第9話 2-3 緊急会見と龍

避難所に戻ると無事だったテレビが電波を受信し、映像を流している。

少し古い型だが、十分見られそうだ。

大勢の避難者が囲むようにテレビを見ている。

そこには日本国首相

田中出雲が、いつものスーツではなく、災害時の業務服を着て会見を開いていた。


「まずは、2日前8月15日に、発生した日本全土に及ぶ大規模地震についてですが、

死者行方不明者は10万人を超えると見られ、現在も増加中であります。


自衛隊、警察、消防等連携できるところはすべて連携し、早急に救助活動を行なっております。

また配給に関しても全国の避難所に合わせて十分な量を配給できる準備ができておりますのでご安心ください。


備えは十分です。どうか焦らず、落ち着いて行動してください。


この未曾有の大災害

乗り切るためには国民一人一人の力を合わせる必要があります。

手を取り合い支え合い乗り越えていきましょ。


政府としては、国庫を惜しまず全て開放してでも国民の安全安心をいち早く確保できるように努めてまいりますので、どうか早まった行動だけは起こさないでください。


そして、現在皆さんもご存知の通り

SNSやネット掲示板等で話題になっている、

あの塔そして、未知の生命体について今回の災害対策の全権を担うこととなった。

日本大震災対策本部 本部長兼防衛大臣の佐藤八雲から説明があります。」


出雲は八雲にマイクを渡す。

あとは頼むという思いを込めて。

それに八雲は答える。


「まずは今から話すことに関しては推測の域を出ないことを先にお詫びさせていただきます。

しかし、推測といえど、何も話さない何もわからないでは誠意にかけると思い、現状政府が把握し推測していること全て包み隠さずお伝えすることにいたしました。

どうか落ち着いて、お聞きください。


ではまず、地震の発生原因ではないかと噂知れている正体不明の塔に関してですが、

専門家からの報告によりますと発生の原因である可能性が高いと受けております。

全国で発生したこの塔の出現

その出現による振動が連鎖的に広がり爆発的な衝撃を日本国全土に発生させたかと思われます。

またネット情報等で、一部の方はご存知でしょうが、

この事象は、日本だけではありません。

世界いや、地球全土で発生しております。


アメリカはもちろん、中国、ドイツ、果てはブラジルまで全ての国で

大小はあれどこの大災害は発生していることを、確認しております。」


会場にざわめきが起きる。

日本国全土で発生していることは、大体の記者たちも把握していたが、

世界中であると明言されたのは初めてだったからだ。


少し静まるのを待ってから八雲大臣は続ける。

「日本は地震大国として、強度な建築技術で世界をリードしております。

しかし普段地震が発生していない国に関しては、正直壊滅的状況と把握しております。

ですが、国内もこの状況であり、お互い援助はできないと。

首相間ではやりとりしております。



そしてあの塔に関してですが、現状わかっていることはありません。

入口もなければ破壊もできない。

人類のテクノロジーを持ってして理解不能なテクノロジーであるとだけ回答させていただきます。


こちらに関しては、引き続き調査いたしますので、追って発表させていただきます。


そして皆さんがもっとも関心をもち恐れてている。

未知の生命体についての情報です。

ますは、この映像をご覧ください。」


すると、テレビの画面は切り替わる。


このビル街は、ニューヨークか?ヘリから撮影したような空撮映像が流れる。

その摩天楼を押しのけるように聳える人類の建築物より遥か巨大な塔

その塔の近くを飛んでいるのは、


「ドラゴン!?」

会場の記者が思わず立ち上がり大きな声で反応した。


「ええ、ドラゴンです。神話の生物。

あのドラゴンと同じ形状の生命体です。」


それは、漫画やアニメに出てくるような、御伽噺から出てきたような、怪物。

黒い体に巨大な翼圧倒的な質量を誇り、10メートルはあるその体躯を、

それよりも大きな翼で浮かせていた。


「米国では、この生物の名称を

そのままDragonと呼んでいます。


そして米国は、この生命体に対して、軍事行動を取りました。

というのもこの生命体ですが、視界に入る人間を襲い食べる。と報告されています。」


会場がさっきよりもざわめく。

その風貌に、人を食うという特性、恐怖するには十分だった。


「そして米国は、人の住む街に、都市であるニューヨークへ本日12:00頃攻撃を開始しました。

それは、まるであの映画キングコングやゴジラのように。

戦闘機のミサイルによる生物への攻撃。

人類史上いまだ行われたことのない一つの生命体への軍事行動。

地球上にこの攻撃に耐えられる生物は存在しません。

では、その映像をご覧ください。」


ドラゴンへ向けて戦闘機がミサイルを放つ。

正直ドラゴンといえど生物だ。

人類の技術の叡智の結晶、近代兵器の前にはなすすべないかと思われたが、

爆炎の中現れたのは、無傷のドラゴンと、それを覆う巨大なバリアとしか呼べない不可侵の障壁


「これはこのドラゴンだけではありません。

各国あらゆる神話の生物、空想の生物が現れましたが、

全ての生物に対してこのバリアが発生していることを確認しています。

銃による発砲も例外ではありません。


この時点で、人類の兵器は彼らにはまったく有効打となり得ないことが、判明しました。

現状使っていない兵器は核兵器のみですが、この状況だと、効果があるか疑問です。」


核兵器 


映画の中でしか存在しないと思われたその兵器の名前が出され、

この現実がどれだけまずい状況にあるか、映像を見たものたちは少しずつ実感した。


「以上が現状わかっているすべてとなります。」

八雲は話を終えた。


記者の一人が立ち上がる。

「い、いじょうって!じゃあどうするんだよ!

あんな怪物が現れたらどうしよもないじゃないか。」

怒気の混じった声を荒げる。不安から来る恐れを怒りに変えているのだろう。


「現在検討中です。

回答は控えさせていただきます。」

八雲は記者の顔をしっかりと見据えて回答した。その迫力に記者も押し黙る。


「そして最後に、とても大事なことを言います。」

そして八雲は、さっきまでの淡々と説明する様子から一変し、

決意を決めた顔で、藁にも縋るような思いで、国民に向けて嘆願した。


この言葉の意味が、わかるものは、

私のところにどうにかして、連絡して欲しい。

連絡方法は、メール、電話、SNSなんでも大丈夫だ。

直接防衛省に来てもらってもかまわない。どうか、よろしく頼む。」


そういって八雲は頭を下げた。

ほとんどの国民にはなんのことかわからない。


なぜ防衛大臣は頭を下げた?始まりのタネとは?

後にSNSでは、多くのガセネタが溢れ出す。

記者たちも始まりのタネとは?と、質問をしていたが八雲は、一切答える気はないようだ。


こうして怒涛の事実が明かされた会見は終わった。


始まりのタネ

あの塔に触れた時にギフトという名で俺に渡されたものことだ。

名前から想像するに、俺のこの力の元となるようなギフトなのだろう。

この始まりのタネのことを言っているんだろうということは、政府はこの事実を知っている?

しかしあの会見からして知っているのは一部の人のみ。

考えを巡らせるが正直よくわからない。

だが、

防衛大臣の、防衛大臣としてではない。

一人の男としての、頼み

嘘偽りのないであろうあの態度に

剣也の心は動いた。

正直八雲という防衛大臣には、興味がなかった。

そもそも政治に興味がないのだが。

それでも、協力したいと思った。思わされた。


よし、明日防衛省に行ってみよう。

この世界に起きている異変が少しでもわかるならそれもいいだろう。

自分自身この力が何かよくわかっていないのだから。

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