第51話 コカトリスの養鶏場を作ろう!

 その日、ミアリスによって新しい施設が春日大農場に創造された。

 今回の施設の責任者は、魔獣将軍・ブロッサム。


「できたわよー。ったく、あんたが来てからこっち、戦いに使うものよりも農業に使うものを圧倒的に創ってるんだけど。女神の力を乱用してさー」

「すまんな、ミアリス。いつも助かっている」



「あんた。そうやってイケメンムーブしてれば何でも許されると思ってるでしょ?」

「イケメン? それは別の男を形容する時に使え。可愛いやカッコいいはやたらと使うと言葉の重みがなくなる。その論調でいけば、ミアリスは可愛らしいと思うがな」



 その後、女神様は地面に伏せて、ジタバタと転げ回った。

 それを普通にスルーして、施設の視察に移る黒助。


「ブロッサム。どうだ? できるだけ大きく作ってくれとミアリスに頼んだのだが。これでコカトリスの養鶏場として機能するか?」

「はっ! 吾輩もコカトリスの卵を食用にしようと思った事はないでござるが、これほどの設備が整っておればストレスなく過ごす事ができるかと思うでござる!!」


 コカトリスの卵を現世で売ろう。

 この黒助のアイデアは、誕生まで遡るとブロッサムが攻め込んで来た日まで戻らなければならない。


 構想から時間はかかったが、ついに実現されるコカトリス農家。


「それで、コカトリスはどこにいる?」

「普段は魔獣の森にて過ごしてござります。吾輩が呼べば群れで襲い掛かって来ますが」


「バカタレ。襲い掛からせてどうする。新しいスイカの定植を控えているのに。どうにか穏やかに連れて来い」

「こ、これは申し訳ないでござる! では、現地に赴くしかないかと」


 黒助は「そうか」と答えて、少し考える。


「聞くが。その魔獣の森とやらはここからどの程度の距離がある?」

「人間の足ですと、1日ほど歩けば着きますが」


「遠いな。だが、お前だけを行かせて、そこを魔王軍のバカタレに襲われでもしたら困る。既にブロッサム。お前はうちの農場の大事な戦力だからな」

「く、黒助様……!! なんと言う……吾輩ごときにもったいないお言葉を……!!」


「よし。飛んでいくか。確かお前、何とか言うアレで、ほれ。羽が生えただろう?」

「は、はっ! 確かに、『狂獣進化トランスフォーム』で怪鳥の翼を生やす事は可能ですが。黒助様、吾輩には貴殿を背負って飛べる距離に限りがございまして、その……」


 気まずそうなブロッサム。

 「分かった」と返事をした黒助は、彼を残して母屋に向かった。


「おい。セルフィはいるか?」

「クロちゃんだー! セルフィ、いるよー!!」

「ちょ、なんで言うかな!? ……あー。はい。なんですか、黒助様」



「ちょっと魔獣の森まで行くから、俺を飛ばしてくれ」

「マジで意味分かんないし。この人に常識ってないん?」



 有無を言わさぬ迫力で押し切って、セルフィを母屋から引っ張り出す黒助。

 ブロッサムのところへ戻れば、準備完了。


「よし。では行くか。ブロッサム。変身する時は周囲に気を配れよ」

「ははっ! ふぅぅぅぅ……。『狂獣進化トランスフォーム』……」


 静かに狂獣へと姿を変えるブロッサム。

 続いてセルフィに黒助は指示を出す。


「セルフィ。お前は俺を浮かせてくれるだけで構わん」

「や。浮かせるだけ? それだとあなた、この場所で風船みたいになるだけなんですけど?」



「構わん。俺は自力で空中を蹴って進む。ただ、浮くのは億劫だ」

「最近、ミアリス様の言う事が分かって来たし。この人は理屈考えちゃダメだわ」



 3人は、魔獣の森へ向けて出発した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 有言実行。空中を蹴って宙を走る黒助。

 その後ろに続くのが、魔力を膨大に消費する『狂獣進化トランスフォーム』を常時発動させているブロッサム。


「は、はあ……ふう……。げ、げふっ……」


 そろそろ目的地だが、ブロッサムは割と簡単に死にそうである。

 そのさらに後方を、涼しい顔で飛んでいるセルフィが続く。


「む。なんだ、あのクレーターは」

「ふげ、はぐぅ……」


「ブロッサムは忙しそうだな。セルフィ。分かるか?」

「あー。多分ですけどぉ。誰かが魔力の塊を暴発させたんじゃないかと思いますよ」


 それをやったのは、力の邪神・メゾルバです。


「自然破壊とは。酷いことをするものだ」

「たかし。意味のない環境破壊はノーで。それはマストだし」


「おい。聞くが。たかしとは誰だ」

「えー……」


 「たかし」とは、「たしかに」と言う意味で主に使われる「それな」と「あーね」に匹敵する便利な受け応えである。

 が、セルフィはその説明を省略した。


 その単語の全てを黒助が理解する頃には日が暮れているかと思われるので、セルフィの英断であった。


「ひぃ……はぁ……。く、黒助様……。この下はもう、魔獣の森でござる……」

「そうか。意外と近かったな。では、降りよう」


 3人が降下した森の中では、コカトリスが大量に生息していた。

 だが、彼らはブロッサムの指示があまりにもないため、野生に還っている。


 現に、弱り切ったブロッサムに向かって、数羽のコカトリスが威嚇行動を取っていた。


「おい。ブロッサム。聞くが、コカトリスはお前の眷属ではないのか?」

「い、いえ。魔獣将軍の地位は、ガイルと申す将軍から譲られたものでござる。ゆえに、吾輩に忠誠を誓っているわけではござら痛い! あびゃあぁっ! ちょ、痛い!!」


 コカトリスに突かれる魔獣将軍。

 黒助は思い出していた。


 鉄人の言葉を、である。

 親愛なる弟が「野生のモンスターを屈服させるには、力を見せるのが一番だよ!!」と語っていた。


「なるほど。では。うぉらぁぁぁぁ!!」


 バゴンと轟音を響かせて、黒助の拳が地面に撃たれる。

 音に遅れるように、その衝撃は巨大なクレーターを作っていた。


 間髪入れずに黒助は言う。


「コカトリスたちよ。そう荒ぶるな。俺のところに来れば、美味い食事と快適な寝床を提供しよう。俺の言葉が分かるか?」


 言語が統一されたコルティオールだが、コカトリスたちはそもそも人語を理解できない。

 だが、「この人間に逆らうとヤベー」と言う事は分かった。


 その後、魔獣と会話のできるブロッサムが再度コカトリスと対話をしたのち、コカトリスたちは二つ返事で春日大農場への移住を決めた。

 なお、セルフィは「黒助も環境破壊してんじゃん」と思ったが、口には出さなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇



 数日後。

 そこには、元気にコカトリスの世話をするブロッサムの姿が。


「ブロッサム。どうだ、調子は」

「万全でござる! 吾輩、黒助様のご期待に応えて見せます!」


「ああ。すまん。お前の調子ではなく、コカトリスの調子だ」

「そ、そうでござったか! これはお恥ずかしい! 環境にも慣れ始めたようで、よく餌を食べております!」


「そうか。コカトリスが野菜も食べてくれる雑食で助かった」

「そうでござるな! 人肉以外にも食すものがあると、吾輩も存じませんでした!」


 2人は「あっはっは」と笑う。

 そんな物騒な会話をBGMにして、コカトリスは快適そうに養鶏場を走り回っていた。

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