第41話 4-3 子の嫉妬

 小御門の合図の元二人は相対し、戦闘の意志を両者へ向ける。

直後現れる決闘モードの承諾画面

その画面をみて二人が選択するのはもちろん。


「決闘モードが承認されました。これにより両者間のダメージはすべて決闘モードが終了した後には反映されません。それではカウントを始めます。3、2、1 START!」


 そのアナウンスを皮切りに俺は閻魔を抜く。

佐藤も護国刀を抜く。

直後佐藤の姿が消える。

いや、正確に言うならとてつもない速度で動いている。


 事前に共有されていたギフトの能力では、佐藤の能力は10というらしい。

効果は、『自信の座標が移動するための行動時速度が10倍の速度となる。

この際発生する反動はすべて無効化される』

というものだそうだ。


 なので今の佐藤は、仮に時速30キロで走れるなら300キロもの速度で動き回る。

そしてそれにより発生する慣性力は無効化されているため縦横無尽だ。


 その映像を見ている生徒たちは唖然としている。

自分たちのちょっと身体能力があがるだとかそういった次元のギフトではない。

これがBランク これが特進クラス

その実力の差を悲観する者もいれば、頼もしいと思うものもいる。


 そして佐藤は、その速度を維持したまま剣也に突進を仕掛ける。

新幹線のような速度で突撃してくるその突進は、身体能力など関係なく、速度×重さ=衝撃の方程式を証明するかのごとき一閃が剣也を狙う。


 その映像を見ていた生徒や、その場で見ていた彪雅や、武はさすがの英雄とはいえこの一閃は致命的な一撃をもらう。あの速度を無傷で受けれない。そう思った。

ただ一人を除いて。


「そこは、剣也の領域よ。不用意すぎるわね」


 そして佐藤の刀が剣也へ届く。

かと思われた瞬間、剣也の閻魔がかすかに動く。

最小の動きで、最大の効果を得られるよう佐藤の刀の側面を優しくなでる。


 その動きで体勢が少しずれた佐藤はバランスを崩し、そのまま剣也を素通りするかと思われた。

が、剣也はそんな隙を逃さない。

攻撃を受けたことにより発生した護りの剣豪

その身体能力10倍の力で、すれ違いざまに佐藤の顎への膝での打ち上げ。

この一撃で佐藤の意識は消失し、体は打ち上げられる。

そしてダメ押しの閻魔による一閃。


 この間わずか1秒にも満たない攻防を視認できたものは剣也とずっと戦ってきた静香ぐらいだろう。そして佐藤は、体力ゲージが0になり、意識を失い、地面に倒れた。


「勝負あり!! 御剣の勝利!!」


 そして決闘モードは終了し、佐藤は意識を取り戻す。

映像を見ていた生徒、そしてその場にいる教員含めすべての人間は本当の意味で知ることになった。この国の最高戦力、救国の英雄と呼ばれる存在の力を。


「なぁ、見えたか武? 今のなに起きたか」


「いや、まったく」


 二人は、目の前で見ていたのに正直何が起きたかわからなかった。

唖然、驚愕、尊敬、畏怖なんといっていいかわからない感情を織り交ぜながら剣也を見る。


「いや、ほんま、やらんでよかったわ。相手にもならん。恥かいて終わりやったな。これが英雄様の力かいな。いつかわしらほんまに、肩ならべて戦えるんか」


「わからん。追いつけるのか、並べるのか。しかし、追うことはできる。まだギリギリ見えている背中を見失わないようにしないとな」


「そやな。ほなわしらも始めよか」

そうして、二人も戦闘の準備を始めた。



「負けたのか、俺は」

決闘モードが終了し、佐藤は意識を目覚めさせる。

何が起きたかはわからない。最後にある記憶は、突進がずらされてバランスが崩れたところまで。負けたのだろう。この手を差し伸べられているということは。

「すごい速さだったよ、佐藤君。俺とはギフトの相性が少しわるかったけどすごい能力だ。」


 そうして剣也は佐藤に手を差し伸べる。

佐藤はその手を払い、その場を後にした。

その顔は悔しさなのか、恥ずかしさなのか、言葉にできない感情を表す。

ずっとあいつを倒すことだけを考えていた。

認めてもらうために。唯一ただ一人自分が認められたい相手に。

でも負けた、ああもあっさりと。


 この感情が、のちに無謀な挑戦をしてしまうのは、仕方なかったことだろう。

まだ高校生 自分の心を律するすべを彼はまだ知らない。


そして、剣也が部屋を出る。


「剣也~かっこよかった~! 強い男ってそそる~」

美鈴が剣也に近づき、体をくっつける。

すかさず邪魔するように静香が間に入り剣也にタオルを渡す。


「お疲れ様、さすがだったわね」


「ちょっと、しずしず~ぬけがけ~」

そんな美鈴を無視して静香は剣也にタオルを渡す。


なんだろう、すごく居づらい。


「いや、能力の相性がよかった。俺のギフトでは、いくら早かろうかそれほど関係ないからね、佐藤君は強かったよ。あのギフト相当練習しなきゃ使いこなせないはずだ」


「いやー剣也、ほんまつよいな。やらんでよかったわ。次はわしらやからそこ通したってなー」

そういって手を間に入れごめんごめんと通る彪雅と武


 自分以外のナンバーズ同士が戦闘するのは何気に初めて見るな。

いつも模擬線は静香となので、少し楽しみだ。

そして彪雅と武の決闘が始まる。


 結果だけ先に言おう。まだ終わらない。

試合開始から30分全然終わらない。

武の能力は、体を鋼のように固くする力らしい。硬くした場合はその部位は動かせない。

そして、彪雅はタイマン特化、

お互いの身体能力を自分と相手の身体能力を足して2で割る状態にするという力だ。

ただし彪雅の能力は、BランクギフトのためBランクまでしか効果がないらしい。

試したことはないので、確証はないらしいがあとで試してもらおう。

他のギフトを見る限り、相手にデバフを与える系は、そのランクの相手にしか効果がないものが多そうだ。



そしてこの二人が相対すればどうなるか。

鋼のように固い武を削れない彪雅と動けない筋肉だるまが誕生する。


「相変わらず硬ったいのー、武!!」


「はは、硬いのだけが取り柄でね」


焦れた小御門が終了の合図で終わらせた。

正直見てるほうも疲れていたし、止めなければこいつら一生やってそうだったので助かった。


「ふぅ、今日のとこは先生に預けとこか」


「うむ、そうだな」

そして二人は良い顔で、部屋を出る。満足しきったかのようなその表情で。


「いやー、ええ汗かいたわ、あれわしらにはタオルないんか、会長」


「ないわよ、長すぎるわ」


「こりゃ、辛辣やな。すまんすまん。わしらBランクギフトやけど、佐藤に比べたらちょっと見劣りするからな」


「硬いのは、嫌いか?」

セクハラっぽいからやめろ、武。


「じゃあ次、二菱と、黒田! 入れ」

小御門先生の一声で、二人は準備し、部屋に入る。


「よろー、しずしず」


「ええ、よろしく黒田さん。それと私が勝ったら静香と呼ぶように」


「えーじゃあ、私が勝ったら剣也とLINE交換していい?」


「な!? 私に聞く必要がありますか。勝手にすればいいでしょう」


「勝手にしちゃっていいの? ほんとに?」

黒田美鈴は、にやにやした顔で静香に問う。

本当にいいのかと、いたずら心で。なんとなく静香の気持ちに気づいているのだろう。


「それでは、準備はいいか? 二人とも! それでははじめ!!」


そして二人の女の戦いが始まった。

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