第4話 1-3 心の鎖と本当の気持ち
壊れた剣也は何も考えられなくなっていた。
それでも、心の鎖が剣也を縛る。夏美を殺すなと剣也を縛る。
「剣也、剣也!
ねぇ、剣也!どうしたのよ!なにがあったの?」
夏美の声が聞こえるが何も感じなかった。
体と心が離れてしまった感覚。
そして、空間を切り裂いてあいつが現れる。
無意識で顔を向ける。
ケルベロスと目があった。
俺の表情は変わらない。もう心が動かない。
ケルベロスは詰まらなさそうな顔をして俺を食い殺した。
リトライしますか?リトライしますか?リトライしますか?リトライしますか?
リトライしますか?リトライしますか?リトライしますか?リトライしますか?
リトライしますか?リトライしますか?リトライしますか?リトライしますか?
リトライしますか?リトライしますか?リトライしますか?リトライしますか?
リトライしますか?リトライしますか?リトライしますか?リトライしますか?
.
.
.
リトライしますか?
何回殺されたのだろう。もう何も考えられない。
壊れた心の中で剣也は、終わらそうと思っていた。
剣也を縛る鎖はリトライのたびに徐々に緩む。
ごめん、夏美
もう終わりにしよう。
俺も一緒に死ぬから、
どうか、どうか救えなかった俺を許してくれ。
何回目かもわからないリトライの果てに、夏美の命すら諦めて楽になろうと思った時だった。
昔の記憶が蘇る。
死に面したときの走馬灯
壊れた心とは関係なく体が覚えていた夏美との思い出が甦る。
壊れた心の奥底の、最後の希望として。
二人で作った秘密基地
鬼ごっこ、かくれんぼ、おままごと
大体の遊びはやっただろう。登下校だって減ったとはいえ毎日のように一緒だった。
「ねぇ、剣也!」
「ん?」
「私友達じゃなくてね、お嫁さんになりたい!」
「いいんじゃない?」
「ほんと!?」
子供ならみんなやるやりとりだ。
この頃の二人の会話は少しかみ合っていないが、今なら夏美の言いたかったことがわかる。
記憶の片隅に押し込められているが、確かに覚えている。
昔のことなのですっかり忘れていた。
その記憶に壊れた心が少し動く。
はは、夏美は俺が好きだったんだ。
いつからだろう、夏美に比べて誇れない自分を卑下してしまうようになったのは。
いつからだろう、夏美を好きなのに、好きになってはいけないと思ったのは。
いつからだろう、自分の気持ちに正直になれなくなったのは!
今の夏美への思いは、ただの生理現象、可愛いから好き。
そんなただの現象だと思っていたこの気持ちに。この極限状態でやっと気づけた。
この恐怖で凍った心が、それでも死を選ばなかった理由。選べなかった俺の心を縛る鎖
夏美への気持ち。彼女を失いたくないという思い。
この鎖は、俺を縛る鎖なんかじゃなかった。
死へ向かう俺を、俺の命を繋ぎ止めるためのたった一本の命綱だった。
鎖は砕かれ綱に変わる。大丈夫、もう必要ない。
なぜなら自分の感情に気づけたからだ。
生きる意味を見つけたからだ。
俺は夏美のことが好きだ。その気持ちにはっきりと確かに。
この走馬灯が、夏美との記憶が、思い出させてくれた。
直後役目を終えたように命綱は消えた。
壊れたはずの俺の心は、バラバラになった俺の心は、熱い血が通い鳴動する。
夏美を助けたい。
俺は食われてもいい、せめて夏美だけでも助ける道を探したい。
もう食われるのにも慣れてきたところだ。
あの下卑た笑顔にだって。
食うなら食いやがれ、おとりにだって餌にだってなってやる。
でもな、あの子だけは守らせてもらうぞ。
固い決意を持って、俺は選択した。
一度も選べなかった選択を、確かに意思を持って選択した。
最善の選択にするために。
今回もあいつに殺されるかもしれない。
でもいいんだ。何度だって食われてやる。
だがその度に彼女を救う方法を考える。
思考を止めるな。死の恐怖は克服した。
今なら冷静に対処できる。
考えて考えて考え抜け。
きっと方法はあるはずた。人間の武器はこの考える脳なのだから。
「リトライが選択されました。」
心なしかその無機質なはずの音声は嬉しそうに、そう答えた。
運命の歯車は回り始めた。一人の少年の強い意志を持った選択で。
そして意識は暗転する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます