家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第56話 魔の邪神・ナータ、春日大農場へ向けて出陣する
第56話 魔の邪神・ナータ、春日大農場へ向けて出陣する
その日がとうとうやって来た。
春日大農場にとっては、いつもと変わらない1日。
だが、魔の邪神・ナータによる大侵攻が決行されようとしていた。
「いいわね。鉄の兵士たち、仕上がっているわ。2000には届かなかったけれど。いくつになったのだったかしら? ノワール?」
「1872体です。ナータ様」
「充分過ぎるほどの戦力だし、まあこれで良しとするわ。相手の農家がどれほど強くても、2000に迫る大軍勢を相手に1人では戦えないでしょう?」
「おっしゃるとおりですわ。ナータ様」
ナータは「うふふ」と口元を歪ませて、舌なめずりをする。
「魔王様に伝えておいてくれるかしら? 今宵は祝勝会をするから、上等のワインと純度の高い魂をたくさん用意しておいてくださいましと」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
ナータの率いる鉄の巨兵たちは、隠れることも急ぐこともせずに、ただ堂々と進軍を開始した。
圧倒的な大軍を率いれば、そこに策など不要。
ただ、力をもって標的を蹂躙するだけなのである。
「待っていなさい。女神軍。そして、異次元の農家……!」
魔の邪神・ナータが春日大農場へ到達するまで、あと6時間。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい。ヴィネ。聞くが、お前の『エビルスピリットボール』で発酵食品が作れるのか?」
「いきなり来たかと思えば、全然意味の分からない事を聞いてくるなんて! ああ、黒助は最高だね! あたいは逝っちまいそうさ!!」
春日黒助は朝一番からヴィネの肥料研究所にやって来ていた。
昨日、春日家の夕食で未美香がヨーグルトを食べながら言ったのだ。
「学校で習ったけどさ、発酵と腐敗って似てるんだってー。ヴィネさんに頼んだら、納豆とか作れるんじゃない? ねー、お兄?」と。
黒助は膝から崩れ落ち「俺の妹は天才だったか……」と、神に感謝したらしい。
そうと決まれば、即断即決。
早速、ヴィネのところへ行かない理由を彼は知らない。
「発酵って言うのがどういう現象なのかイマイチ分からないからねぇ。あたいも黒助の役に立ちたいけど、その過程で作物を無駄にしたら、あんた悲しいだろ?」
「お前。俺の考えをよく分かるようになってきたな」
「ほ、褒められた……!! ああ、逝っちまいそうだよ!!」
「そうか。とりあえず、まだ逝くな。用が済んでいない」
黒助は現世から持って来た本をヴィネに手渡した。
それは『図解でよくわかる発酵のきほん』と書かれていた。
鉄人に相談したところ、「オッケー! すぐ注文するよ! アマプラ入ってるから! お、在庫あるよ。明日の午前中に届くってさ」と、とんとん拍子で教本をゲットした。
黒助は「アマプラとやらは凄いな」と、スマホをスッスとやるだけで翌日ちゃんと本が届いた事実に、少しばかり恐怖したと言う。
「それを読んで、しっかり学んでくれ。鉄人が言っていたが、コルティオールの言語は統一されているため、現世の文字もこの世界で問題なく読めるだろうと言う事だったが。どうだ? しっかりと読めるか?」
黒助は続けて「ここが目次だ」とヴィネの肩越しに指さした。
「は、はぁぁぁん!! あ、あんた、ボディタッチを……! 死霊将軍のあたいの肌に触れても平気だなんて、やっぱり黒助は最高だねぇ!!」
「そうか。逝くなよ」
それからしばらく、ヴィネと一緒に発酵について学ぶ黒助である。
彼は魔力を感知できるようになったが、まだ集中していないとその力は不安定。
よって、ナータの軍勢の侵攻にまだ気付いてなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、母屋では。
「……なんで鉄人はさ。最近、毎日来るん?」
「あらー! セルフィちゃん、僕の事が気になっちゃう? フラグ立った!?」
「うざっ。きもっ。別に、あんたが来ようとどうでもいいし! だけど邪魔なの! そこでそうやって寝そべってられると!!」
「いやー。だって僕、スプーンより重いものって持てないからさ。非力な僕は寝そべって1日を過ごすんだよねー」
ちなみに、縁側で寝そべっている者がもう1人いる。
彼女は土の精霊。興味のある事にはすぐ熱中する、元気っ子。
「てっちゃん! これ、たのしーね! でぃーえすってヤツ! マリオっておじさんが強いんだー!!」
「ウリネさんが気に入ってくれた良かったー! ゲームで遊ぶ合法少女キタコレ!!」
鉄人はハードオフでジャンク品コーナーにあったニンテンドーDSを購入し、適当に修理して使用可能な状態に復元していた。
彼いわく「ニートはこれくらいできないとやってられないよ」との事。
それをウリネに与えたところ、ものの見事にハマった。
彼女は『大地の祝福』を使っていれば並行して何をしていても黒助には咎められないため、鉄人との相性が極めて良いのだ。
「……うっざ。あーあ。ウチ、ミアリス様のとこ行ってこよ」
ふわりと浮き上がったセルフィの手を、鉄人が強く握った。
彼女はバランスを崩して、鉄人の方へと倒れ込む。
「な、な、なぁ!? て、鉄人、ヤメろし!! 何してくれてんの!?」
「いや、ごめんねセルフィちゃん。ラブコメ展開はウェルカムなんだけどさ。ちょーっと妙な魔力を感じない? しかも、すごい数の」
「はっ? ……うわ、マジだし。いや、えっ? なんで鉄人がウチらより先に気付くの!? あなた、人間じゃん? 意味分かんなくてキモいんだけど!?」
「いやー。ニートやってるとね、色々と気配を察知できるようになるんだよねー」
鉄人は縁側に別れを告げて、立ち上がる。
「てっちゃん、どうするのー? ミアリス様たちのとこ行くー?」
「そっちはウリネさんに任せていいかな? 僕はちょっと、人を集めて来よう。セルフィちゃんと一緒に」
「はっ? なんでウチがあなたと一緒に」
「結構移動しないといけないからさ。セルフィちゃんなら僕も飛ばせてくれるじゃん?」
セルフィは非常に不本意ながら、四大精霊としての役割を全うする事を選んだ。
ミアリスの再三の招集要請を無視して好き勝手にしていた彼女だったが、そのスタイルは返上したらしい。
これが、農業による更生である。
「……で? どこ行くん? はぁ。だるっ」
「まずはギリーさんとブロッサムさんのとこかな。時間はあるようで意外とないからねー。知ってる? ニートにとって6時間って実質2時間くらいだからね?」
意味不明な理屈で時空を歪める鉄人。
だが、彼の計算したナータの軍勢が到着するまでの猶予は、ビタビタにハマっていた。
軍師・春日鉄人(ニート)。敵軍の襲来に対して、ゴン攻めはできるのか。
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