第3話 1-2 心の崩壊
太陽照り付ける砂場で二人の小学生が遊んでいる。
「ねぇ剣也 大きくなっても私たち友達かな?」
「さぁな。わかんねぇけど大喧嘩でもしなけりゃそうじゃないか。」
「そういう意味でいったんじゃないんだけど。」
「じゃあどういう意味だよ。」
「もういい!」
なんでこんなのを思い出す。幼い頃の二人のやり取り
夏美は死んだのか?
疑問に思うまでもない。夏美は死んだ。
あの肉片は、夏美だったものだ。
あの獣が夏美を変えた。
そして夏美だったものを咥えながらその獣は俺を見て、笑った。
確かに笑った。
感情があるのか、知能があるのかわからない。
それでも今からお前もこうなると言わんばかりに満面の笑みで笑った。
剣也は恐怖で動けなかった。
夏美が肉に変わった悲しみすら抱けない。
今から自分も食われるのかその恐怖でいっぱいだった。
そしてそのままケルベロスはゆっくりと剣也に近づきは目前に迫る。
口を開けたかと思った次の瞬間には、身体を噛みちぎられる激痛とともに視界は暗転した。
システム音声
「クエストに失敗しました。
ファーストクエストはリトライできます。
ファーストクエスト以外では、リトライ不可ですのでお気をつけください。
リトライしますか?
30.29.28....15...
」
なんだ?何が起こった?
はい、いいえの選択肢を選ぶことだけはわかる。
ただし体の感覚はない。
意識すればその選択ができることだけはわかる。
そして、30秒カウントが一つ一つ進んでいく。
訳もわからないまま、カウントが0になる。
同時にまたあのシステム音が流れる。
システム音声
「選択されませんでした。
そのため自動でリトライが選択されます。」
そして意識は暗転した。
システム音声
「リトライされました。
再度発芽処理から開始します。
発芽処理
ポイントは0のためポイントによる発芽はできません。
続いて心の鉢による発芽を試みます。
失敗しました。
心の鉢の大きさはEランクです。
以上で、リトライ処理を終了します。」
なんだ?何が起こっている?
剣也、剣也?
「はっ」
我に帰った剣也は、夏美の声で精神を取り戻す。
「何してんの?塔に触れた瞬間いきなり固まって。
5秒ぐらい固まってたよ?」
「あ、いや、この塔に触れたらいきなり頭の中に話しかけられて、
俺にもよくわからないんだけどリトライがどうのって」
「何言ってんのか全然わかんないんだけど。
リトライってなに?」
なんだ?俺はこの会話を知ってる?
デジャブか?脳が混乱して、何も考えがまとまらない。
そして夏美が塔に近づこうとした時
空間を引き裂く音とともに門が現れた。
剣也は血の気が引くことを感じ。全身が一気に冷たくなるのを感じた。
知ってる俺はこの門を知ってる。
「夏美!逃げろ!」
「え?なに?」
夏美は俺の目を見る。
そして俺は夏美の頭ごしに、巨大な口が開いているのをみた。
地獄の番犬が 涎を垂らしながらニタっと笑いながら笑顔で、俺を見た。
そして、夏美はまた肉となった。
俺は恐怖で体が震えて、また動けなかった。
そしてゆっくりと歩いてきたその獣の大きな口が目の前まできて、激痛と共に意識を失った。
システム音声
「クエストに失敗しました。
ファーストクエストはリトライできます。
ファーストクエスト以外では、リトライ不可ですのでお気をつけください。
リトライしますか?
30.29.28....15...
」
そしてまた意識が戻ったかと思うと。
リトライしますか?の文字
混乱する頭を必死に落ち着かせて
思考を巡らせる。
なんだ?何が起きてる?
死んだのか?たしかにあのケルベロスに、俺は食われた。
その想像をしただけで、体が震えた。怖い。
あのニタっと笑いながら大きな牙で体を噛み砕かれた感覚が蘇る。
嫌だ、痛いのは、嫌だ。
このリトライをいいえにすると終われるのか?
その疑問を思った瞬間システム音声が返答する。
システム音声
「いいえを押した場合、先程起こった事象は反映され、二度とリトライできません。
それでもいいえを選択しますか?
」
死ぬ?いいえを選択したら死ぬのか?
今の音声の説明だと食われた現象が反映される。
つまり 死ぬということ。
嫌だ、死にたくない。それにあの時夏美も食われたはずだ。
なら夏美も死ぬ。
でもまたあの獣に食われるのか、それは嫌だ。
剣也は、思考の袋小路に迷い込んだ。
死を選ぶ恐怖と、食われる恐怖
どちらを選んでも死しかない。
どちらを選んでも地獄
ただの学生にこの選択をしろというとは酷だろう。
だが、時間は刻一刻と迫り、無慈悲なシステムは、また同じ言葉を告げた。
システム音声
「選択されませんでした。
そのため自動でリトライが選択されます。」
意識が暗転したかと思ったら、またあの声だ。
システム音声
「リトライされました。
再度発芽処理から開始します。
発芽処理
ポイントは0のためポイントによる発芽はできません。
続いて心の鉢による発芽を試みます。
失敗しました。
心の鉢の大きさはEランクです。
以上で、リトライ処理を終了します。」
「剣也、剣也?」
まただ、またここからなのか。
「もう、どうしたの?5秒ぐらい固まってたよ?」
そして、空間を引き裂く音が鳴り響く。
全身が悲鳴を上げてる。早くここから逃げろ。死ぬ
あの獣がくる。
「逃げるぞ!」
夏美の手を取り走ろうとした瞬間
急な走りだしのため、もともと気絶していた夏美は、体制を崩して前屈みに転倒した。
「もう、いったーい。急に何するのよ。
え?なにこれ、水?なんかヌメヌメして臭いんだけど。」
「あ、あ」
剣也は声にならない声を出しながら
その獣を見た。
そして獣は、ニタっと笑って涎を垂らす。
そして、夏美を肉片に変えた。
「うわぁぁぁぁぁー!!」
悲鳴を上げながら、必死に逃げた。
バタバタと足を動かすが、まともに走ることさえできない。
後ろを振り向くのが怖い、嫌だ、食べられてくない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ
必死に走った。どれだけ走っただろう。
体力の限界など構わなかった。
ただ走り続けた。後ろを振り向いたらすぐ後ろにあの獣があの笑顔で、立っているような気がしてとまることができなかった。
走って走って、そしてもう足が上がらなくなり転んでしまった。
恐怖でいっぱいだったが、それでも振り向きたくない。振り向きたくないが、顔が勝手に後ろを向く。
安心したいという欲望が、身体を勝手に動かした。
そして振り向いた瞬間、後ろにはなにもいなかった。
巻いた、のか?
心臓が壊れそうだ。恐怖と全力疾走で、体の限界を超えて走ったせいで心臓の音を全身で感じる。
一瞬安心して前を向き直すと。
ニヤッと笑ったその獣が、まるで俺の絶望を楽しむように、俺の心が壊れるのを楽しむように
に大きな口を開けていた。
「うわぁぁぁーー」
悲鳴を上げながら、剣也の視界は暗転し、意識は途絶えた。
リトライしますか?
そのシステム音声がまた流れる。
なにが起きてるんだ。
怖い、やめたい、この恐怖から解放されたい。
そうだ、ここでいいえを押したらもう終われる。
もうあいつに会わなくて済むんだ。
恐怖で消耗した剣也の心は死を選ぼうとしていた。
その時踏みとどまれたのは、夏美の存在だけだろう。
嫌だ。食い殺されるのはもう嫌だ。
あの獣の顔をチラつき、体が震える。でも夏美を殺すのも嫌だ。
俺の選択で殺すのも嫌だ。
選べない、どっちも選べない
助けて、助けてくれ。
壊れそうな心で、ひたすら叫んだ。
しかしシステム音声は無慈悲に告げた。
「リトライが選択されます。」
剣也、剣也?
そして意識が戻り、夏美に呼ばれる。
「顔すっごい青いよ?どうしたの?」
足が震える。力が入らない。
今にもあいつの顔が出てくる。あの恐怖を具現化したような存在が。
「…るぞ」
「え?」
「にげ、る、ぞ」
なんとか声を振り絞り夏美の手を取るが思うように体が動かない。
それでもなんとかその場から離れようとしたがあの音が聞こえた。
そして門からあいつが現れる。
リトライしますか?
体を噛みちぎられた感触を感じる。
恐怖で体が震える。
嫌だ、もうあいつに食べられたくない。
痛い思いはしたくない。
そしてまた選択できないまま時が過ぎた。
「剣也、剣也?」
剣也は体を丸くしてうずくまる。
「どうしたの?剣也?泣いてるの?なにがあったの?」
夏美は剣也に問いかける。
剣也はう、う、と声をもらしながらうずくまることしかできなかった。
そしてまたあの音と共にあたりに血が撒き散らされた。
その血が夏美の物だと分かっていながら顔を上げることができなかった。
次は俺の番だ。
そう思いながらも、震えることしかできない。
だが、一向に噛みつかれる気配がない。
そこにいるのはわかっている。
恐怖で引き攣った顔を上げてしまった。
やはりその獣はニタっと笑って俺を食った。
「リトライしますか?」
どれだけ走ってもあいつからは逃げられない。
あいつは、俺以外はすぐ殺すが、俺だけは必ず目があってから絶望させてから食い殺す。
もうあいつの笑った顔を想像するだけで体が震える、力が入らない。
いいえ を押したい。
生を諦めて楽になりたい。
でも夏美を自分の手で殺すという選択ができない。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
終わりたい、死にたくない、死にたい、殺したくない、諦めたい。
無慈悲なシステム音声は、感情もなく告げた。
「リトライを選択します。」
そして剣也の心は崩壊した。
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