第33話 裏切りの死霊将軍・ヴィネ
前方から迫りくるは鬼人将軍・ギリー。
上空からは魔獣将軍・ブロッサム。
さらに側面から突如として現れた、死霊将軍・ヴィネ。
「ウリネよ。お主は逃げるのだ。土の精霊さえ存命であれば、再びどこかの土地で農場を再開する事も可能であれば、今はお主を逃がす事のみにワシは命を使う!!」
「や、ヤダよー! ゲルゲおじさんいなくなったら、クロちゃん悲しむよー!!」
「思えば、このゴンゴルゲルゲ。イフリート族の長でありながら、魔王軍には惨敗続き。丈夫な体だけが取り柄だったが、今回はそれも役に立ちそうにない。だが、生涯が終わるまでに黒助様に出会えて良かった……!!」
ゴンゴルゲルゲは前を向く。
相手が3人であれば、多角的に対応するのが上策。
だが、それは実力が拮抗している者の場合であり、3勢力のいずれにも劣るゴンゴルゲルゲが採るべき策は、1つの脅威だけでも確実に排除する事だった。
「ぬぉおぉぉぉぉっ!! 燃え尽きるまで燃え尽くせ!! 『フレアボルトナックル』!!」
ギリーに向かってゴンゴルゲルゲは吠えた。
その剛腕から放たれる業火の拳は、確かにギリーに届く。
「ふぐぁっ!! いってぇ! この野郎! 前にボコった時よりちょっとだけ強くなってんじゃねぇか!! 左腕が超いてぇ!!」
「ぐははっ。我が拳、ここぞでも届かぬか! ならば、ワシの炎が消えるまで撃ち続けるまでよ!! ぬぅおぁぁぁぁあぁぁっ!!」
文字通りの特攻を仕掛けようとしたゴンゴルゲルゲ。
そんな彼の前に、死霊将軍・ヴィネが立ちはだかった。
「き、貴様ぁ!! ワシの最期の時まで愚弄するか……!!」
だが、ヴィネはゴンゴルゲルゲとウリネが予想もしていなかったセリフを吐く。
「勘違いすんじゃないよ! あたいはもう、魔王軍は抜けたんだ! 今のあたいは、死霊将軍である前に……! あ、ああ、愛の戦士さ!!」
「な、何を申しておるのか分からんが、ヴィネ。お主、ワシらに加勢を!?」
ヴィネは黙って頷いた。
どうやら、「愛の戦士」ともう一度名乗るのは恥ずかしさが勝ったため中止した模様。
「あたしの事を愛していると言ってくれた、春日黒助! あの男の愛している農場ひとつ守れないで、あたいはどんな顔して抱かれたら良いんだい!?」
想定外だが、あまりにも心強い援軍を得た女神軍。
なお、ヴィネは何かを盛大に拗らせているため、彼女の発する言葉はだいたい妄言になる事を留意して欲しい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「出て来な! アンデッドたち!!」
「お、おい! 死霊将軍! よさぬか! アンデッドは農地に悪影響を……!!」
「ふふっ。安心しな! あたいに従うアンデッドたちは既にデトックス済み! 腐敗属性は取っ払ってるからね!! こいつらは健全な死体だよ!!」
「お、おお? ウリネ。死霊将軍の言っておることが分かるか?」
「全然分かんないよー! でも、助けてくれるんなら良いじゃん! 強いよ、この人! ボク、結構な時間をこの人の軍団と戦ってたから!」
ヴィネは地中から、綺麗なリッチと綺麗なゾンビを呼び出した。
お忘れの方も多いかと思われるので、リッチについて簡単に説明をしておく。
この死霊はかつての賢者や魔法使いなどの高位にあった者が朽ちたなれの果て。
会話をする知能を有しており、力も生前のものを受け継いでいる。
「ウオォオォオォォ……! 朝日が待ち遠しい……! 日光浴したい……!!」
「ウオォオォオォォ……! 清潔な体を保ちたい……! 日に3度は風呂に入りたい……!!」
なお、デトックス処理が済んだリッチたちは健康志向が極めて高くなっていた。
「ヴィネ姐さん! 頭がおかしくなっちまったのかよ!? あんた、魔王様が1番だって言ってたじゃねぇか!! うおっ!? リッチどもがうぜぇ!! しかもすっげぇ顔色いいな、こいつら!!」
「ふふっ。女はね、恋で変わるんだよ……! 童貞のあんたにゃ分からないだろうねぇ!! あたいはこれから、黒助に抱かれるのさ!!」
そんな予定はない。
「グルアァアァ!! 何を悠長に喋っておる、ギリー! ならば、吾輩が上空から!!」
「やらせないよ!! 土の精霊! あんた、あたいの魔法に合わせな!! できるだろ!?」
「むぅー! なんか命令されてるのムカつくー! けど、いいよ! お姉さんの魔法なら、ボクはよーく知ってるからさー!!」
ヴィネは空から襲い掛かるブロッサムに向けて、両手を構える。
かつての同胞の絆も、愛の前には無力。
「喰らいなぁ!! 『エビルスピリットボール』!!」
「ボクもやるぞー!! 『ドラストツリー』!!」
ヴィネが放った人魂が、竜のように天へ昇る木の周りを回転しながらブロッサムを捉えた。
「ぐぅあぁあぁぁっ!! こ、この女ぁ!! 本当に吾輩たちと敵対するつもりなのだな!? ならば、もはや容赦はせぬ!! ギリー!!」
「よし来た!! 『イエローバーストシュート』!! 鬼の蹴りを甘く見るなよ!!」
雷属性を付与された鬼人の蹴りは、一直線にヴィネへと向かう。
さらに上空からも追撃が重ねられる。
「グアルゥアァァァァァァァ!! 『ドラゴニックブレス』!!!」
「……参ったね。火の精霊! あんたは上から来る炎をどうにかしな!! 仮にも火のスペシャリストだろ!?」
言われずとも、ゴンゴルゲルゲはブロッサムのブレス攻撃を受け止める。
「ぬぉぉっ! なんのこれしきぃ!! 農作業で鍛えた足腰を甘く見るでないわぁ!!」
「ふっ。やるじゃないか。あとは、雷の蹴りだね。……『デモンズウォール』!! くぅぅっ! きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ギリーの蹴りの威力が勝り、ヴィネの出した壁魔法は崩壊する。
ヴィネは上空高く吹き飛ばされ、そこにはブロッサムがいた。
「ふはははっ! 隙だらけであるぞ! ヴィネぇぇ!! グルァアァァァ!!」
「かはっ! うぐぅっ」
地面に叩きつけられたヴィネは、どう贔屓目に見ても限界が近かった。
実際は既に限界を超えているのだが、彼女はまだ立ち上がる。
「お、お主……! なにゆえ先ほどの蹴りを避けなかった!? お主の実力であれば、造作もなかろう!?」
「ば、バカだね、火の精霊……! あたいが避けたら、雷の蹴りが農場に届いちまうだろ? 黒助が悲しむじゃないか。愛した男の辛い顔は、見たくないのさ」
ゴンゴルゲルゲは感服していた。
愛の力が何なのかは判然としないが、ヴィネが何か自分には分からない使命のために命を燃やしている事を理解したのだ。
「死霊将軍……。いや、ヴィネよ。共に参ろうぞ! ウリネは下がっておれ!!」
「まったく、あんたなんかと一緒になのは想定外なんだけどねぇ……」
彼らは充分に戦った。
より正確な表現をすれば、充分に時間を稼いだ。
「すまんな、ゲルゲ。ウリネ。遅くなった。そして死霊将軍。事情は分からんが、俺の農場を守ってくれたこと、感謝する。あとは俺に任せておけ」
最強の農家、やっぱり
農家にとって時間外労働など日常茶飯事なのだ。
登場シーンのバリエーションが不足していると思われるのは心外である。
これは、安定しているとお考えいただきたい。
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