたでござる」

「マジかよ。毎日サタンキャロットを捌いてんのか。確かに雑魚モンスターだがよ。普通の人間にどうこうできるもんじゃねぇだろ!?」


 ブロッサムは「本当に現世って怖いでござるなぁ」と応じる。

 ギリーも「マジでな。オレ、コルティオールに生まれて良かったわ」と頷いた。


 2人で岡本さんが完全に捌いたサタンキャロットをコカトリスに与えていると、鉄人が飛来した。

 もちろん、セルフィも一緒である。


「これは、鉄人殿。珍しいでござるな。このような場所に参られるとは」

「鉄人さんもコカトリスの様子見に来たんすか?」


「いやー。それがですねー。ちょっとお二人に協力してほしい事がありまして!」


 鉄人は慌てず騒がず、現状について端的に説明した。

 何やら、大軍勢が春日大農場に向かって侵攻して来ている事実。

 それに対するこちらの用意を整えたい旨。


 まず、ギリーが気配を探る。


「うおっ! マジだ! なんかすげぇ量の……なんだ、こりゃ? 魔力ってのは分かるけど、実体が掴めねぇ。フワッとしてんなぁ」


 ギリーは基本的に攻撃特化の能力であり、索敵には向いていない。

 そこでブロッサムの出番である。


 彼はそれなりの経験とそれなりの感覚を持ち、魔王軍五将軍の中で「それなりに戦えるしそれなりの何でもできるヤツ」と呼ばれた男。

 すぐに「ぬっ!? この魔力は、まさか!!」と、いかにもな反応をして見せた。


「知っているのか、ブロッサムの旦那!?」

「う、うむ。聞いたことがある……! 魔王三邪神の1人。魔の邪神は、かつて戦いに散った魂を意のままに従える事が出来ると……!!」



「旦那……!! なんかそれ、ヴィネ姐さんと能力かぶってね?」

「よせ、ギリー! 多分そこは触れてはならぬ禁忌でござる!! 消されるぞ!!」



 ひとしきりリアクションを取り終えた2人は、鉄人の要請に応じる用意を開始した。

 つまり、彼らの眷属の招集である。


「ギリーさんとこの鬼人軍団は足が速いんでしたよね?」

「おう、そうだぜ鉄人さん! 牛頭ごず馬頭めずもスタミナとスピードどっちもあるからよ! あとはゴブリンだが、こっちはレッドキャップに引っ張ってこらせりゃ、そうだな。3時間もあればこの辺に集められるぜ!」


「おお、それはすごいですね! 是非手配してください! なるはやで!!」

「うっす! オーガどもに伝令させっか! んじゃ、ちょいと行って来ますぜ!」


 ギリーは脚を魔力で強化して、猛スピードで駆けて行った。


「吾輩の眷属はちと時間がかかるでござるよ。ケルベロスたちは呼べば1時間でやって来るが、リザードマンどもの足が遅く……。鰐の沼からここまで、半日はかかるかと」


 鉄人は「んー。それじゃ遅いなぁ」と呟いて、少し考えてから言った。


「ケルベロスたんにリザードマンを乗せるのはどうですか? ほら、ケルベロスたんってデカいから! リザードマンはそれより小さいでしょ?」

「……ううむ。確かに、それは可能かと思われるでござる! しかし、鉄人殿。よくそのような策を思い付かれますな!!」


「いやー! ニートって日頃から色々考えてるんですよ。何も考えてないように見えるかもですけど、あれって色々考えすぎて一周回った後ですからね! これはホント、世の中に広めていきたいなぁ!!」


 なお、これは鉄人個人の感想であり、発言の責任は全て鉄人にあるものとする。


「グアオォォォォォォ!! グォアァァァァァァァッ!!!」


 ブロッサムが吠える。

 この咆哮は、魔獣軍団に対する指令の合図。


 魔獣将軍の特殊な魔力と一緒に叫ぶことで、簡単な意思疎通ならば100キロ離れていても可能だと言う。


「さーて。じゃあ、セルフィちゃん。次に行こうか」

「黒助様んとこ行くの?」


「いやー。兄貴のところには行かないかなー。今日は発酵についてヴィネと相談するのだ! ってウキウキだったし? 邪魔しちゃ悪いじゃん?」

「は? じゃあ、黒助様抜きで邪神と戦うん!? いや、無理でしょ、普通に!」


「そりゃ無理だよ! 兄貴が気付いて帰って来てくれた時に、まあそれなりに場を整えてたらさ。後は兄貴がどうにかしてくれるよ。昔から、僕の兄貴はすごいんだ! それまでの時間稼ぎくらいは、雑魚キャラの僕が引き受ける事案じゃない?」


 セルフィは呆れたように呟いた。


「……カッコつけてさ。男ってそーゆうとこ、ホントバカだし」


 それから2人は、トマト畑の方へと飛び立つのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 トマト畑にはミアリスとイルノ、ゴンゴルゲルゲが揃っていた。

 ウリネが伝令をしてくれたらしく、だいたいの事情を把握していた女神と四大精霊。


 そこに、鉄人が「ちょっとメンツ集めてるんで!」と現状を共有する。


「鉄人、あんたいつの間にそんなネットワーク広げてたの? やっぱ春日家の人っておかしいわね」

「よもや、モンスターと共闘する事になろうとは! 思いもよりませんでしたな!!」


 軍師と言う名のニートの手腕に感服するミアリスとゴンゴルゲルゲ。

 そこにイルノがやって来た。


「鉄人さーん! お連れしましたですぅー」

「ああ、良かった! 頼りにしてますよ!!」


 イルノが連れて来たのは、農場に加入して最も日の浅い男。



「くははっ! 我が主の弟君!! 我を指名するとはお目が高い! 確かに我は、魔の邪神・ナータの事をよく知っておりますれば、お役に立てるかと! くはははっ!!」

「いやぁ! さすが力の邪神! もう発言からして力強さが無料で垂れ流されてるもんなぁ! うわぁ、ステキ! もしかして、独りで軍勢を倒しちゃうかもだわー!!」



 農業の経験値は低くとも、戦闘の経験値はガチ盛りな男。

 名を、力の邪神・メゾルバと言う。


 それからさらに準備を進めて、4時間が経過。

 魔の邪神・ナータの軍勢が春日大農場のあるユリメケ平原へ到達するまで、残り約2時間。

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