第二章 救国の英雄
第7話 2-1 大人の戦い
同時刻
地震調査研究推進本部
「ん?おい!揺れてる!揺れてるぞ!」
「結構大きいぞ!みんな!訓練通りに!訓練通りに!」
未曾有の大災害の序章が始まる。
過去発生した大震災と呼ばれる地震と比較して勝るとも劣らない大地震が発生した。
「と、止まったのか?」
「し、震源地!はやく!
テレビ局へ連絡!!地震速報と、津波速報をだせ!
これだけ大きな地震だ、巨大な津波が来るぞ!」
「ほ、本部長」
青ざめた顔で計測器を見る職員が本部長を呼ぶ。
本部長つまりは、この場の最高責任者、意思決定者に判断を委ねる。
「なんだ!一刻を争う災害だぞ!」
「震源地は、日本...日本全土です!ありえませんが、日本国全土が揺れています。」
何を馬鹿なことをと本部長は思った。
東日本大震災も阪神淡路大震災も経験した本部長があれが地震ではないなら
何なんだ。
外の様子をみるために窓に近づく。
「なんだこれは。」
倒壊した建物、火の手の上がる住居そして、
天高く聳える巨大な
造形はさまざまだが、はるか高く
雲を突き抜けて全容が見えない塔すらある。
古くから塔が暗示するものは、試練
だが、今はそのことに気づいているものはいない。
未曾有の大災害に、立ち尽くす無力な人類はただ愛するもの達の無事を祈ることしかできなかった。
「本部長!首相官邸からです。」
「つなげ、ネット回線は...生きているな。
よしWEB会議の準備!
急げよ、この初動でどれだけ犠牲を減らせるか決まるんだ。」
救って見せる。出来るだけ多くの人々を。
過去の震災では、自分は何もできない新人だった。
しかし今は指揮する立場にある。
同時刻(地震発生直後)
首相官邸
一人の男が立っていた。眼鏡をかけて、優しそうな男だ。
この男は、日本国第120代内閣総理大臣
男は、崩れかけた国会議事堂から外を見下ろし、だれにでもなく口を開く。
「始まったか」
ただ一言呟き、後悔と無念の表情を浮かべながら目を閉じる。
結局は、何も対処できなかった事実とどうすることもできなかった無力さを悔やむ。
この国の未来を、災禍に包まれたこの国を
何も知らない子供達に、託すことしかできない私を
どうか不甲斐ない私たちを許してくれ。
謝罪するように、心で嘆く。
そう言って彼はこの災害の対策へ赴く。
大人には大人の責任と戦いがある。
せめて、ここからは後悔しない行動をしよう。
事は起きてしまった。
今ならば妄言を吐くイカれた人間とは思われない。
魑魅魍魎蠢く政治の世界では、そのレッテルは力を失うことを意味する。
だから何もできなかった。今日この日のために、実権を握っておくために。
ここからだ、私の戦いは。
「本部長、まずは状況を説明してくれ。」
テレビ越しに行われる会議は、この国にしてはとてもスムーズに行われた。
これは、出雲がせめてもの対策としてマニュアルと訓練を徹底させたからだろう。
「はい。まずこの地震のことからですが。
まず、地震と言いましたが、これはおそらく地震ではありません。
確かに地面は震えたのですが、日本語の地震という言葉が差すものではありません。
本来地震とは、大陸プレートのずれにより発生する地滑りのようなものですが、
この災害には、プレートの歪みは発生していません。」
出雲は静かに聞く。
本来なら慌てて動揺するようなことだが、まるでそのような超常現象が起きることを知っていたかのように。
本部長は話を続ける。
「外はご覧いただけたかと思います。
この事象の原因は、おそらくあの無数に生えた巨大な塔です。
あの塔が地面を押しのけ突如現れたことによる振動が今回の事象の原因かと思われます。
目視で確認できるだけでも100は超えているように思えるあの塔が一度に現れたことにより連鎖的な振動が発生。
それは、まるで水面に大量の小石一度に投げ入れたように、
一つでは大したことのない振動が重なり巨大な波を発生させたものと思われます。
正直推測の域をでませんが。」
「そうか、わかった。
では、自衛隊の派遣と各消防、警察など
すべての国防に関わる公務員を導入し、全国の救助にあたる。その準備を、、」
「総理!」
ここでもう一つの画面から話を遮るように、一人の男が声を上げる。
彼の名前は、
防衛大臣にして、出雲の大学時代からの友人
その八雲から提案があった。
「今回の大震災、仮に日本大震災と呼びましょうか。
この日本大震災の今後の対策ですが
全権を委任された対策本部が必要かと。
今のままでは、指揮系統がバラバラです。
各県警、自衛隊、消防そして、あの塔に関する調査など
すべてを管理するトップの存在が必要です。」
男気あふれる普段の行動から、出雲八雲コンビは、国民に高い人気がある。
そして今回の災害についても出雲が知りうることは実は、全て聞いていた。
俄には信じられない内容だったが苦楽を共にした友の頼みだ。
信じることにし、事前にできる限りの準備はしてきた。
そして今日その内容と同じ事象が起きている。
「そうだな。では指揮を執ってくれるか?八雲大臣」
事前に決まっていた内容だ、しかしこの場でそれを知るものは八雲のみ。
「お任せください。総理
全身全霊で当たらせていただきます。」
そして震災から30分とただずに、大規模災害の対策本部が、設立された。
名称はそのまま 日本大震災対策本部
八雲はすぐに部下へ命令した。
「関係各所に通達しろ。
本災害に関しての全権は防衛大臣 佐藤八雲が指揮を取る。
各自衛隊に通達 自衛隊から代表を呼べ
警察にも協力を仰ぐ。警察庁長官、警視総監等関係者は全て呼べ。」
「了解しました!」
まずやることは二つ
日本国民の救助そして、
あの塔についての調査だ。
未曾有の大災害が起きた割に日本の対応はとても迅速であった。
この国のイメージとは遠く離れたその動きも2トップがこの二人だったから可能だったろう。
本当に迅速だった。
世界の対応に比べてとても。
そう、この災害は日本だけでない。
世界全土で発生した。
大災害から30分とたっていない現状では、世界の状況まで把握できないのも仕方ないだろう。
この大災害が日本だけではないことを知るのは八雲出雲ただ二人。
しかしそれはどうでもいいこと。
他国の心配などしている暇などない。
今はこの国を立て直すことに集中する。
だからこそ、彼らはそのことについて言及しなかった。
「ピンポンパンポーン
ワールドアナウンスです。
2021年8月13日 日本の首都東京にて、ワールドクエストが初めてクリアされました。
残りワールドクエストは99個です。
以上でワールドアナウンスを終了します。
ピンポンパンポーン」
システム音と脳に直接語りかけるその音声は、日本全土、いや世界中全てに流れた。
日本語、英語、中国語。
全ての国の全ての人類へ同様に語りかけられた。
「ワールドクエスト?なんだ?」
「それより今の声はどこからだ?
みんなも聞こえたのか?
なんだ今の脳に直接聞こえてくるようなシステム音声は。」
本当に始まったんだな。
防衛大臣 八雲は考える。
出雲が言っていたことが現実に起きている。
まだ完全には、信じられていなかったが
さすがに今の音声は、で腹をくくる。
わからないことだらけだ。
額に手をより天を仰ぐようにして上を向く。
彼の考えるときの癖だ。
「よし!」
そう言って大臣は大きな声で狼狽える部下たちに命令した。
「わからないことはわからん!
だが今わかっていることが一つあるだろう!
我々の救助を待つ国民たちが必ずいるということだ!
まずは救助!人命優先だ!」
わからない事はわからない。
当たり前のことだが、この状況で、今の事象を無視して決断できる指揮官が、どれほどいるだろうか。
彼もまた国を背負う立場にふさわしい人物だった。
彼の戦いも始まったばかりだ。
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