第8話 2-2 英雄の目覚めと生還者
八雲大臣が指揮を開始してから全国で救助と調査が開始された。
死亡者、怪我人、行方不明全てにおいて、過去のどの災害よりも数値を上回ってしまった。
それもそうだろう。
これほどの日本全土の災害など今まで発生しなかったのだから。正確には世界全土だが。
しかもまだ全容すら明らかになっていないのにである。
経済への影響は莫大
電車も動かなければ、コンビニも動いてない。
ほとんどの社員は仕事を休み、あらゆる経済活動は止まった。
避難所は人が押し寄せ、避難難民は日々増えていた。
救いなのは、季節は夏だった事だろう。
真冬だったとき、暖房が動かないこの状況では、地獄のような日々が待っていたはずだ。
電波のインフラは影響が少なくネット回線が、
正常に動いていることが希望になっているだろう。
避難所では、
スマホの手動充電器が配られた。これも出雲総理が事前に準備していたものだ。
みなスマホ片手に最新情報を得るもの。
必死に家族に連絡するもの。
泣き崩れるもの。
様々なものがいるが、災害とはこれほどひどいものなのかと、改めて思わされる。
そんな避難所に一組の男女がいた。
男は刀をそばにおいて、女の膝枕で眠っている。
汚れた体は女が必死に拭いたのだろう。
泥だらけだった体は綺麗になって、すやすやと
寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。
聖女のような微笑みで男の髪をときながら膝枕しているのは、夢野 夏美
膝枕をされて寝ているのは御剣 剣也
ケルベロスとの死闘を制した帰宅部の剣士である。
剣士というには、まだ剣を握るのは初めてだったが。
「ん?あれ?ここは?」
「あ、おきた?剣也!よかった。。」
夏美は胸を撫で下ろし、安堵した。
泥のように眠っていた剣也は、まるまる24時間眠っていた。
なので今は夕方になろうかという時刻だ。
「夏美、あれ?これは?」
自分が膝枕されている事実に気づいた剣也は、急いで飛び起きようとした。
しかし肩を夏美に押さえ込まれ。
「だめ。まだ寝てて。
それにね。私聞きたいことがたーくさんあるの。
全部話してくれるよね?」
笑顔だ。笑顔なはずなのに笑っていない。
「はい」
俺は簡単に、そのプレッシャーに屈した。
俺は俺が知る限りの説明をした。
ギフトのこと、リトライのこと、ケロべロスのこと。
彼女が俺をこの世界にとどめてくれたことだけは、秘密にして。
夏美は黙って聞いてくれた。
普通は信じれないだろう。でも
「信じるよ。
さっきシステム音声?ってのかな。
聞こえたよ。
ワールドクエストがどうのこうのって
剣也が言ってるシステム音声ってのもそれでしょ?」
「ああ、塔に触れたら流れてきた。」
そうだ夏美も塔に触れれば夏美にも起きるかもしれない。
しかし、あのケルベロスのようなものが現れたら。
そういえば、思考加速だ。
まだ使用できるのか?
そして意識を集中すると、世界が止まっていく。
問題なく使用できた。
「あの塔になら、私も触れたわよ?」
「え?」
「何も起きなかったけどね。
それに、もうあの塔は周りが封鎖されて触っちゃダメなんだって。」
夏美は、首を大きく横に振って大袈裟にリアクションをとる。
塔の様子を見に行きたい。自分の身に起きたことが本当なのか。
あのケロべロスとの死闘が本当におきたことなのか。
確かめたい。
強引に剣也は立ち上がる。
そして夏美の手を握り塔へとむかう。
「様子を見に行くぞ」
「え?」
夏美は、引っ張られるままについていく。
もう、なんでこんなにいきなり強引になったの?
手を引っ張られながら夏美は思った。
あー、わたし実は尽くすタイプなんだなー
引っ張るよりも、引っ張られる方が好きだと気づいた夏美だった。
結局される相手によるだけなのだが。
「ついた」
あたりは薄暗くなっていたが、たしかに塔はその巨大な存在感のままそこにあった。
周りにはバリケードのようなもので、封鎖されているが、
正直格好だけなので、簡単に越えて塔に触れられる。
そして夏美と、剣也は封鎖されている柵を超えて夏美に塔を触らせる。
しかし結果何も起きなかった。
本当だ。
俺も触れてみる。
すると
「No00001 御剣剣也 認証しました。
Aランク ダンジョン
夢幻の剣戟へ挑戦しますか?」
あのシステム音だ、ダンジョンに挑戦?
この塔はダンジョンなのか。
ダンジョンって、ゲームとかのあのダンジョンのことだよな。
初めて触れたときはギフトをもらえた。
このシステム音がなければ、ギフトをもらえなければあの獣には勝てなかっただろう。
「剣也、剣也?
まーた、固まってる。
まさか、あの獣がでるの?いやよ、あんなのもう見たくない。」
そういえば、ケルベロスの死体はどこに?
「大丈夫、もうあいつはでないよ。
それで夏美、あの獣の死体はどこにいった?」
「知らない。
なんか光の粒子になってきらきらーって消えたんだから。」
「そうか。」
剣也は、考える。
この世界に起きていること、塔のこと、ギフトのこと。
わからないことだらけだが、徐々に紐づいていく。
とりあえず今はまだダンジョンには挑戦しないでおこう。何が起きるか全くわからない。
それより先に情報調査からだ、夏美を守るためにも。
「夏美」
「ん?」
「絶対俺がお前を守るからな。」
「な!?
いきなり何言ってんのよ。!」
真剣なんだが。
剣也は真剣な目で夏美を見つめる。
「もうやめて、やめて
そんな真剣な顔でこっちを見ないで。」
顔を真っ赤にして、夏美は俺との間に手で壁を作る。
なんなのこいつ、ほんとに同一人物?
剣也をかえたのは、間違いなくあの獣との戦闘だろう。
それは夏美にもわかっている。
わかっているが、面と向かってそんな恥ずかしいことを言われると、ちょっと心が追いつかない。
嫌ではないが、まともに目を合わせられない。
傍からから見ればいちゃついてる二人へ
遠くから身に覚えのある声が。
「おーい、お前たち
無事だったか。よかったよかった。」
聴きなれた声だった。
毎日のように聞いた声、でももう二度と聞けないと思っていた声
時には子守歌のように、もしくは念仏のように授業中
俺の意識を奪っていったその声の主が手を振って歩いてくる。
手入れの行き届いていないセミロングの黒い髪
それと同じくらい黒いクマが特徴的なその病弱そうな声の主は、
「せ、先生?
生きて、え?生きて?」
信じられないものを見る目で、剣也が見据える先にいるのは
がれきに下敷きになってしまったと思われていた小御門先生だった。
死んでしまったかと思い、救助隊も編成されていない中半ば諦めかけていたが、
その陰気な声は紛れもなくな先生の声だった。
近くまで来ると、先生は、こちらの気持ちを察してか説明を始めた。
「おいおい、勝手に殺すなよ。
とはいえ、ほんとに死ぬかと思ったよ。
あのあとスマホで遺書を書こうと思ってな。
思い出したんだ。スマホで書いた遺書は無効だって。」
何の話をしているんだ、この人は
「おっと、話がそれそうだったな。
といっても話は単純で、瓦礫が崩れてちょうど穴が空いたんだ。
これはチャンスと思って全力で走ったよ。
いやー何年振りだろうな、全力で走るのは、おかげで全身筋肉痛だ。ははは
擦り傷程度はあるが、五体満足だよ。」
笑いながら話す先生を見て
剣也は、目から一筋の光が流れるのを感じすぐにうつむく。
見られたくはない。
「おいおい、泣いてるのかい?
お前の嫌いな科目の教師が生きていただけじゃないか。
どうせ卒業したら顔も忘れるような存在だぞ私は。」
お茶らけた声で先生は茶化すように自分を卑下する。
「い、いや、そんなことは。
俺にとっては、先生は大切な存在です。」
泣いていることがわからないように、震えそうな声を必死に抑えて声を出す。
「ふふ、私にまだそんな魅力が残っているとは、
こんな乳臭い学生を惑わしてしまうとは、罪な女だな。残念ながら犯罪だぞ?
御剣!君はまだ15歳高校一年生だろう。卒業まで待ちなさい。」
先生は今年で28歳
三十路に差し掛かろうとしているが、手入れをしたら相当美人だろう。
する気はないのだろうが。化粧も最低限だ。
少し変で、オタクなところ、を除けば美人で、モテていただろうに。
「先生は、死にかけても変わりませんね。」
剣也は笑ってそういった。ほんとに見た目とは程遠く明るくて、強い先生だ。
「いやー、しかし本当に大変なことになったな。」
塔を見ながら先生は、話を変えた。
「お前たちテレビの放送はもう見たか?
日本は、いや世界は大変なことになっているぞ。」
「いえ。何かこの災害についてやってるんですか?」
「ああ、総理と防衛大臣が会見を行っていてな。
ずっとリピート再生されている。とりあえず見に行くか。」
「はい!」
そして三人は、塔を後にした。
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