第27話 オーガの仁義に応える農家

 鬼人将軍・ギリーの攻撃の前に、ゴンゴルゲルゲは苦戦していた。


「おいおい、おっさん! 威勢が良かったのは最初だけかよ! てんで話にならねぇなァ!!」

「ぐわぁあぁぁっ!! なんのぉ! この程度の殴打、避けるまでもないわ!!」


 それはゴンゴルゲルゲの強がりだった。

 ギリーのパンチは一撃で防弾ガラスだって軽々破壊する威力を持っている。


 それを防御態勢を取りながらではあるが、既に4発もまともに喰らったゴンゴルゲルゲ。

 いかに四大精霊とは言え、ひとたまりもない。


 では、なにゆえ彼は攻撃をしないのか。


「はぁ、はぁ……。どうにかしてサツマイモ畑からヤツを離さねば……!!」

「独り言まで呟き始めちまったよ。ダメだ、おっさん。お前じゃ話にならねぇ!」


 今更だが、敢えて言おう。

 ゴンゴルゲルゲは火の精霊。


 彼の攻撃方法は9割以上で火が出る。

 そうなれば、すぐ傍にあるサツマイモはどうなるのか。


 せっかくウリネが土の精霊の加護を使い、成長促進が始まったサツマイモ。

 ゴンゴルゲルゲが自分の子供のように愛情を注いできたサツマイモ。


 未成熟の子らを焼き芋に変えられるはずがない。


「ぐーっはっは! ワシを倒せぬようなパンチがこの世界の英雄殿に通用すると思うたか!!」

「へぇ。言ったな? おっさん! ちょっと本気でいくぜ! 『ブラストスマッシュ』!!」


 ゴンゴルゲルゲは命を諦めた。

 この攻撃を避ければ、サツマイモ畑が吹き飛んでしまう。


 だが、この攻撃を命を賭して防ぎ切れば、その衝撃音は黒助に届くだろう。


 ならば悔いはない。是非もなし。

 仁王立ちで往生するのが火の精霊・ゴンゴルゲルゲの最期である。


 が、思わぬ援軍が彼を救った。

 バキバキと言う肉の裂ける音と共に、10人以上の鬼たちが吹き飛んだ。


「あぁん? てめぇら、どういうつもりだ? マジで寝返ってやがったか! オーガども!!」

「ゲルゲの旦那ぁ! ここはあっしらも戦いまっせ! 旦那には焼き芋のお礼がまだでしたからなぁ!!」


 現れたのは、オーガの族長であるゼミラス。

 鬼人軍団に属するオーガ族が、鬼人将軍に反旗を翻したのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「お、お主ら!! よせ! 気持ちは嬉しいが、お主らの敵う相手ではない!」

「せやかて、旦那。それを言うたら、あんさんだって敵わん相手に立ち向かっとるやないですか!」


「ワシは黒助様の忠臣としての使命を果たすために!!」

「あっしらも同じ気持ちでっせ! 敵にも関わらず子を助け、あっしらの飢えを凌いでくださった黒助はんは、もはや魔王様以上に大恩のあるお方!! へへっ。そんな方のために捨てられる命があるってぇのは幸せな事でさぁ!!」


 気付けば、オーガたちは武器のこん棒を持ち、女子供を除いた50人以上がサツマイモ畑の前に立ちはだかっていた。


「お主ら……! 分かった。もう何も言わぬ。次はあの世で会おうぞ!!」

「へへっ。火の精霊様と一緒なら、あの世観光も悪くねぇってもんでさぁ!」


 ギリーは彼らの会話を聞いていた。

 騎士道精神から今生の別れをする猶予を与えていた訳ではない。


 攻撃のために力を溜めていたのだ。


 ギリーは鬼人将軍と呼ばれるだけあって、血も涙もない、鬼のような男。

 求めるのはただ勝利のみ。

 あとは童貞を捨てる機会のみ。


 それと美人の嫁さん貰って毎日行って来ますのチューをする望みもプラス。


 そして、勝利の色は気にも留めない。

 美しかろうが汚れていようが、勝ちは勝ち。価値あるものなのである。


「よっしゃ、馬鹿ども! お前らがくっちゃべってる間にこっちの準備は終わったぜぇ? この魔力を圧縮して作った円盤が見えるか? 何でも切り裂く、鬼の鎌よ!!」


「万策尽きたか……。あれはワシではとても防げぬ。せめて、この身で受け止められれば!!」

「あっしらも続きまっせ! ゲルゲの旦那ぁ!!」


 ギリーはニヤリと口元を歪めて、円盤状のエネルギー体を投げつけた。


「バラバラになりやがれぇ! 『ソニックスライサー』!!」


 ゴンゴルゲルゲは口を真一文字に結んだ。

 襲い掛かる絶命の時を、ただ座して待つ。



「うぉぉらぁいぃ!! 『農家のうかパンチ』!!」

「……おいおい。何の冗談だ、こりゃあ!? す、スライサーが!!」



 やって来たのは真打ち。

 彼には魔力や闘気を感じる術がない。


 それが到着を遅らせる原因になってしまったが、たまたま居合わせたウリネが強大な力を察知してくれたおかげで、どうにか間に合ったのだと言う。


「すまんな、ゲルゲ。遅くなった。よくここまで耐えてくれた。オーガたちもだ。かつての主君を相手にその気概。見事だった」

「く、黒助様……! 申し訳ございませぬ! 畑を血で汚してしまいまして!!」


「お前ほどの男の血なら、良い栄養になるだろう。……ここからは俺に任せろ」

「てめぇが噂の異次元から来た男かぁ? 思ったより地味だなぁ!!」


 春日黒助。

 畑の命を守るため。

 従業員を守るため。


 無法者を葬り去るべく、ここに見参。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「どうやら、後ろにある草がよほど大事らしいなァ!? オレ様が全て斬り刻んでやるよ!! オレの手刀に斬れねぇものはない!! うらぁ!!」

「むんっ。つまらん。それはブロッサムとか言う面白い怪人が使っていた。魔王軍とやらもネタが切れるのが早いな」


 ギリーの手刀を左手だけで受け止めた黒助。

 ならば、空いた右手をどうするのか。


 決まっている。


「本当の手刀と言うものを教えてやろう。うぉらぁっ! 『農家のうかチョップ』!!」

「ぐぅっ!? ……あん? なんだよ、勢いだけで何もねぇぞ。はっ! 驚かせやがって!!」


「言っておくが、『農家のうかチョップ』で切れないものは、家族の絆だけだ。それ以外は全て叩き斬る。それが『農家のうかチョップ』だ」

「くっせぇこと言ってんじゃねあぁぁぁぁぁぁっ!? いてぇぇぇ!! なんで、オレの拳が切れてんだよぉぉぉぉ!?」


 黒助は追撃をせず、迷わずギリーに背を向ける。


「ゲルゲ。すぐにミアリスが来るはずだ。それまで気をしっかりと持てよ。ゼミラス。怪我をしたオーガを集めろ。治療がしやすくなる」


 ギリーは瞳を紅く変異させて、轟き叫ぶ。

 彼の体を流れている血を沸騰させる事で、元より強靭な体を更に強化させる。


 鬼人将軍の奥義、『紅目の鬼神クリムゾン』である。


「覚悟しろよォ? てめぇ、楽には殺さねぇぜ?」

「……なるほど。お前の目を見て、決めたぞ」


「命を捨てる覚悟かよォ?」

「いや、新しい畑ではスイカを育てようと思う。コルティオールでは通年で収穫できる強みがあるからな。ウリネも来てくれたことだし。俺の世界では冬が本格化する時分だ。うむ。良いアイデアには礼を言おう」


「ふざけてんじゃねぇぇぇ!!」

「むっ! お前ぇ!! 畑を無造作に踏むんじゃない! このバカタレがぁぁぁ!!!」



「ひげぇぇえぇぇぇぇっ!? あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



 ギリーが黒助のゲンコツを脳天に喰らい、そのまま地中に埋まった。

 せめて名前のある技で倒せ。

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