第46話 邪神が住み着く春日大農場

「ゆ、柚葉!! 怪我はないか!? すまない、俺が付いていながら!!」

「ふふっ。兄さん、大袈裟ですよ。私なら平気です! あ、スカートの裾が汚れちゃいましたけど!」



「よし。メケメケ。お前を殺す」

「まあまあ、兄貴! 落ち付いて! ちょっと僕の話を聞いてよ!!」



 地面から顔を出して辛うじて生きているメゾルバ。

 彼は、「どうもこの肌の白い男に救われたらしい」と理解していた。

 さらに言えば、その前に喋った娘も自分の助命嘆願をしていたのではないかと思うに至り、メゾルバは再び対話による講和を試みる。


「わ、我の負けのようだ。農家、貴様は強い。だが、我とて力の邪神と呼ばれる者。このまま貴様と戦っていれば、いずれお互いに滅びるであろう」



「お前、頭が悪すぎるな。コルティオールに小学校はないのか? どうやったらモグラ叩きのモグラみたいになっているお前と、地面に足を付けて立っている俺。それが戦った結果お互いに滅びるんだ。独りで勝手に滅びてろ」

「ひゅ、ひゅん!」



 黒助に軽く小突かれて、メゾルバは2メートルほど余計に沈んだ。

 彼は自分から仕掛けている以上、この窮地に発言権すら与えられないと言う当然の摂理を理解した。


 「戦争って愚かだ」と悟ったと言う。


 これまで自分よりも強い者が魔王ベザルオールだけだったメゾルバは、圧倒的な力で蹂躙される恐怖と、自分よりも上のステージがあった暴力について考える。


「もうダメぽよ」


 色々と考えた結果、考え始める前よりも頭が悪くなったメゾルバ。

 どうやら、思考回路がショートしていくつか断線したらしかった。


「よし。殺すか」

「待ってってば、兄貴! このメゾルバって言う人、邪神なんだって!」


「ふむ。邪神か。なるほど、分からん」


 鉄人は少し考えて、黒助の理解が捗る例を探した。

 割とすぐにみつかるのは、彼らが仲良し兄弟だからである。



「あれだよ、兄貴! タタリ神みたいな感じ!!」

「なんだと!? それはいかんな。こちらにはヤックルがいない。脅威ではないか」



 黒助はあまりアニメを見ないが、ジブリ作品は好んで見る。

 全てを愛しているが、強いて好きな作品を挙げると「もののけ姫」と「ハウルの動く城」らしい。


「とにかく、魔王軍の中でも結構強い人なんだよ。それならさ、情報とかを聞き出してから処分を考えてもいいんじゃないかな?」

「まったく、鉄人。お前はまるで知恵の泉ではないか。その湧き出る知識を俺のような無頼漢に与えてくれるとは。弟ながら、なんと言う器の持主だろう」


 地中に埋まったメゾルバであるが、「なんか自分が助かりそう!」と希望の声が聞こえてきて、いそいそと再び地中から顔を出した。


「だからまずは元五将軍の人たちを呼んでから、情報のすり合わせを」

「わ、我には貴様たちに協力する用意があ」



「今、鉄人が喋ってる途中だろうが!! バカタレ!!!」

「あおおおぉん! めぺぺにょぽひゅんっ!!」



 事情聴取が行われる事は決まったものの、肝心の犯人は地中深くに埋まってしまった。

 ギリーとブロッサムによってメゾルバが掘り起こされるまでに、30分の時間がかかったと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 メゾルバを捕縛するのは、風の精霊・セルフィには難しい。

 では、ギリーとブロッサムはどうか。


 やはり困難である。

 彼らとは大きな力量差が存在するため、隙を見て逃げられる可能性がある。


 ならばどうするか。


「よし。メレンゲ。話せ」

「たす、助けて。ぼすけて。ぼけすて……」


 黒助がメゾルバの頭を常時握っておくと言うパワープレイで落ち着いた。

 この拘束はシンプルながら優れている。


 まず、メゾルバの行動を完全に封じる事が出来る。

 次いで、メゾルバの戦意も完全にそぎ落とせる。


 ちなみに、発案者は鉄人。

 春日家の男子に情けはないのだ。


「聞くが。メレンゲ」

「兄貴! メゾルバだよ、メゾルバ!」


「そうか。では、聞くが。メゾルバ。お前の他に何人バカタレが魔王軍にいる。端的に答えろ」

「わ、我の他には、狂竜将軍と虚無将軍。それに、恐らくではあるが、我が復活させられたと言うことは、我と同じく封印されていたあひゅぅぅぅんっ」



「兄貴! ダメだよ、殴ったら! 動画的には面白いけど! ここ、編集点付けとこ!」

「すまん。話が長かったものでな。つい手が出てしまった」



 その後、メゾルバは「魔の邪神と夜の邪神と言う2体の邪神がまだ封印されている」旨を伝えた。

 彼は生まれて初めて涙を流し、邪神に生まれながら人と同じように喜怒哀楽の感情を得ていた事に気付くが、よく考えると別にどうでもいい現象であった。


「なるほど。思ったよりも多いな。おい。メゾルバ。それ、半分にできんのか?」


「黒助の旦那、相変わらず無茶言うぜ……」

「吾輩たちは最初の方で倒されて良かったな。これは後半になるにつれて酷い目に遭うパターンぞ」


 ギリーとブロッサムは「怖いわねぇ」「ねー」と、母屋の端で感想を言い合った。

 そこに、ウリネとイルノが戻って来た。


「スイカ冷えたよー! なんかうるさかったけど、どうしたのー?」

「なんだか凄まじい魔力の人がいますぅ……」


 黒助はメゾルバを放り投げて、スイカの試食を優先する。

 何なら「とっとと帰れ」と言い捨てた。


「ウリネ。まずはお前が食べてみろ。スイカ班のリーダーの責務だ」

「わーい! あーむっ! んー! おいしー!! これ、ボクが作ったんだよねー!?」


 ウリネに続いて、その場にいる全員がスイカを口に入れた。


「うおっ! こいつぁ美味い! 旦那の世界の作物ってすげぇや!」

「ううむ。これはいくらでも欲しくなる。何と言う魅惑の果実よ……」


 ギリーとプロッサムにとっても、初めての収穫である。

 農業従事者としての喜びに目覚めた彼らを、黒助を温かい目で見つめていた。


「あの、メゾルバさん? スイカ、一緒に食べませんか?」

「柚葉!? 何をしている! 危ないじゃないか!!」


「平気ですよ、兄さん! この人、そんなに悪い人じゃないと思うんです! きっと緊張しているんですね! はい、どうぞ!」

「我は人の食すものなど口に合わうわぁ、おいしー! これ、おいしー!!」


「……ふむ。メゾルバ。聞くが、お前はそのスイカの味が分かるのか?」

「こ、このような供物があろうとは……! 我は邪神。食事などせずとも生きられるゆえ」


「そうか。よし。仕方がないな。お前もうちで働くか」

「くははっ。我の力を人の身ながらに欲するか! 良かろう! 我が従おうではないか!!」



「お前な、調子に乗ってキャラを戻すな。ぶっ飛ばすぞ」

「申し訳ございませんでした。以後気を付けます」



 力の邪神・メゾルバ。

 無事に就職する。

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