第15話 オーガの群れ、襲来する
さて、春日大農場の立地について説明しよう。
コルティオールの南東部に位置するユリメケ平原のど真ん中にこの農場はある。
少し足を伸ばせば新鮮なモンスターが獲れる魔獣の森があり、反対側に3キロほど歩けば四大精霊を癒す効果のある水が湧く泉がある。
開けた場所にあるのは、ミアリスが黒助を転移させて来た時の計画によるものであり、現在は形骸化している。
彼女は異世界から呼び寄せた英雄と一緒に魔王軍と戦うべく、この平原に砦を建築する予定だった。
土の精霊に頑丈な城を造らせ、水の精霊で常時清潔な水を貯える。
火の精霊が絶えず周囲を照らし、風の精霊の力で瘴気は全て無害化。
完璧なプランがそこには確かに存在していた。
が、諸君もご存じの通り、春日黒助の発案と言う名の謀略によって、砦などは柱の一本すら建たず、代わりに土地を耕して農地が出来た。
色々と語り足りないが、今回は春日大農場が極めて見晴らしの良い場所で360度どこからやって来ても容易に侵入可能である点を覚えておいて頂けると幸いである。
そんな訳で、春日大農場は50人を超えるオーガの群れに取り囲まれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「てめぇ、ボケこらぁ! うちの大事な子供誘拐しくさってから! ぶち殺すぞおらぁ!」
「そうじゃ、おどれら! 坊ちゃんをよくも! この落とし前どうつけてくれるんじゃボケェ!!」
ミアリスがコルティオールの言語を統一したため、オーガたちの言葉が翻訳こんにゃく。
しっかりバッチリ見えない力によって同時通訳されていた。
「ねぇ、オーガって普段あんな口悪いの!? 怖いんですけど!?」
「ワシも驚いとります。老若男女問わず、全員があの口調ですな……」
「イルノは怖いので、耳を塞いでおきますぅ」
現地を統べる女神と四大精霊の火と水担当、彼らが最初にドン引きした。
オーガは気性の荒い種族だと彼らは認識していたが、こんなVシネマチックな口調だとは露知らず。
「はっはっは! ほら、見ろ未美香! 鉄人! あれがオーガと言うヤツらしいぞ!」
「ぱないねー! なんか超怒ってるー!!」
「これはまた
メンタルがお化けの春日家。
罵詈雑言の嵐の中でも平気で帆を張り平常運航。
「ファルオくんのご両親はいらっしゃいますか? ファルオくん、分かるかな?」
「……いるよ。あそこで斧振り回してるのが父さん。隣でゴールドボアの生肉振り回してるのが母さん」
破天荒なご両親だった。
「おんどれ、ごるぁ!! そこにおるのうちの息子やないけぇ!! どがいする気じゃボケェ!!」
「ええ加減にしいや! うちが温厚な母ちゃんに見えとるからってほんま、舐めてとったらあかんで!?」
ファルオの両親は、オーガの群れの中でも角がひと際長く鋭い。
「オーガ族の優劣は角の長さによって決まんのよ!」とは、ミアリス談。
つまりファルオの両親はオーガ族の族長であり、ファルオは組長のせがれ、もとい、族長の息子と言う事になる。
「ふむ。しかし、あれほど興奮している割には近寄って来ないな」
「わたしが結界張ってんの!! あんたたちがオーガの集団
見えないところで頑張っていた女神様。
どうにかしろと言われればどうにかする用意もある黒助。
彼だって、家族の前でいいところを見せたい。
「行って降伏させて来ればいいのか?」
「えーっ!? お兄、暴力はよくないよー! 時代はラブ&ピースだし!」
「すまんな、ミアリス。俺の力が及ばない事だったようだ」
「だぁー! もぉー! なんでわたしはこの男をコルティオールに召喚したのかしら!?」
悩める女神に代わり、ゴンゴルゲルゲが報告した。
「あの、黒助様? 柚葉様がファルオくんを連れて一団に向かわれましたが?」
「なんだと!? それはいかん! 危ないじゃないか! すぐに俺も行く! 鉄人、お前も来てくれるか? 交渉事になると俺はてんでダメだからな」
「任せてよ兄貴! ちょっと待ってね! はい、どーも! 今日は異世界から、ね! 怒れるオーガの群れに突撃してみようって事で! では、早速行ってみましょう!!」
「さすがだな、鉄人。既にインターネットと事前交渉を行っている……!」
ゴンゴルゲルゲは「多分違うんだろうな」と思ったものの、それを口に出すのは無粋であると判断し「行ってらっしゃいませ、お気を付けて」と2人を見送った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ファルオくん。お父さんとお母さんですよ! ふわっ!? あ、あれ? 見えない壁があるみたいですね!?」
ミアリスの結界は生きとし生ける者全てに作用する。
当然、柚葉の体もがっちりガード。
「おおん、ファルオ! お前、このド腐れ外道どもになんぞされちょらんか!?」
「言うたれ、おとん! うちのファーくんを連れ去ってからに! 事案や! 事案!! おばちゃん許さへんからな!!」
怒気を強めるファルオの両親。
柚葉はさぞかし怯えているだろう。
「ふふっ。元気なご両親ですね。賑やかで! きっと毎日楽しいですね!」
春日家の持つ鋼のメンタルはここにも健在。
柚葉はニコニコと青筋立ててキレ散らかしている鬼に向かって「わぁー」と手を振っている。
そこに駆け付ける黒助。
「すまん、柚葉! 遅くなった!!」
「あ、兄さん! ファルオくんをご両親の元に帰してあげたいんですけど、なんだか壁があるんです」
物理的な壁と心の壁の2種類が彼らとオーガ族を隔てていた。
「おらぁ!!」
ノータイムで結界に穴を空けたのが黒助。
「なにやってんの!?」と当然のリアクションを見せるのがミアリス。
「はい! ご覧ください! 今からオーガが
その予言通りなだれ込んで来るのがオーガの群れ。
無秩序にもほどがある。
「おんどれぇ! よくもうちの可愛いせがれに心細い思いさせよってから、ボケぇ!」
「あんた、もっと言うたりぃ!! ホントええ加減にせぇよ! 世の中、仁義っちゅうもんがあるやろ!!」
ここまで混沌とした空気のみでお送りしていたが、鶴の一声の準備が整った。
「父さん、母さん! ヤメて! このお姉ちゃんにぼく、助けてもらったんだ! 無断で森に行ってごめんなさい! 腰が痛いって言う父さんのために薬草採りに行ったら、大けがして動けなくなって……!!」
それからファルオは語った。
柚葉をはじめ、治療をしてくれたミアリス。
優しくしてくれたイルノと未美香。
農場まで運んでくれた黒助。
なんかカメラ持ってやたら寄って来た鉄人。
特に何もしていないゴンゴルゲルゲ。
ここの人たちは魔物だからと差別をしない、とてもいい人だと幼い彼は熱弁した。
「あっ、ほんま? いやー。綺麗なお嬢さん、ありがとうございますー。利発そうでねぇ。品があって、華やかでねぇ?」
「ほんまにねぇ! もう、綺麗な子ばっかりで! おばちゃん恥ずかしいわぁ!! やいやい言うてごめんなさいねぇ」
鉄人の交渉術は特に炸裂する事もなく、なんだか丸く収まったのであった。
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