第2章

第36話 春日大農場、パーティーをする

 今日の春日大農場は普段と少し違う。

 まだ昼休みにもかかわらず、黒助が号令を出した。


「みんな。今日の仕事は現時刻をもって終了とする。各々、風呂と着替えを済ませたら再び集合しろ」


 まるでこれからパーティーをするような雰囲気が漂っている。

 そんな風に思われた方は、真なるパリピを名乗っても差し支えないだろう。


 本日はクリスマス。

 意外に思われるかもしれないが、春日黒助は季節イベントを重要視する。


 盆暮れ正月はきっちり休むし、クリスマスにはパーティーを。

 割と最近市民権を得た感のあるハロウィンですら、彼は率先して仮装をする。


「みなさん! たくさんチキンを用意しましたから、早く食べにいらしてくださいね!!」

「あたしとお姉の共同作業だぞー! 現役女子高生の料理なんだかんねー!!」


 コルティオールに春日家が大集合。

 本日は彼らがおもてなしをする側であり、春日大農場の従業員がその加護を拝受する。


「クリスマス? とか言うイベント、なんだか面白いわね! 起源とか教えなさいよ、鉄人! あんた、色々と知ってるんでしょ? インターネットとか言うヤツで!!」

「やー。アレっすよ? なんか良い感じに男女が夜の運動会したり、家族が集まってタダでご馳走食べられる日ですね! ボーナスステージみたいなものです!」



「あんた、わたしが何も知らないからって適当な事を言ってるわね?」

 意外と的を射ているのだから、なんだか悲しくなってくる。



「もちろん起源はある。それを知ったうえで、我が家では普段よりも豪華な食事と、俺からささやかなプレゼントを贈る日としている。個人がその日をどう過ごすかは自由。ならば、我が家は我が家でいかせてもらう。問題はあるか?」

「いや、ないけど。と言うか、良かったの? そんな特別な日をこっちで過ごして」



「問題はない。今ではお前たちも俺の家族のようなものだからな」

「……あんた、確実にわたしを落としにかかってるわね? 言っとくけど、結構前にもう落ちてるから。わたし」



 続々と集まるオーガたちにチキンを配る柚葉と未美香。

 その様子を眺めて満足そうな黒助。


 だが、さらにその様子を遠巻きに眺めている者たちがいた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「何をしておるのだ、貴様たち」


 第一発見者はゴンゴルゲルゲ。

 楽しいパーティーを複雑そうな面持ちで見つめるのは、旧五将軍の面々。


「ゲルゲの旦那か。いや、なんつーかよ。オレら、交ざっていいのかなって」

「ゲルゲ殿もそう思われるのではないか? 吾輩たちは幾度となく、貴殿らに牙を剥き、爪を立てようとした身であるぞ」


 鬼人将軍・ギリー。

 魔獣将軍・ブロッサム。


 彼らは成り行きで春日大農場の従業員になった身である。

 さらに、まだ加入して2週間しか経っていない事が彼らの立場を一層居心地の悪いものにしていた。


 やってきた事を考えれば当然であり、むしろしっかり反省しているところは加点ポイントなのだが、彼らはパーティーの輪に入れずにいた。


「何を申しておる。黒助様の器を侮るでない。あのお方は、一度これまでの事を水に流すと決めたからには遺恨など欠片も持たぬ。遠慮をしておる方が無礼と言うもの」

「そうだよー! ボクのスイカコレクション分けてあげるからさー! 2人もこっちにおいでってー!!」


「ウリネさーん! スイカを勝手に持ち出したのが黒助さんにバレましたぁー!」

「うげっ! クロちゃんのお説教長いからヤダー! ギーくんとブロちゃん! あとよろしくー!!」


 ウリネ、罪の意識に苛まれている魔族たちにいわれのない罪まで擦り付ける。


「む。見かけないと思っていたら、こんなところに居たのか。ブロッサム。ギリー。こっちに来い」


 雇い主、降臨する。

 この農家は、職場内で孤立する従業員の存在を許さない。


「く、黒助の旦那!! こ、こいつぁ、その、すんません!!」

「何を謝っている? このスイカを持ち出したのはウリネだろう?」


「い、いえ! 吾輩たちは……!」

「なるほど。空気を悪くして申し訳ない、か?」


 2人は黙って頷いた。


「……ふんっ! ふんっ!!」


「いでぇっ!!」

「も、申し訳ござらん!!」


 これは『家族かぞくデコピン』と言う。

 黒助が家族にのみ使う必殺技であり、その身に喰らう事で全ての罪を洗い流す効果がある。


「俺は不良の更生物語が嫌いだ。何故ならば、かつて悪い事をしていた者が普通になっただけで、普通にマジメな生活を送っていた者よりも大きな顔をするのが気に入らん」


 この発言を「てめぇらを許してねぇから」と受け取ったブロッサムとギリー。

 更に身を縮め、委縮する。


「だが、更生しない不良よりも、更生する不良の方がずっと好きだ。お前たちは更生し始めている。違うか? まだ畑を荒そうなどと考えているのか?」


「と、とんでもねぇ! オレぁ、旦那に救ってもらった命……! 家族までここに住まわせてもらって……! そんな不埒な企みなんて毛ほども考えてねぇっす!!」

「吾輩は既に捨てたつもりだった生涯。余生は貴殿に従うまでと決めてござる」


「ならば問題ない。チキンを食え。ケーキもある。これは命令だ」

「わあー! クロちゃん、カッコいいー!! 言う事が違うねー!!」


「ウリネ。お前には今日の食べて良いスイカの量を2玉もオーバーしている事を問いただそうと思っていたところだ。こっちに来い」

「うぎゃー!! ごめんなさーい!! だって、今日は特別だって未美香ちゃんがぁー!!」



「なに? 未美香が? ならば良い。それを先に言え」

「黒助さんの当たり判定は分かりやすいですぅ」



 このあと、ブロッサムとギリーも柚葉からチキンを受け取った。

 その味はかつて食べたどの獣の肉よりも美味だったと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな様子を更に、更に遠巻きに見ているのが、死霊将軍・ヴィネ。

 彼女は大地を腐敗させるので、畑は出禁になっている。


「おい。ヴィネ」

「はぁぁぁんっ!? な、なんだい!? 春日黒助!! あ、あたいは別に、畑に近づいちゃいないよ!?」


「何を言っている。これはお前の分のチキンだ。そして、こっちにあるのはお前の部下たちのチキンだ。ネクロ何とか言う輩でも、腹は減るのだろう?」

「あ、あんた……! あたいたち、死んでるヤツの方が多いってのに……!!」


「お前の部下のリッチたちは、地味によく働いているからな。働いた分は食わせると約束したはずだ」

「で、でも、それじゃ……。あたいは食べる資格がないじゃないか……」


「俺が個人的な感情で、お前にチキンを食わせたい。それでは理由にならんか?」

「はぁぁぁぁっ!! こ、これだから、春日黒助ってヤツはヤメられないのさ!! 軽く逝きそうになっちまったよ!!」


「よくは分からんが、そう易々と逝ってくれるな。後生が悪い」


 こうして、春日大農場のクリスマスは盛大に祝われた。

 メリークリスマス。




◆◇◆◇◆◇◆◇



 ごきげんよう。作者でございます。

 本年もこれが最後の更新となりました。

 拙作を読んで年を越して下さること、大変光栄であり御礼申し上げます。


 よりにもよってクリスマス回で年を越すと言う、どうにも締まらない辺りは拙作の空気感とリンクしております笑

 拙作はカクヨムコンの結果に関わらず、完結までしっかりと書き切る予定でございますので、読者様におかれましては来年もよろしくお付き合い頂けると幸いです!


 それでは、新年が読者様にとって良い1年である事を願って結びとさせて頂きます。

 年が明けてからもどうぞよろしくお願いいたします。

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