第22話 2-12(5) 怒りの英雄

怪物と英雄のリベンジマッチのゴングが鳴る。


ゴブリンキングは、斧を振り下ろす。

もっとも得意な一撃なのだろう。

最初の一撃と同じ手段をとった。


避けようと思えば避けられる。

しかし剣也はそれをかわさずに受け流すことにした。

閻魔の力を信じて。キングに反撃するために。


引き伸ばされた世界で、キングの斧が剣也へ振り下ろされる。

上段からの打ち下ろし。

剣也は閻魔を頭上に構え、わずかに弛ませる。

打ち下ろしの速度に剣を合わせ、徐々に減速させながら剣を斜めにすることで

横からの力で軸をずらす。

閻魔は、一切の不安を感じさせずキングの一撃を受けそして、流しきる。

すごい、何て硬くて粘り気があるんだ。

剣也は閻魔の性能に驚く。


驚異的な力だろうと縦の力は横の力で簡単に動き、

受け流された斧はそのまま地面を叩き割る。


受け流しながらも加速を終えた閻魔がキングの首へ横なぎで切り込む。

ゴブリンキングはすんでのところで顔をさげて顔面で攻撃を止める。


そのまま閻魔が顔に刺さるが剣也のちからでは柔らかい部分以外では、致命傷とはならない。

刀が1cmほどささって止まった。


まずいと思った瞬間キングは、右膝蹴りを繰り出した。

このままでは、剣也の腹をゴブリンキングの膝が抉る。


一撃貰えば終わりのその攻撃に剣也は冷静に

その場でジャンプし勢いが弱まる太ももに飛び乗った。

すごい衝撃だが、膝蹴りのため、ふとももでは、

タイミングを合わせればそれほどの威力はない。

その威力の反動を利用して、刺さった刀を抜き、後ろへ飛んだ。


極限のやりとりのなかで確実に剣也の戦闘センスは磨かれていた。

しかし、単純な膂力が足らない。

高校生とはいえ、普通の帰宅部だ。

いい刀を使っても宝の持ち腐れ 有効打が得られない。


ならば狙うのはケルベロスと同じ

やわらかい部分を狙ったカウンター

相手の不意を突いた一撃ならばあいつの命にまで届くはずだ。


先程の受け流しからの、横なぎは悪くなかった。

ガードこそされたが、確実に命に触れていた。


絶妙のカウンターを狙うため、剣也は再度ゴブリンキングと切り結ぶ。

一度のミスも許されない引き伸ばされた世界で剣也は思考を止めない。

正面からでは、防がれ致命傷は与えられない。背後から首へ一撃を当てる方法を。

しかしその方法が思いつかない。

この怪物から背後をとる方法が。


この嵐のような殺意の鉄塊吹き荒れる危険地帯を抜けて背後をとる方法。

ふと思いつくのは漫画ではお馴染みのあの技

しかしあれを現実でできるのか?


ゴブリンキングの膂力あふれるあの巨大な斧と思考加速なら、可能かもしれない。

このまま続けてもジリ貧だろう。

体力も思考力も限界が近い。

ならば賭けるしかない、この命を。

その代わり、お前の命もベットしてもらうぞ、キング。


剣也はゴブリンキングの横なぎを誘う。

剣也の中では長時間切り結んだゴブリンキングの太刀筋はなんとなく把握していた。

この怪物も小細工やフェイントはない。

もっとも最短で攻撃しやすい場所へ本能で攻撃してくる。

ならばゴブリンキングからみて左へ、立つ。

そして次の攻撃を受けきり、俺から見て右へ受け流す。


そして作られたタイミングがやってきた。

ゴブリンキングの持つ右手の斧が俺から見て右上からの横なぎが。


剣也は笑って、つぶやいた。

「覚悟しろ、キング これでチェックだ。」


思考加速200倍!

一瞬の体重移動のミスも許されない。

思考の速度をさらに2倍にして全神経を斧へと向ける。


狙うは、斧の上への着地。

これは成功。タイミングを合わせて足をまげて延ばすだけだ。


問題はここから。

高速で動くこの斧の上へ居座るために、俺は刀を斧の進行方向の刃先へ直角に立てる。

あとはただの力技 

全力で閻魔を杖替わりにして、高速で移動する斧から振り落とされないように、しがみつく。


圧倒的な慣性が剣也を襲う。

先端は巨大な斧とはいえヘッドスピードは100キロは有に出ているだろう。


この状況わかりやすくたとえるなら、100キロで走る電車に飛び乗るのと同じ。

たとえ思考加速で完璧なタイミングと勢いを殺したとはいえ、

その慣性力は、簡単に人を振り払う。


しかし耐える。剣也は落ちない。

体は悲鳴を上げている。閻魔を握る握力ももうほとんどない。

それでも落ちない。振り落とされない。


彼以外に

誰がこの怪物をとめられるのか。

誰がこの怪物からあの親子のような人々を護れるのか。


*

頑張るんだよな?剣也

*


キングは、目を疑った。

さっきまで目の前にいたはずの存在がいきなり消えた。

なまじ膂力がすごいせいで、70キロにも満たない少年が、

斧の上にいることに、一瞬気づけなかった。

それは、致命的な一瞬


直後腕に感じる違和感。まさか、あの小さな存在は!


*

うん、頑張るよ。俺

なにができるか分からないけど、こんな俺だけど

俺にできることが、俺にしかできないことがあるなら俺はやりたい!

*


俺に今できること。

こんな俺にできること、俺にしかできないこと!!

それは

「お前をここで倒すことだ!!」


後ろを振り向こうとした瞬間 閻魔はキングの首を貫通した。

そして剣也は閻魔を横になぎ、キングの首を一刀する。

それは地獄の審判のように、無慈悲な一閃


キングの意識は消滅し、その場で力なく倒れた。

そして剣也もその場に転げ落ちる。

力なく倒れている怪物は光の粒子となって空へ向かって消えていった。


その粒子を目で追っていく。

雨が降るかと思われた暗雲は、いつの間にか身を潜め

勝者を祝うかのように、雲の切れ間から陽光が剣也を照らしていた。


勝った、のか。

仰向けになり、空を仰ぐ剣也の疑問に答えるように。

世界にアナウンスが鳴り響く。


ピンポンパンポーン

ワールドアナウンスです。


2021年8月21日 日本の長野県にて、ワールドクエストが一つクリアされました。

残りワールドクエストは98個です。


以上でワールドアナウンスを終了します。


ピンポンパンポーン


世界中に二度目のワールドアナウンスが流れた。

どちらも一人の少年が起こした死闘の末の結果

今はまだその事実を知るものは少ない。

しかし、この後世界中の人々は知ることになる。彼の、英雄の物語を。


そして剣也個人だけにもシステム音声は語り掛ける。

「世界クエスト

【進化したはぐれクエストを初めてクリアする。】

を、クリアしました。

世界クエスト攻略報酬として

始まりのタネを一つ攻略者に付与します。


続いてAランククエスト


【王の凱旋】をクリアした報酬として

100万ポイントを、付与します。

はぐれクエストで獲得できるポイントは一度のみですのでお気を付けください。


合計200万ポイントです。

Aランクギフトの発芽が可能ですが発芽しますか?


剣也はぼーっとした頭で聞いていた。

正直もう寝たいが、そうもいかないのでギリギリの頭で回転させる。

ふと思った疑問を何も考えず聞いてみた。

答えてくれるとも思ってなかったが。


「なぁAランクの上はあるのか?」


はい、Sランクがあります。

必要なポイントは、2億ポイントです。


「ぶっ」なんだそれ、桁が二つも違うじゃないか。

しかも答えてくれた。

俺からの回答待ちのときなら質問できるのか。

聞きたいことは山ほどあるが今は無理だ。もう意識がなくなる。


「じゃあAランクギフトでいい。発芽してくれ。」


「認証しました。

3つ適切と思われるギフトがあります。

表示しますか?」


「あぁ、選んでくれるならそうしてくれ。」


「了解しました。

剣を用いた戦闘スタイルから、以下のギフトが候補として上がりました。」


1.魔神剣 

 一定の動作から繰り出される一撃

 次の一閃のみ10倍の身体能力で行動可能


2.護りの剣豪

 相手の攻撃を、受ける、もしくは受け流した後の5秒間

 身体能力10倍(重複なし、ただし効果時間は延長される)


3.神剣召喚

 決して折れない、傷つかない剣を1本自由にいつでも召喚できる。


そして三つの候補が上がった。

どれも捨てがたい破格の能力に感じるが、俺の今日の戦闘から見た瞬間決まっていた。

誰かを護るのに、ぴったりの力が。

「護りの剣豪にする!」


「承認しました。個体名 御剣剣也にAランクギフト 護りの剣豪を付与します。

以上で、クエスト報酬を終了します。」


やっと終わった。

極限の疲労と脳の酷使はアドレナリンが途切れた今

簡単に剣也の意識を奪う。

そして剣也は眩しい光に照らされながら晴天のもと、体を仰向けにして意識を失った。

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