第3話

 長い道のりを超えて、山の麓までやって来た。

 僕、大男、そして話を盗み聞きしていたニケの三人でだ。


「悪いな、馬車まで準備してもらっちゃって」


 男が準備した馬車によって、時間がかなり短縮された。

 もともと、歩いて行くつもりは、無かったが、彼の準備がいいことには驚いた。


「いえ、村がピンチなので、出来るだけ早く来ていただきたかったものですから……」

「それほどドラゴンの被害は大きいんですか?」


 男の言葉に、ニケが険しそうな表情をする。

 もともとニケは、ドラゴンの血を引く人間である龍人で、人間とドラゴンの和平を取り持つために、魔王として僕に話を持ちかけた。

 だからこそ、ドラゴンが人を襲ったとなると黙ってはいれないのだろう。

 僕はつくづく選択を間違え続けているらしい。こうなるなら、無理にでも、酒場で依頼内容を聞いておくべきだった。


「まあ、どっちにしろ、盟約を破ったドラゴンは盟約によって裁くしかないだろう?」

「そんなつもりないくせに……」


 彼女はそういうが、僕は本気でドラゴンを倒すつもりではある。

 ただ、ドラゴンと本気で戦って、死んでしまったのなら誰も文句は言えないだろう。

 勇者だって人間だ。ドラゴンに勝てるなんて誰も思っているはずがない。


「いやいや、全力でやるよ」

「あらそう。だったら伝説の聖剣コキュートスを使うってことね」

「残念だが、僕はこれしかもってないよ」


 僕は腰の剣を見せる。

 誰が打ったものかすらわからないような無名の剣だが、なかなかにいい鉄を使っていて、おおよそ3キロ程度のロングソードだ。

 錆びてなければそれなりに使えたことだろう。

 全く、嘆かわしいことだ。


「それはそれは……でも安心して、ちゃんと持ってきてあるから」


 ニケはそう言って、背負った聖剣を僕に見せつける。


「おいどうやって取り出したんだ! 誰にもさわれない場所に置いておいたのに……っ!」


 僕が全財産を費やした、誰も入ることが出来ない武器庫の奥にしまっていたはずだ。

 入るには何重にもかけた保護魔法を解かなければならない。

――おおよそ、王国に存在する魔法使いの中でも、一握り中の一握りだけしか解けないだろう。


「ヘカテーに出してもらった」


 あの野郎……いや、野郎ではないけど、いつも僕の予想を超えていきやがる。

 どれだけ僕のことが嫌いなんだ。


「そんなもん使って、ドラゴンが弱かったらどうするんだ?」

「その心配は意味がわからないわよ……簡単に勝てるならいいじゃない! だって勝つつもりなんでしょ」


 ニケはにやけ顔でそう言った。

 簡単に勝ててしまっては意味がないんだよ。なんてこと、口にできるはずもない。

 依頼を受けている手前、失敗するつもりだと知られるわけには行かないしな。

 もちろん、僕は全力でやるつもりだ。――ただし、僕が携えている伝説のサビ剣を使ってだ。


 だが、それの計画もニケのせいで全ておじゃんだ。


「はぁ、ドラゴンが本気の僕より強いことを祈るしかないな……」


 僕は誰にも聞こえないぐらいこの声でポツンと呟いた。

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