第59話 5-9 たった一人の英雄
『御剣剣也、やはりあなたが最強へと至りましたか』
「お前はだれだ!」
剣也は声の主に、問う。
『最強が決定した今時点をもって、最後のシナリオに進みます。御剣剣也今回は、期待していますよ。私はAランクダンジョンすべてを攻略した果てにいます』
声の主は、剣也の声を無視する。
直後世界に声が響いた。
『最後のワールドクエスト【最強の討伐】が発行されました。
御剣剣也の討伐をもって、世界は正常に戻ります。
御剣剣也の討伐をもって、世界は正常に戻ります。
御剣剣也の討伐をもって、世界は正常に戻ります。
…』
な、なんだ? この声は。
俺を討伐する? 何を言ってるんだ。
繰り返される、御剣剣也を討伐するというメッセージ
「え?」
直後飛んでくるのは、ビアンカの拳
重い体で何とか受ける。それでも100倍の身体能力に吹き飛ばされる。
「ごめんなさい、剣也さん。死んでもらえますか?」
「な、何を言っているんだ。ビアンカさん!」
直後周りの神の子達が一斉に剣也へと襲い掛かる。
まずい、今は戦える体じゃない。
状況はわからない。とりあえずここから離れなければ。
剣也は、脱兎のごとくその会場を後にした。
一体何が起きてるんだ。
わからない。とりあえず逃げなければ。
一旦街中で、一息をつく。剣也の身体能力なら逃げきるのは無理ではない。
しかし、王との戦闘で消耗しているため思うように体は動かない。
「はぁ、はぁ、はぁ、一体なにが」
直後顔を上げると、周りで歩いていた人間すべてが剣也を見ていることに気づく。
「おい、冗談だろ?」
冷や汗をかきながら剣也は、最悪の想像をする。
そしてそれは現実になった。全員が剣也を殺そうと各々の武器をもって殴りかかってきた。
そこには、幼女さえ含まれていた。
「くそ!」
また剣也は逃げる。
どこに行っても同じ。顔を合わせれば全員が剣也を襲ってくる。
行きつく暇もなく、追い続けられる。
なんとか、日本に帰ろう。この国はおかしい。
剣也は、日本行きの飛行機の貨物室に乗り込み身を隠すことに成功した。
すでに時間は深夜を回っている。
「何が起きているんだ」
わからないが、それでも眠い。限界だと思った剣也は、そのまま睡眠をとる。
夜の海を飛行機は飛ぶ。
暗く、月あかりすら雲に隠れて、光はどこにも見えなかった。
日本についた剣也は、嫌な予感が的中してしまった。
別にあの国だけじゃない。
この祖国でも。英雄として、インフルエンサーとして必死に守ってきたこの国の国民ですら剣也を見ると殺そうとしてくる。
身を隠しながら、剣也の思いは一つだけ。
夏美、夏美だけはせめて。剣也の愛する女性。たった一人剣也をこの世界につなぎとめてくれていた人。夏美なら。きっと夏美だけは大丈夫。
そんな期待で剣也は寮へと走って向かう。
寮につき、一目散に、部屋へと走る。
「夏美!」
ドアは空いており、夏美は台所で料理をしているようだった。
「剣也?」
「ただいま、夏美」
剣也は夏美に駆け寄る。
夏美も振り向き、そして感じるのは、優しい抱擁。
よかった。夏美だけはそのままだ。
剣也は安堵した。
「よかった。剣也。良かった。帰ってきてくれた」
「ごめん。待たせて」
剣也も夏美を抱きしめる。
キーン
直後なるのは、金属をバリアが弾く音。
「よかった剣也。ねぇ、剣也? 一緒に死のう? 私も一緒に死んであげるから。ね?」
料理に使っていた包丁をそのまま、剣也の背中に夏美は突き立てようとする。何度も何度も
その目は焦点があっておらず、剣也の姿は映さない。
虚無。そんな感情を夏美の瞳は映していた。
「うわぁぁぁ!!」
剣也は夏美から飛びのき、その場を逃げる。
認めたくないという思いとともに、寮をでる。
ダメだ、夏美もおかしくなっている。
「やはり、ここに来たか、剣也君」
急いで外にでた剣也を待ち伏せるように、そこには八雲さんと特進クラスの面々がそろっていた。また多分神の子学園の生徒だろう。何十人もの生徒が待機していた。
「八雲さん…。八雲さんもおかしくなってるんですか」
「おかしいのは君だよ? 剣也君。君一人の命で世界が救えるんだ。喜んで差し出すのが誠意というものだろう?」
直後八雲さんが攻撃の合図をする。
「悪いな、剣也。死んでくれや」
彪雅が一番やりで剣也へ突っ込む。続いて、武、美鈴も。
「どうしたんだよ! みんな!」
「御剣。俺はお前を超えたかったんだがな。この国のためだ。すまないが死んでくれ」
佐藤は、Aランクギフトを発芽していた。その移動速度は、マッハを超える。
剣也はすべて捌ききるが、体が思うように動かない。なんだ?
「剣也~私の半減もAランクまで聞くようになったんだよ~」
美鈴のギフトか!
剣也はまた逃げの一手を選択する。
彼らはおかしい。それでも剣也が彼らを傷つけることはできない。
だから逃げる。
どこへ? 世界中が敵かもしれないのに?
それでも逃げる。逃げ続けた。
神宮寺さん、恵さん。片っ端から知り合いに会ってみたが、みんな俺の命を狙う。
父さん、母さんも俺の命を狙うのかな。
両親だけは会えなかった。会いたくなかった。
怖かった、あの二人に死ねと言われることが。
怖かった、この世界にたった一人になったようで。
逃げた、どこまでも。もう誰にも会わないように。
殺意を向けられないように。
どれだけ逃げただろう。3度ほど日が昇り落ちた。
いつの間にか人里離れた森の中の洞穴に剣也はいた。
「疲れたな」
剣也は疲れていた。
体がではない。心がだ。
守っていたはずの人たちにも。守りたかった人にすら。拒絶され続けた。
剣也の心は、鋼のような剣也の心は摩耗し、へたり、折れかかっていた。
もうすべてがどうでもいい。消耗しきった剣也は茫然と洞穴の壁を見る。
そのまま、なにもせずに5,6時間がたっていた。
うつろな目で、洞穴の入り口を見る。一人の人間の影が見えた。
いつの間にか朝日が昇り光が差す。
もういいか。逃げるのももう疲れた。
「剣也?」
「静香、か」
直後静香が走り出す。
ああ、静香もか。
でもまぁ殺されるなら静香がいい。知らない人間よりも。
剣也は目を閉じる。あきらめたように。体と心が分離してもう動けない。
直後感じるのは、剣で切られる感触。
なんかではなく、やわらかい胸?の感覚と、いい匂い
「よかった、よかったよ。剣也。生きてた」
静香は泣きながら剣也を抱きしめる。
「静香?」
「みんなおかしいの、剣也を殺せって。だから私あなたを探しまわって。私のギフトならあなたの方向がわかるから」
「静香は、俺を殺したいと思わないのか?」
「思うわけないじゃない。たとえ世界が敵でも私は、私だけはあなたの味方よ」
それでも剣也は疑心暗鬼だった。
今まで何度も裏切られた。この後背中を刺されるのでは? 剣也の警戒は解けなかった。
それを静香も感じ取る。
「もう!」
静香は、剣也に唇を重ねた。
「こ、これで少しは信じられるかしら?」
真っ白な肌が真っ赤に染まる。
その目には、しっかりと、剣也の姿が映っていた。
「ぷっ!」
剣也は笑う。相変わらず積極的なのに恥ずかしがり屋のこの少女に。
いつも通りの彼女の怒っているのか照れているのかわからないその表情に。
「ありがとう、静香。信じるよ」
「へぇ!?」
剣也はそのまま静香を強く抱きしめる。
ありがとうと伝えるように、長く長く剣也も静香へ唇を重ねた。
静香もそれに身をゆだねる。
たった一人だと思ったこの世界では、
あまりに彼女は可愛くて、健気で、愛おしかったから。
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