第50話 四大精霊、クソ目立つ
転移装置から、まず女神がやって来た。
「一応来たわよ。黒助」
「ああ。待っていたぞ。良く似合うじゃないか、現世の服も」
「またこいつは……。馬子にも衣裳的なアレでしょ?」
「いや? 普通に恋に落ちそうなレベルで可愛らしくはあるぞ?」
「あんた、今からでも遅くないから、どっかラブコメの世界に転生しなさいよ」
ミアリスの服は流行のオシャレ着といった雰囲気で、彼女もしっかりと着こなしていた。
ただし、背中には翼が生えている。
「ふわぁ……。空気が全然違いますぅ。魔力も少ししか大気に含まれていないですぅ」
「よし。イルノも完璧だな」
続いて出て来るのはイルノ。
タイトスカートが良く似合っている。女子大生にしか見えない。
だが、彼女の周囲には水の玉が浮遊している。
どうやら、現世にも魔力が大気に含まれていると言う事実。
諸君も毎日トレーニングをすれば、魔法が使える日は遠くないかもしれない。
「ここが現世! 黒助様の統べる世界で! おお! 見た事のない建造物が多くございますな! やや、あちらには軽トラの亜種が!!」
「ゲルゲ。落ち着け。だが、お前も上手く現世に溶け込んでいるな」
ゴンゴルゲルゲはポンチョと言ったら良いのか、ドレスと言ったら良いのか、非常に表現力を試される服を着ていた。
端的な表現をすると、マツコ・デラックスが着ているヤツである。
メンズノンノの何を見てこの服を創造したのか。
ミアリスには少しばかり時間をかけて事情を聴きたい。
「クロちゃんー! 来たー! クロちゃんの世界の服、動きやすくていいねー!!」
「うはー! ショートパンツにニーソックスの元気少女キタコレ!! はいはい、ウリネさんこっち向いてー! 笑ってー! できれば八重歯見せてー!!」
ウリネは髪の色が凄まじく存在感を放っているが、服装そのものは活発な少女の私服にしか見えない。
ミアリスのセンスが光っていた。
ならば、なにゆえゴンゴルゲルゲはああなったのか。
謎は深まるばかりである。
「……めんどくさっ。別にさ、全員で来る必要なくない? だるっ」
「よし! 全員揃ったな!!」
「ちょ、なんでウチにだけコメントしないの!? せめて鉄人はしなさいよ!! バカ!!」
なお、セルフィはただの金髪ギャルだったため、黒助はもちろん鉄人も特に感想めいたものが湧いてこなかったと言う。
「では、早速会場へ向かうとしよう! お前たち、この車に乗るんだ」
「……ねえ、黒助? 一応確認だけど、この荷台に乗るのよね?」
「そうだ。俺が運転をする。鉄人は助手席でナビをしてくれる。よって、お前たちは後ろに乗ってくれ」
「あー。うん。それは分かったわ。ところでさ、わたし、現世の言葉読めるんだけど」
「ほう。やるな、ミアリス。朝市での売り子の経験が生きているか」
ミアリスは、車の側面に書かれた文字を指さして叫んだ。
「家畜運搬車って書いてあるんですけど!? 何なら、牛を運んでいます! とか、牛のイラスト入りで書いてあるんですけど!?」
「農協の岡本さんに頼んだからな。異世界のヤツらを乗せる、いい塩梅の車を貸してほしいと。まったく、あの御仁には恐れ入る」
ミアリスは我に返った。
「この男と口論をしても何も生まれない」と言う事を思い出したのだ。
「ミアリス様! お早く! なかなかの乗り心地ですぞ! ぐーっはっは!」
「ねー! ボクもなんか落ち着くなー!!」
「自然を牧草で表現するなんてオシャレですぅ」
「……サイテー」
今のところ、肯定が3票。
否定が1票。
「モォォォォォォ! ブモォォォォォォォ!!」
肯定がもう1票増えた。
ミアリスも荷台に乗り込み、彼女はコルティオールを代表して叫んだ。
「いや! ホントに牛が乗ってるじゃない!! せめて牛は下ろしなさいよ!!」
「大丈夫だ。まずは、
否定票が1増えたところで、結果は変わらない。
女神と四大精霊を乗せた家畜運搬車は、高野原牧場を経由して、
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ねえ。黒助? なんかわたしたち、目立ってない?」
「気のせいだろう。現に、俺はまったく気にならんが」
春日家の暮らす
時岡市営スポーツ場にも、それなりの数の人が集まっていた。
そんな観客の目を惹き付けるのは、黒助を先頭に歩くコルティオール一行。
クソ目立っていた。
前から順に、羽が生えている女子。
水の玉が周りをフワフワと揺蕩っている女子。
クソデカい男。
緑の髪の少女。
普通のギャル。
目立つなと言う方が無理なのである。
「あ! 兄さーん! こっちですよー!! 皆さんもー!!」
「柚葉! いや、お前たちは確かに目印になっていたのかもしれんな。役に立ったぞ。すぐに柚葉と合流できた」
「お役に立てて恐悦至極にございまする!」
「ヤメなさいよ、ゴンゴルゲルゲ!! 跪くな!! すっごい見られてるのよ!!」
「ミアリス様……。そんなに大きな声を出すと余計に目立ちますぅ……」
「そうだよー! クロちゃんが言ってたよー? 堂々としてろってさー!」
「あんたたちも目立ってるのよ! 堂々としてたら良いって問題じゃないの!!」
「はい、どーも! 今日はね、四大精霊と妹の大会を応援しに来た! と言う訳でね! みなさん、見えてますかー!!」
「うざっ」
「セルフィ! あんただけが溶け込んでるんだから、今こそやる気を燃やしなさいよ!! あんたの発言力が今、最も高まってるのよ!!」
それから、鉄人がスマホで色々と撮影しつつ、全員で未美香を応援した。
そのかいあってか彼女は女子の部で見事優勝し、トロフィーをゲット。
「お兄ー! 見てた? 見てたー? あたし、やったよー!! 優勝しちったー!!」
「ああ! 見ていたぞ! 決勝戦は手に汗握ったものだ! ここぞで意表を突くドロップショット! あれには痺れたな!!」
「あははっ! お兄、興奮し過ぎー! でも、ちゃんと頑張れーって声、聞こえてたよ! ありがと、お兄!!」
黒助は人目を憚らず涙を流した。
妹にはにかみながら「ありがと」と言われるのは、兄の本懐なのである。
「ミアリスさんと精霊のみんなも、応援に来てくれてありがとー! あたし、みんなからもたくさん元気もらっちゃった! 今度、なにかお礼するね!!」
この時の未美香の笑顔は反則的に可愛らしく、ミアリスと四大精霊は「ああ、今日は来て良かったな」と思考放棄してしんみり思ったと言う。
なお、未美香の笑顔は異世界にも通じると言う事実。
これはのちに、彼女が天使としてコルティオールで崇められる伏線なのだが、諸君はその時まで覚えておいてくれるだろうか。
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