第54話 それっぽく暗躍する軍師・春日鉄人(ニート)
母屋では、鉄人がくつろいでいた。
彼はくつろぎながら、コミュニケーションを広げていく。
この能力がなければニートとして長く活躍はできないのだと彼は言う。
「ギリーさん! ちょっと聞きたいんですけど、いいですか!?」
「鉄人さんの質問なら、何でも答えるに決まってんじゃねぇか! 旦那の弟だぜ?」
「またまた、さん付けなんてよしてくださいよ! 僕、19ですよ!」
「それを言うなら、鉄人さんは女神軍の軍師だろ? 階級が上なら、歳が何歳でも変わんねぇよ! で、何が聞きてぇんだい?」
鉄人は「それじゃあ、この件はまたの機会に」と言ってから、本題に移る。
「ギリーさんって鬼人将軍じゃないですか? 鬼人軍団ってオーガさんたち以外にもいるんでしょう?」
「おう! いるいる! いますぜ!」
「それって、今でもギリーさんの言う事を聞いてくれますか?」
「お、おう。鉄人さん、割とデリケートなところにぶっ刺してくるな……。さすが、旦那の弟だぜ」
「ああ、やっぱり魔王軍だから、ギリーさんより魔王さんの方に従属してる感じですか?」
ギリーは「いやー。痛いとこ突かれちまったなぁ」と頭をかく。
だが、鉄人の質問には丁寧に答える、義理堅い鬼人。
「オレに今でも服従してくれてんのは、
そう言い終わって、「ああ、すまねぇ。鉄人さんにモンスターの名前言っても分かんねぇよな!」と気付くギリー。
だが、鉄人は「ああ、大丈夫です」と答える。
「牛頭と馬頭は、あれですよね? 地獄の極卒でしたっけ? 分かりやすくていいですよね。名前がね! ゴブリンはもうね、オタクやってたら知らないヤツはいませんから!!」
「ええ……。黒助の旦那とは別の方向で鉄人さんもヤベーな。なんでそんなに詳しいんすか……」
その後、鉄人は「それぞれ何人くらいの規模ですか?」と質問を続けた。
ギリーは聞かれた事に偽りなく応答する。
「牛頭と馬頭はそれぞれ100に行くかどうかって数かなぁ。ゴブリンは500くらいいるんすけど、あいつら知性がねぇんすよ。レッドキャップって言う上位種は頭が切れるけど、こっちは多分20もいねぇと思うっすわ」
「なるほど。勉強になります。例えば、牛頭とか馬頭にゴブリンの指揮を取らせたりしたらどうなります?」
「いやー。どうかな? んな事、考えたこともねぇんで。でもまあ、ゴブリンどもは相手の力量を測るのは早いんで、多分統率はとれるんじゃねぇかと」
鉄人は「ありがとうございました!」と頭を下げて、今度は縁側で未美香の差し入れである梅昆布茶を飲んでいるブロッサムのところへ向かった。
そこでも、同じような質問する。
ブロッサムも正直に魔獣軍団の実情を彼に語った。
現状、ケルベロスが50匹。コカトリスは大半が養鶏場にいるため戦力外。
リザードマンはブロッサムの親戚みたいなものらしいので、一族を挙げて従うだろうと彼は言う。数は約120。
ブロッサムは魔獣将軍の座に就いてそれなりに長いが、前任の狂竜将軍・ガイルが五将軍にいるため、大半の魔獣軍団はそちらに引き取られていた。
その理由は鉄人に語られなかったが、それでも求めている情報は充分に得たニート。
◆◇◆◇◆◇◆◇
次に鉄人は、風のギャル精霊に狙いを付けた。
「セルフィちゃん! ちょっとお出掛けしよう! おおい、セルフィちゃん! セルフィちゃん! セルフィちゃんってば! セルフィちゃん!!」
「ああ、もう! うるさっ!! なんなん、鉄人!? 普通さ、2回くらい無視られたら、諦めるくない!? しつこいっ!!」
「でも、結局返事してくれたじゃない! セルフィちゃんのそういう優しいとこ、僕は好きよ!」
「は、はぁ!? うざっ! ……で、なに?」
「ちょっとヴィネさんのとこに行きたいんだけどさ。連れて行ってくれない? ほら、僕って土地勘ないし? しかも非力だからさ。うっかり魔王軍と出会ったら死んじゃう!!」
「なんでウチが……。他のヤツに頼めばいーじゃん」
「僕はセルフィちゃんと一緒がいいんだよなぁ!」
「はっ? バカじゃん!? つか、バカだし!! うっせーし! バーカ、バーカ!!」
口では散々に鉄人を罵ったくせに、結局同行するセルフィちゃん。
その道中で、セルフィは鉄人の行動の意味を聞いた。
「しょうもない理由だったら、さっさと帰ろ」と思いながら。
「いやー。ほら、兄貴の農場が順調じゃない? でさ、何かが順調な時って、大概ね、面倒事が変な方向からやって来るものなんだよねー」
「いや、意味が分かんないし。それとあなたの散歩と何の繋がりがあんの?」
鉄人は「ふふふ。知りたい?」とにっこり笑った。
このような言い方をされると、セルフィの返答は決まっている。
「べ、別に知りたくねーし! 自意識過剰なんじゃん!? バーカ!!」
「あららー。それは残念。お、見えて来た! セルフィちゃんのおかげで無事に着いたよ! ありがとねー!」
それから鉄人は、ヴィネにも前述の元五将軍2人に聞いたものと似たような質問をするのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
2つの太陽が山の向こうに沈んでいく。
「よし! 今日の作業はここまでだ。各人、汗を流してしっかり飯を食え! おい、そこのオーガ! 勝手に残業するな! 明日もあれば明後日もある! 翌日の仕事は翌日のお前に任せて、今日のお前はとっとと休め!!」
黒助の号令が響き、春日大農場は業務終了。
最近では料理の得意なオーガが食事を作るようになっており、従業員たちの生活も向上し始めている。
「鉄人。何やら今日は色々と動いていたが、どうかしたのか?」
「いやいや、兄貴の邪魔しないようにちょっとね! 明日の僕がのんびり暮らせるように、今日の僕がちょっとだけ頑張ったんだよ!」
「なるほど。サッパリ分からんが、お前の言う事は全て肯定するのが兄としての務めだ。ご苦労だった。さあ、帰って食事にしよう。今日はシチューだと柚葉が言っていたぞ」
「おー! いいね、シチュー! よーし。今日はシチューがご飯のオカズになるかどうかで、いっちょレスバしますか! 勝つぞー!!」
こうして、春日鉄人の1日も終わりを迎える。
彼は働くことに意味を見出せないでいる。
だから、ニートとして毎日を怠惰に過ごすのだ。
明日の怠惰のために、少しだけ勤勉だった今日の鉄人。
彼は無駄な努力を親の仇のように憎んでいるので、恐らく全てが有益なのだろうと思われた。
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