第23話 2-13 恋敵

ヘリで上空に避難していた八雲大臣が光の粒子になったゴブリンをみて

剣也の勝利を確認した。


「よ-し!」

普段冷静な八雲だが、これにはさすがに興奮した。

「よくやった。剣也君。本当によくやった。」

小さなガッツポーズをとりながら八雲は、神宮寺に着陸を指示する。


「やるじゃねーか、坊主」

「剣也きゅん最高!!」


隣で同様に戦闘をみていた疲弊した静香は、ただただ呆然としていた。

あの存在に立ち向かえる少年の胆力と

あまつさえ、倒してしまう戦闘力


私では敵わない。でも負けたくない。

追いつきたい。同年代の少年にここまで強い敗北感と尊敬を抱いたことはない。

この強い思いが、

尊敬という強い思いが、

憧れへと変わり、

やがて恋に変わるのは必然だったのかもしれない。

でも今はまだ先の話


今は、ただあの小さな英雄を抱きしめたい。

お疲れ様と、よく頑張ったと。

ヘリが着陸して、まだ震える足を必死に動かしながら静香は剣也にむかって走り出す。


「よかった息がある。」

静香は安堵する。


「すごかったよ、剣也

本当にあなたは強いのね。本当にお疲れ様」


そして少し照れたように誰にも聞こえない声で、静香はつぶやく。

「かっこよかったよ。」

皮肉にもこの光景は、抱きしめる方こそ違うが

また違う戦いが始まったことを暗示しているようだった。


「む?」


「どうしたの夏美ちゃん?怖い顔して。」


剣也の母と夏美が、剣也の帰りをそわそわしながら待っていると

夏美が何かを感じ取った。


「敵が現れました。」


「何言ってるの、武士みたいなこといって」


「ふふ、そうですね。気のせいだと思います。」


ゴブリンキングの騒動が終わった後

剣也は、防衛省の医療機関ですぐに治療を受けた。

といっても大きな外傷はなく、ただの疲労なので、特に治療は受けていない。


一方八雲は着々と準備を進めていた。


「すごいですよ。八雲さん」

「これ、この映像。

本物ですよね?こんなことができるんですか、人が。」


「あぁ、うまく編集してくれよ。

この国の英雄だからね。


この親子にも許可は取ってる。

自分たちを救ってくれた少年のためなら是非使ってくれと。

快諾してくれたよ。

あとは君の編集技術で最高の出来に仕上げてくれ。」


「こりゃ、俺の視聴率最高値叩き出しちゃうかもしれないな。

メディア人としての血が騒ぎますよ。」


某テレビ局に、八雲は今回の騒動を一部始終をとった映像を手渡していた。

神宮寺と八雲と早乙女で撮り続けた悲劇の親子と、少年と怪物との劇的な死闘と幕切れ

この映像は、神の子学園へのいい材料となる。


「予定とは少し違ったが、利用させてもらうがいいね、剣也君

これも政治だ。これも私の戦いなんだ。」


八雲は、広告にすることに少し心を痛めながらも、引くつもりはない。

全力で利用させてもらう。

それが、


「誠意というものだからね。」


「なんか言いました?」


「いや、こっちの話だ。

では一日で頼むよ?明日の会見には間に合わせたい。」


「任せてくださいあと24時間ありますからね。余裕ですよ。」


そう言ってディレクターは嬉しそうに今夜は徹夜だ! と息をまいた。

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