第49話 作戦名は「未美香を応援せよ!」 ~四大精霊、現世に行く~

 今日の春日大農場には未美香がやって来ている。

 彼女は翌日に試合を控えている身。


 いわゆるインターハイのような高校生限定の大会ではなく、大人の選手も参加する年齢制限なしのアマチュア大会。

 未美香はまだ高校一年生だが、将来を嘱望されている日本テニス界の至宝。(黒助談)


 そんな彼女は才能に恵まれながら、果敢に挑戦を続ける努力も惜しまない。

 ならば、兄である黒助はそんな妹を応援するのだ。


「マリン。どうだ、未美香の仕上がりは」


 オーガ族で1番のラケット使い、マリン。

 彼女は未美香の練習相手をするために、オーガの身体能力をフルに使って訓練に励み、今では一流のテニスプレイヤーになっていた。


「社長、未美香はん、すごいで。ワタシの波動球を打ち返せるとか、もう敵はないはずやで! ほんま、頭が下がるわぁ!」

「そうか。波動球とやらはすごいのか?」



「分からへんで! 鉄人はんが教えてくれはったんや! テニス選手は高レベルになるとだいたいこれ使えるらしいで!」

「そうか。鉄人が言っていたなら間違いはないな」



 そんな話をしていると、未美香が母屋でシャワーを浴びて戻って来た。


「お兄、お兄! 明日って試合見に来てくれるんだよね!? お仕事休んでいいの!?」

「ああ。スイカの収穫も終わったし、サツマイモだけならオーガたちに任せておけば問題ないだろう」


「うわぁ! 楽しみー! あたし、張り切っちゃうからね! ミアリスさんと精霊さんたちも来てくれるんでしょ? 気合入っちゃうなー!!」

「ああ。実はまだミアリスにしか話していないが、あいつらも喜んで来るだろう。明日は未美香の優勝を祝して、ぼたん鍋にしよう。猪の肉を農協の岡本さんが安く譲ってくれるらしい」


「マジ!? あたしあれ大好きなんだけど! よーし! 絶対に優勝するかんね!!」

「俺は喉が枯れるまで声援を送るぞ!!」


 未美香はウキウキとした足取りで転移装置に入り、現世へと戻って行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「はあ!? だ、ダメに決まってんでしょうが!!」

「ミアリス。もう一度だけ聞くが。四大精霊を未美香の応援に連れて行けないと言うのか?」


「そう言ってるでしょ!」

「何故だ」


 母屋には緊張した空気が漂っており、四大精霊はピクリとも動かない。

 「動いた者からやられる」と言う確信があるのだ。


 ミアリスは大きなため息をついた。

 四大精霊は「黒助を相手にため息……! さすが女神!!」と息を呑む。


「あのね、あんたの世界に四大精霊が行けるワケないじゃない!」

「お前はたまに朝市の売り子をしに来るじゃないか」


「わ、わたしはギリギリセーフなのよ! ほら、うちの子たち見てみなさいよ!!」

「ふむ。何か変わったところがあるか?」


「あるわよ!! まず、イルノ! 周りに水の玉が浮いてるでしょ!!」

「涼し気でいいじゃないか。なるほど、現世は冬だからと言う気遣いか?」


「違うって言ってんでしょうが!! あんたの世界に水の玉浮かべてる女子、いないでしょ!?」

「なるほど。聞くが」



「ミアリス。引田天功さんを知らんのか?」

「え、いるの!? イルノと同じ属性の人がいるの!?」



 黒助、まずはイルノを通す。

 ならば、順番通りに捌いていくのがこの男のスタイル。


「ゴンゴルゲルゲはダメでしょ! 燃えなくなったって言っても、身長2メートル超えてんのよ!? こんな大男、あんたの世界に行ったら大騒ぎよ!!」

「ミアリス。聞くが」



「チェ・ホンマンを知らんのか?」

「……嘘でしょ」



 ゴンゴルゲルゲ、無事に検問を通過する。

 こうなると、多分全員が通過するのだろう。


「う、ウリネは、髪が緑だし! 目立つでしょ!?」

「ちょっと待ってくれ。ん、んー。あー。あー。よし。オッケーグーグル。髪が緑の人を教えてくれ。……うむ。結構いるな。ランカ・リーとか園崎魅音とかタツマキとか出て来たぞ」



「それ、二次元じゃないの?」

「聞くが。ここの次元も現世とは違うのだろう? 2も4も同じじゃないか?」



 ウリネ、強引にゴールネットを揺らす。

 いよいよ大トリである。


「セルフィは……。結構普通にいたわね。あんたの世界にこんな子」

「ああ。未美香がよく、読モ? とか言う仕事をしているギャルとやらにセルフィに似ている女子がいると言っているぞ」



「じゃあ、セルフィはいいわよ」

「ちょ、なんでウチだけ!? もっと議論しろっての!! なんなん!? 腹立つー!!」



 こうして、四大精霊の現世行きが決定された。

 黒助はさらに続ける。


 彼は要領が悪い事を自覚しているため、既に鉄人と言う強力な軍師に知恵を授かっていたのだ。


「ミアリス。この雑誌にある服を創造してくれ。鉄人が用意してくれた。ノンノとメンズノンノと言う雑誌らしい」

「へぇー。色々な服があるのねー。もう諦めたわ。あんたってやるって言った事は絶対にやる男だもんね。分かったわよ、準備しとく」



「すまんな。その代わり、この世界もきっちりと守って見せるぞ」

「そうやってちょいちょいわたしを攻略しに掛かってくるのは何なの? もう落ちてるって降参してるじゃない。創造妊娠しそうなんだけど。あ、誤字じゃないから」



 黒助は伝達事項を全て伝え終えて、満足そうに現世へ帰って行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌朝。

 午前7時。


「それじゃあ、お兄! あたし先に行くね! 絶対優勝するからね!」

「私も未美香について行きますから、兄さんは安心してゆっくり来てくださいね」


「分かった。とびきり活きの良い応援団を連れて行くから、待っていてくれ」


「やー! 楽しみ! お兄は絶対に嘘つかないもんね!」

「そうですね! 兄さんが嘘をついた記憶なんてありません!」


 黒助は「うむ」と頷いて、玄関で靴を履く2人の妹を見つめていた。

 そこにやって来るのは鉄人。

 今日も日曜日なのに朝早くから活動している健康的なニートである。


「未美香ちゃんがんばー! 僕も応援に行くからねー!」



「鉄人は来なくていいよ? 絶対アレじゃん。テニスウェアの女子をローアングルから撮影したりするじゃん。家族と思われると恥ずかしいし」

「そうですね。鉄人さんはネットカフェにでも行っておいてくれますか? 今日はお金を差し上げますから。ドリンクバーの前でたむろしていてください」



 そう言うと、柚葉と未美香は出発して行った。

 2人になったのを見計らって、黒助は鉄人に頭を下げる。


「すまんな、鉄人。インターネットで忙しいだろうに。だが、今日は俺に付き合ってくれ。コルティオール組の制御の上手いお前の力を借りたい」

「オッケー。任せといてよ。兄貴の頼みは断れないよ!」


「そうか。ありがとう。昼はウナギでも食べるか」

「ひょー! 女神と精霊の恩恵キタコレ! 早く来ないかなー。撮影用のスマホは3台フル充電済みなんだ! 準備は万端!!」


 転移装置と言う名の倉庫の前で待つこと15分。

 女神一行、現世にきたる。

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