第16話 2-10 お嬢様と仲良くなりたい。
翌日は、ケロっとした顔で夏美はいつも通りだった。
神の子学園のこと、寮のことは了解してくれているみたいだ。よかった。
そして俺は気が向かないが、二菱静香に連絡することとした。
******************************************************************
件名:突然失礼します。御剣剣也です。
おはようございます。
御剣剣也です。
先日は失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません。
作戦のことはお聞きでしょうか。
今度一緒の作戦のメンバーになりました。
そこで二菱さんと交流を深めたいと思っておりますが、
本日ご予定はどうでしょうか。私はいつでも大丈夫です。
******************************************************************
送信っと、まぁこれぐらい丁寧に送っておけばそこまで怒られないだろう。
国語は苦手な剣也だった。
すると
ものの数分で返信がきた。暇人なのかな。
ちょっと失礼な想像をしてしまった剣也だった。
******************************************************************
件名:Re:突然失礼します。御剣剣也です。
ご連絡ありがとうございます。
私の方こそ先日は、大変失礼な態度を取ってしまい
申し訳ありません。
作戦の件は、八雲さんから聞いています。
よろしくお願いします。
後、私のことは静香とお呼びください。
苗字はあまり好きではありませんので。
直接会って交流を深めたい件了解しました。
本日の午後でしたら空いております。
プランは御剣くんに、お任せします。
******************************************************************
意外と普通な返信だったな。
メールの内容を採点されて帰ってくるんじゃないかと思ったが杞憂だった。
プランは任されてしまった。
とはいえ、デートプランは男が決めるものか。
あれ?これデート?
いや違うよ、ただ親睦を深めるだけの会だよ。
とはいえ、この災害時だ。
空いてるお店もほとんどない。
どうしたもんかと思ったが、備蓄しているお菓子とジュースを見て剣也は考えた。
そうだ。ピクニックにしよう。井の頭公園で。
******************************************************************
件名:Re:Re:突然失礼します。御剣剣也です。
わかりました、静香さん
今日12時ごろに、吉祥寺駅前で待ち合わせしましょう。
お昼を食べましょう。
******************************************************************
送信
すぐに返信が返ってきた。
******************************************************************
件名:Re:Re:Re:突然失礼します。御剣剣也です。
わかりました。
ドレスコードはありますか?
******************************************************************
******************************************************************
件名:Re:Re:Re:突然失礼します。御剣剣也です。
ねぇよ。
******************************************************************
送信っと、あぶないあぶない。
つい心の声が。さすがお嬢様だな。
現実で初めて聞かれたわ、ドレスコードなんて。
******************************************************************
件名:Re:Re:Re:突然失礼します。御剣剣也です。
ありませんので、大丈夫です。
******************************************************************
送信っと。
一方、静香は携帯を握りしめる。
異性の学生とのメールのやり取りはほとんど初めてだった。
いつも近づいてくる男はクズばかり。
性根が腐った男たちは、しかも静香よりも弱いやつばかりだった。
これ、デートよね。
男女が親睦を深めたい。
それはもうデートという奴じゃないかしら。
告白されたらどうしましょう。
多少骨のある凡骨ではあるのはわかる。
でも、身の程を知りなさい。
恋愛経験0なのに、興味深々の年頃は、拗らせていた。
なまじ美人なせいで、告白だけはたくさんされた。
その全てを私より弱い人は無理と断ってきた静香だったが、初めて敗北を味わった。
昨日こそ、怒りが込み上げてきていたが、
正々堂々とやって負けたのだから仕方ないとは思う。
そう思うと少しワクワクした。
ほとんど話さなかったけど、どんな人なのだろう。
まぁ会えばわかることだ。
静香は準備を始めた。
ところで、何着ていけばいいのよ。
12時55分 吉祥寺駅
「おい!みろよ、すっげぇ美人」
そこには、静香が制服で立っていた。
真っ黒な髪に真っ黒な瞳そして真っ黒な制服
なのに、肌は真っ白なそのコントラストは、下手なアイドルなど足元にも及ばない。
見るものを魅了する。
遅い!
いつまで待たせるのよ!
30分前からそこで待つ静香は、自分が早く来過ぎたことなど置いておき
自分を待たせてる男がいるという事実に怒りを覚えていた。
約束の時間の5分前になり、剣也が現れると。
腕を組み、足踏みをして、明らかにイライラしている静香を見た。
うわ、近寄りたくねぇ
一瞬帰ろうかと思ったが、そんなことしたら殺されかねないと思い
覚悟を決める。
ごめんごめんまった?と出来るだけ明るく小走りで近づくと
親の仇のようなすごい迫力の、すごい目で、すごい睨まれた。語彙力もどっかいった。
目からビームでもでんの?すごい怖いその目、やめてほしい。
「これだけ待たせておいて何ですかその謝罪は。
両の手をついてその何も入っていない頭を地面に擦り付けて許しを得るものでしょう。」
「待たせてって時間通りじゃ..」
キッ!
静香の目から出た光線が俺の脳を貫く。
「申し訳ございませんでした。」
剣也は土下座とまではいかないが、全力で謝った。
「いいでしょう。今回は許します。
ですが減点です。あと50点しかありませんから気をつけて行動しなさい。」
え?点数あんの?0点になったら交流会は終わりなんだろうか。
「0点になったら、私の中からあなたの存在は未来永劫消滅します。」
思ったより酷かった。
「わ、わかったよ。」
剣也は焦りながら気を付けて返事をする。
「ええ、お願いします。では、どうしましょうか。
どこにランチにいくのですか?
この通り場所がわからなかったので、制服できました。」
「えーっと、ランチというほどのものでもないんだが、
公園にピクニックにいきます。」
「ピクニック?」
静香は怪訝な顔で俺を見る。
あ、やべ減点される。
「いいでしょう。いきましょうか。
初めてです。ピクニック、少し新鮮ですね。」
セーフ!よかった。
お嬢様には、新鮮だったようだ。
そして二人は井の頭公園に向けて歩き出した。
静香さんと歩くと周りの男達の視線がすごい。
まずは静香さんを見て驚き、俺を見て怒りを覚える。
どうしてこんなやつがという怨嗟の声が聞こえてきそうだ。
「あなたにあったら聞こうと思っていたのです。
あなたの初期クエストは、なんだったのですか?
いえ。聞く前にわたしから話しましょう。」
静香は剣也に聞きたかったことを問う。
「あの地震の後、塔が気になり向かった後
塔に触れた私はNo.00222の番号を振られました。
そして発生したのがCランククエスト
倒すべき魔獣は、なんとかボアとかいうただ突進してくるだけの大きな猪でした。
正直攻撃を避けることは簡単でしたが、
ダメージが通りづらそうだなと思いました。
その時持っていたのは木刀のみでしたから。」
なんで日常生活で、木刀を持っているんだよ。
「私が剣道部で部活帰りだからです。」
あれ?俺声出てた?
「こう見えて全国でも強い方なんですよ、私は。
木刀を使ってなんとか猪を倒すことに成功しました。
少し頭を使う必要はありましたが、突っ込んでくるだけの獣でしたからね。」
それから静香さんは魔獣との闘いを話してくれた。基本的にはギリギリでよけて
ダメージを蓄積される。そして最後には、木刀で目をえぐったそうだ。
こわっ。
「私の話はしました。
あなたの話をしてください。」
「いや、その前に到着した。」
剣也は、公園の池の近くに敷物を引いた。可愛いかえるの敷物だ。
家にあったのをとってきた。
「どうぞ、せまいですが。」
剣也は静香に着席を促す。
静香は、恐れ恐れ靴を脱いで敷物の上に正座した。
いちいち所作がきれいだな。さすがお嬢様。
剣也は、配給品とお菓子とジュースを広げる。
ご飯は残念ながら配給品をそのまま持ってきた。
親の分も頼んだら二人分もらえた。ごめん父さん。今日は昼抜きだ。
どうぞと、いって静香に配給品のカレー弁当を渡す。
静香は恐れ恐れ配給品に口を付ける。
そして驚いた顔でこういった。
「まずいですね。」
辛辣なコメントありがとう。でも、それは俺が作ったわけじゃないからね。
食事をしながら静香が、口火を切った。
「では、剣也くん。あなたの話を聞かせて。」
「はい、では話させてもらいます。」
剣也が話そうとすると、静香が割って入る。
「ちょっと待って。
言おうと思ってたけど、敬語はやめて
私たちこれから命を預けるチームだし、同い年でしょ?」
「あー、そうだな。わかった。
敬語なしでいくよ。」
「ええ、そうして私もそうするわ。
ありがたく思いなさい。
私にタメ口で話せる人なんてそうはいないわよ。」
じゃ、じゃあ話の続きだが、
そうして俺はあの日起きたことを話した。
「ねぇ、肝心なことを聞いていないわ。
あなたがAランクとかいう分不相応なギフトを手に入れた理由よ。
そもそも私はそのランク自体信用していないけどね。」
「それは、推測でしかないから、
わからないけど、多分死を乗り越えたからだと思う。」
「死を乗り越えた?」
静香は、何を言ってるんだという顔でこちらを見る。
「君は最初のクエストで死んだかい?」
「何を言ってるのよ、失敗して死んでたらここにいないわよ。」
「いや、あの最初のクエストだけは失敗したらリトライ出来る。
何を言ってるのかと思うが、本当なんだ。塔で認証した瞬間に時間が戻る。」
静香は考えた。
にわかには信じられないが、そもそもこの力や、塔、あの魔獣が信じられない。
たしかに集まったメンバーは全員簡単なクエストだった。
つまりはCランク以下のクエスト達成者のみ。
Bランクをクリアしたなんて話は一度も聞いていない。
武道に長けた私ですら、あの猪を倒すのには苦労した。
一般人が、いきなりあの猪の一段上の敵に武器なしで勝つなど不可能だろう。
「でも、リトライしてクリアできるまで挑戦できるんでしょう?
ならなぜ他にはクリアした人がいないの。」
「できないよ。普通は。」
剣也は思い出すように、その時の気持ちを心の奥から掘り起こす。
「君は生きたまま噛み砕かれたり、体の半分を失ったり、したことはあるか?」
「あるわけないでしょう。」
そんな大怪我 無事でいられるわけない。
「俺はあるよ。何回何十回も。
それこそ意識のあるまま
ゆっくり噛み砕かれたこともある。
意識のあるまま胃酸で溶けて死んだことも。
狭い食道で、窒息して死んだことも。
正直今思い出しても、身震いしそうになる。
僕が経験したのはそういうクエストだったよ。」
「正直何度も生きるのを諦めて楽になりたかった。
最初は、訳も分からずリトライする選択もできなかった。
すると自動リトライされるんだ。
最後まで僕は、リトライするという選択をできなかったよ。
何度も必ずくる死の恐怖に震えることしか出来なかった。
それを支えてくれた人がいる。
その人を守るためになんとか僕は死の恐怖を乗り越えて戦えたんだ。
自分一人では簡単に諦めていた。
きっと他の人もそうなんじゃないかな」
難しいクエストがでてしまい、何度も何度も殺されて生きることを諦めた。
多分そういう人はたくさんいるのかもしれない。
静かに、話を聞いていた静香は、
悲しそうに、憐れむように俺を見ていた。
「そう、ごめんなさい。
辛い思いを思い出させたわね。」
「いや、いいんだ。
もう乗り越えたことだ」
「そう、あなたは本当に強いのね。」
静香は、想像していた。
何度も何度も殺される恐怖を。
自分なら耐えれたのか。
その恐怖を乗り越えるための、この世界に楔を打つための理由があるのだろうか。
でも私ならきっと。
「ありがとう話してくれて。」
こちらこそ真剣に聞いてくれてありがとう。
少しだけ静香さんが微笑んだ気がした。
彼女との距離が少し近づいた気がした。
そうして取り止めのない話をして、その日は解散した。
最後には、さんもいらないということで、静香と剣也と呼ぶ仲になった。
といってもチームとして動く時に敬称をつけるのはナンセンスという話になったからだが。
静香とならCランクの敵など簡単に倒せそうだ。
そう思い軽い気持ちで帰路に着いた。
楽観的な考えのときは、いつも裏切られるのが世の常だというのに。
東北 長野県
避難され、人がいない無人の村に一体のゴブリンが佇む。
誰にも聞こえないシステム音声が、静寂の中に溶けていく。
クエスト発生から、50時間が経過しました。
クエスト難易度をランクアップします。
ボブゴブリンは、ゴブリンジェネラルに進化しました。
クエスト難易度はBランクに上昇しました。
次の進化は100時間後です。
体格のいいゴブリンは、黒い繭に包まれたかと思うと、
「ぎゃぁぁぉーー」
巨大な叫び声と共に、甲冑を着たゴブリンへと変貌した。
でも今はまだ誰も知らないその怪物は、森の中へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます