第48話 スイカを収穫だ! 春日大農場!!

 力の邪神・メゾルバの襲来によって延期されていたスイカの収穫。

 本日はその作業に春日大農場の総員で取り掛かるのだ。


「いいか。スイカの収穫時期は一般的に極めて難しいとされている。経験値による推測か、あるいは授粉させた日付から逆算するのがベターだ。しかし、うちの農場には五穀豊穣の精霊がいる! ウリネによって、完全な管理がされているスイカ畑である。よって、本日全ての収穫を行う! 従業員は全員、ウリネに対して敬礼せよ!!」


 スイカ農家は他の作物に比べるとハイリスクである。

 理由は黒助が言った通り。


 収穫のタイミングを少しばかり逸しただけで、果肉が柔らかくなってしまい味がボケる。

 こうなると、もはや商品価値はないに等しい。

 0円食堂の餌食になるのが関の山である。


 しかし、大地を統べる土の精霊・ウリネさん。

 彼女にとって、畑は自分の眷属も同様であり、魔力で操作する事により作物を最高の品質で育成する事が可能。


 さらに育成速度も3倍まで早くする事が出来ると言う、チートである。

 農協にウリネの存在がバレると、下手をすると戦争になる事は間違いないだろう。


「よし! 敬礼、ヤメ!! なお、今回は初めての収穫と言う事で、スイカを1人につき1玉持って帰る事を許可する! 扶養している家族がいる者には、その分、別途都合しよう! 農業の喜びを是非覚えてもらいたい! 何か不明な点があれば、近くにいる四大精霊に聞くように! では、総員! 愛情をもって作業を開始しろ!!」


 黒助のありがたい訓示を受けて、春日大農場のスイカ収穫がスタートした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 オーガたちは普段サツマイモ班に所属しているため、スイカ畑に来るのは珍しい。

 そのため、作業を始めた彼らの手は遅い。


 「このスイカはブランドもので、単価が非常に高い」と事前に聞かされているので、そうなるのも致し方ない。

 だが、サツマイモ班のリーダーが彼らを鼓舞する。


「ぐーはっは! 落ち付け、皆の者! 黒助様は失敗を許す寛容なお方! むしろ、臆して手を止める事の方を咎められるわ! このゴンゴルゲルゲが責任を持つゆえ、各人、思い切って作業をせよ! サツマイモ班で鍛えた足腰の強さを見せる時ぞ!!」


「せやせや! ゲルゲはんの言う通りやで! おどれら、覚悟決めぇ!!」

「お父ちゃん、気合入ってるわぁ! あんたたち、お父ちゃんに続くんやで!!」


 オーガ族の首長ゼミラスに続いて、オーガたちがスイカ畑になだれ込む。

 実に慎重なその足取りは「なだれ込む」と言う表現に一石を投じた。


「やっべぇ! この軽トラってヤツ、むちゃくちゃ操縦が難しいぜ!?」

「お、落ち着け、ギリーよ! まずは黒助様の教え通り、クラッチを踏むのだ! ま、待て! うぬ、シフトレバーがRに入っておるぞ!!」


 ギリーとブロッサムの仲良し将軍コンビは収穫したスイカを運搬するために用意された軽トラックの運転を任されていた。

 無免許運転以外の何ものでもないが、「私有地であれば無免許でも運転を可とする」と言う道路交通法を曲解する事で、黒助が許可した。


 コルティオールが私有地の範疇に入るのかどうかは、誰にも分からない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おにぎりってよく考えられた食べ物よねー! やー、現世の文化ってすごいわ!」

「未美香さんがこの世界に持って来てくださった梅干しが大活躍ですぅ」


 ミアリスとイルノはおにぎりを量産中。

 なお、具の梅干しはヴィネの肥料研究所にて作られている。


 ちなみに、梅干しは発酵食品だと思われがちであるが、実は梅と塩のみで作るため発酵食品ではない。

 梅に含まれるクエン酸の殺菌効果がガチっているので、長期間の保存に耐え得るのだ。


 これは、ヴィネが『エビルスピリットボール』で梅を腐らせた際に、未美香が教えてあげた現世の知恵である。

 春日家では未美香がお漬物担当大臣としてその手腕を振るっており、彼女の作った漬物はどれも絶品だと言う。


「ウリネ。すまんな。お前の力を私的に利用してしまって」

「別にいいじゃんー! クロちゃんは家族のために仕事してるんでしょー? で、魔王軍とも戦ってくれてるんだからさー! その恩返しにボクがちょっぴり力を貸すくらい、ズルじゃないと思うなー!!」


「……お前は素晴らしい精霊だな。心遣い、痛み入る」

「もっと色んな作物を育てたいなー! ボクの好きなヤツ、また見つかるかもだしー!!」


 当初は農業に乗り気ではなかったウリネも、今ではすっかり農業従事者の顔つきになっている。

 そんな彼女の後ろでは、セルフィが空を飛んで警ら中。


「セルフィ。どうだ。魔王軍のバカどもは動いていないか?」

「異常ないしー。つか、ウチもスイカ収穫チームが良かったんだけど。ずっと見張りするのってマジで暇だし」


 スイカの収穫作業は1日かけて行われる。

 その間に、万が一でも魔王軍が攻めてきた場合は、恐らく黒助がコルティオールごと滅ぼすであろうことは想像に難しくない。


 そのため、セルフィは上空を舞いつつ敵襲に備える見張り番。


「我が主。我は何をすれば?」

「メゾルバ。お前は黙って座ってろ。邪魔になる」


 春日大農場において最も階級の低い男。

 その名は力の邪神・メゾルバ。


 彼は戦闘力で言えば頭8つ分くらい抜けているのだが、襲撃してきた際に畑を荒らして、あまつさえサツマイモを踏みつけた罪を黒助に許されていなかった。


 よって、彼は作業に参加させてもらえない。


「ちょっと、メゾルバ。暇そうだからたくあん切りなさいよ」

「くはは。女神め、我を侮るなよ。その程度、造作もない」


 仕事をゲットしたメゾルバは、エプロンを付けて台所に立つ。

 その包丁捌きはなかなかのもので、均一の薄さにたくあんがスライスされていく。


「ほう。意外と器用だな。お前」

「お褒めに預かり、恐悦至極。我の魔力を使えば、赤子の手をひねるようなもの」



「赤子の手をひねるな。可哀想だろうが。やっぱりお前はまだ見習いだな」

「これは手厳しい。しかと心に刻みました。赤子の手はひねりません。たとえ脳内でも」



 こうして、それぞれが全力を尽くした結果、2つの太陽が山の向こうに沈む頃にはスイカの収穫が無事に終わる事と相成った。

 既にスイカは翌日、市場に出荷される手筈が農協の岡本さんの手によって整っており、春日大農場始まって以来の収益を得る事となった黒助。


 ついに、転移装置の生贄になったトラクターの代金を補填する事が叶ったのであった。

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