第35話 来る者は拒まず! 去る者は許さず!!

 農場の母屋には、春日鉄人もやって来ていた。

 既に現世は深夜。午前2時を過ぎている。


「兄貴ー! お疲れー!! いやー、やっぱ僕の兄貴はすごいや! ここからでも向こうの山が崩れていくのが見えたもん!!」

「鉄人。すまんな、インターネットで忙しいところを連れ出してしまって」


「へーき、へーき! 僕にとってはゴールデンタイムよ、今!!」


 ニートも楽な仕事ではない。

 昼夜逆転したり、規則正しい生活リズムに戻ったり。


 タイムテーブルは日々の予定によって常に変動する。

 その過酷な環境に適応できない者は脱落していくとは、エリートニート鉄人の言葉である。


「とりあえず、今後について考えたい。ミアリス、ちょっと来てくれ。イルノとウリネはゲルゲの治療を続けるように。ついでにこのブロッサムもなんか良い感じのヤツで治してくれ」

「ええ……。ブロッサムまで治療するの? 一度どころか、2回目なのよ!? こいつが農場を襲って来るの!!」



「ならば、3度目はない。何故ならば、俺がさせないからだ。それでは不足か?」

「時々本気で女神ヤメてあんたの家に嫁ぎそうになるわ。強引な男ってすごいわね。そりゃ死霊将軍も惚れるわよ……」



 ミアリスはため息をついて、ブロッサムに治癒魔法を使い始める。

 それを見届けた黒助は、向きを変えて座り直す。


 その方向にいるのは、魔王五将軍たち。


「ヴィネ」

「な、なんだい!? あ、あたいの名前を呼んでくれた……!!」


「まずは改めて礼を言おう。うちの農場のために働いてくれた事、感謝する」

「や、ヤメなよ! あたいは、自分がそうしたかったからしただけさ! 別に、あんたのため……いや、あんたのためになればと思ってやったんだけどさ……」


「ツンデレ、キタコレー!! エロいお姉さん、ちなみにご職業は?」

「な、なんだい!? この弱そうなのに自信満々でグイグイくる男は!?」


「俺の弟だ。鉄人と言う」

「な、なんだって!? あたいは死霊将軍・ヴィネ! 覚えておきな!! 義弟てつひと!!」



 ヴィネは嫁ぎ先にニートがいても気にしないタイプであることが判明した。



「ヴィネ。聞くが、お前は魔王軍の中での立場が極めて悪くなったのではないか? 鉄人が言っていたが、お前のやった事は反逆行為らしいではないか。これからどうするつもりだ」


 黒助はマイペースに事情聴取をする。

 だが、農場のピンチを救ってくれた彼女の扱いは、確実に英雄の中でランクアップしていた。


「まあ、そうだね。魔王軍には戻れないだろうね。と言うか、元から戻る気はなかったんだけどね」

「そうなのか? 何故だ」


「……ほ、惚れた男と戦うバカな女にはなりたくなかっただけさ」

「そうか。意味が分からん。だが、お前の立場が危うい事と、それがうちの農場を救ってくれたことに起因する事は理解した」


 肝心なところを「意味が分からん」と切り捨てられたヴィネ姐さん。

 その表情は幸せそうであり、「ああ! この男は堪らないねぇ!!」と頬を赤らめた。


「ヴィネ。お前はうちで働いてもらおう」

「えっ!? こ、ここに住んでもいいのかい!?」



「バカタレ。ダメだ。お前は大地を腐らすだろうが。どこか遠くから通って来い」

「くぅーっ! 手を差し伸べながら突き放すなんて……! 逝っちまいそうだねぇ!!」



 黒助は「そうか。逝く時はなるべく遠くで頼む」と応じた。

 果たしてこれを応じていると呼んで良いのかは分からない。


「キャリー」

「………………。お、オレっすか!?」


「お前以外に誰がいる。次から呼ばれたら5秒以内に返事をしろ」

「う、うっす」


「お前はどうしたい? 郷里の家族の元へ帰るか?」

「いや、オレも今じゃ魔王軍からはみ出し者になっちまったから……。故郷に帰っても、遅かれ早かれ魔王様に裁かれるだろうぜ」


「そうか。ならば、お前もうちで働け。家族を呼んで構わん。家族にも働かせろ。仕事はオーガに習え。お前ら仲間だろう?」

「お、オレを許すってのか!? 一度は農場をマグマの血で壊滅させようとしたってのに!!」


「おい。待て。お前、そんな事をしていたのか? どのタイミングだ? ちょっと詳しく聞かせろ。場合によってはぶっ飛ばすぞ」



 ギリーが最初に襲来して、黒助がサッカーボールみたいに蹴飛ばした時である。



「まあまあ、兄貴! ギリーさんも反省してんだからさ! 許してあげようよ!」

「そうか。鉄人の見る目は確かだからな。お前がそう言うのなら、許そう」


「な、なんて人たちなんだ……! こんなの、敵う訳がねェ……! ありがとう! オレ、今日から女神に忠誠を誓うぜ!!」



「ミアリスには何も誓わんでいい。農作物に全てを捧げろ」

「なんでよ!! わたしにも忠誠誓わせときなさいよ!! 後々そっちの方が都合いいのに!!」



 こうして、春日大農場に魔王五将軍が3人加入した。

 五将軍の半分以上が春日黒助の元に集った事になる。


 なお、ブロッサムが意識を取り戻したのは翌日の昼だった。

 彼は「吾輩は!? ここは敵地ではないか!?」と激しく狼狽えたが、黒助がすぐに駆け付け、穏やかに語りかけた。



 「騒ぐな。ここで働くか、俺にもう一度ぶっ飛ばされるか。選べ」と。



 ブロッサムは清々しい笑顔で「ここで働かせて頂きたい!!」と敬礼したと言う。

 その様子を見ていた鉄人は「湯婆婆でももう少し優しいよ! けっさく!!」と爆笑した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 魔王城では、だいたいの事情を通信司令長官・アルゴムが察していた。

 彼は「これ、どうやって魔王様にお伝えすれば……!!」と悩み、まずは軍医に胃薬を処方してもらった。


 だが、アルゴムが伝えるまでもなく、魔王ベザルオールは全てを知っていた。

 虚無将軍・ノワールが既に現状を説明済みだったのだ。


「くっくっく。我が忠臣を3人も奪うとはな……! 異次元の農家……やりおるわ!!」

「では、100年ぶりにヤツらを呼びますか? 魔王三邪神を……!!」


 狂竜将軍・ガイルが意味ありげに、なんだか五将軍の上位互換みたいな名前を口に出した。

 まだ余裕がありそうなベザルオール。

 それほどまでに魔王三邪神とは強大な存在なのだろうか。



「くっくっく。余は久しぶり過ぎてヤツらの名前を忘れた! まずはチュートリアルから始めてくれるか、ガイルよ……!!」

「ははっ! では、1名ずつ順番に呼んで参りましょう!! 混乱せぬように……!!」



 魔王軍にも大きな動きがあるようであった。

 そして、彼らは親切なので、時が来れば我々に分かりやすく状況を教えてくれるだろう。


 これは、とある英雄が異世界を救うまでの物語。

 その道はまだ半ばである。



 ——第1章、完。




◆◇◆◇◆◇◆◇



 ここまで拙作にお付き合いくださり、感謝、いやさ大感謝申し上げます。

 ピーマンのように中身がスカスカな拙作ですが、読者様のお暇潰しのお役に立てているのならば本懐でございます。


 カクヨムコンはまだまだ続きます。

 拙作は現状、読者選考を突破できるか極めて不透明な状況です。

 と言うか、正直怪しいです。日に日に順位が落ちております。


 よろしければ、☆と作品フォローでご支援いただけると嬉しいです。


 これからも全力でしょうもないお話を続けて参りますので、ぜひお付き合い下さい。


 明日から第2章の開幕でございます!!

 年を跨ぐタイミングにすればいいのに、この間の悪さ!!

 これもまた拙作ならでは! 鼻で笑ってくださいませ!!


 引き続き毎日更新していきますので、毎晩午後6時にお会いしましょう!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る