第4話 生産系スキル

 モヒカン頭を倒したことで、味を占めたのか、私はPKの虜となっていた。

 森を徘徊してプレイヤーを見つけたら、息を潜めて隠れながら機を伺い、絶好のタイミングで背後から首に一撃入れる。相手は何も出来ぬまま消えていく。

 このゲームは基本他プレイヤーと遭遇したら殺し合いが前提らしいので、不意打ちでやられることも考慮しているらしく、失敗することもあった。だが闇討ちしかできない女では無かった私は接近戦でも相手を圧倒して倒していた。

 積み上げた屍は数知れず。

 いつしか私はそこそこ名の知れるプレイヤーとなってしまっていた。

 まあとはいっても暗殺がデフォなので、大まかなイメージでしか捉えられていないので、私を見てもその名の知れた暗殺者と結びつく人はあまり居なかった。それは復讐の防止にもなるので好都合だった。


「ルミナリエ近郊の森には超速い女アサシンがいるから気を付けろよ」


 それが森へ出掛ける人に送る言葉となっていた。そして私自身、PKを繰り返していたことで色々と変化していた。PKの方がモンスター倒すよりも微妙に見返りがよく、特に暗殺というプレイスタイルをとっているせいか、隠密系やスピードを上げるタイプのスキルを習得していた。

 例えば【縮地】。これは5メートル強の距離を一瞬で詰めるもので、ようは軽い瞬間移動だ。アクティブスキルに該当されるもので、一度使うと3秒程度のクールタイムが必要となる。

 これを使いこなせれば、元より速い私の場合、更なる戦略が生まれるだろう。だがこの縮地を使えるようになるには、AGIが少し足りない。AGIとはパラメータのうち、俊敏性つまり速さに関係するものだ。他には攻撃力に関係するSTR、防御力、HP量に関係するVIT、攻撃のクリティカルヒット率やアバターの動作に補正が入るDEX、魔法系スキルの効果に関係するINT,何に関係するか分からないLUKがある。

 私はこの内、AGIとDEXが高い。時点でLUKとINT。STR、VITは攻略サイトとかを見た限りかなり平均を下回っている。最も自信のあるAGIでもまだまだなので、今後どうなっていくのか自分でも楽しみではあった。今より速くなったら素で高速移動すら出来そうだ。

 成長するためにも戦闘を多く積む必要がある。

 レベルの無いこのゲームではスキルが命だ。スキルごとに習得条件があるので、プレイしながらそれを探っていくしかない。だけど速さを上げたいなら敵から逃げたり、その辺を走ったりすればいいといった感じで、大体の当てはつく。

 現にソロプレイをしている私はソロプレイに向いたスキルばかり習得している。

 だけど、こればかしはソロプレイでもパーティプレイでも困ることだろう。そう、金策だ。

 エンジェルダストでは敵を倒すか、クエストをやるか、何かを売るかでお金を稼げる。別のタウンに行けば、賭け事で増やすという手もあるそうだが、それは最終手段だ。敵を倒すは既にやりつくしている。モンスターよりプレイヤーの方が稼げるので、積極的にPKをやっているが、お目当ての物を買うには足りない。となるとクエストか、何かを売るか。クエストも長期的には見込めないだろう。となるともう何かを売るしかない。

 モンスタードロップ品は素材として使えるので、そのまま売っても価値はある。低級の素材でも一度で売る数を増やせば価値も上がる。だがどうせならば自分で作ってみてもいいんじゃないだろうか。ゲームなんだし。


「それならそれで何にするかだけど……」


 オーソドックスにアイテム製作、大黒柱となる鍛冶か……彫金とかもある。スキルの数が大量にあるだけに生産系スキルも多数存在している。廃墟都市ルミナリエにはこうしたスキルを教えてもらえる場所があるので、そこに行けばいいだけなのだが、NPCとはいえ見た目は完全な人に話しかけるのはかなり気が引けた。


「う~……流石に情けなさ過ぎるぞ私……」


 都市の中央広場には大きな噴水がある。噴水の中央には壊れた神様っぽい何かの銅像が。そんな噴水の傍にあるベンチに腰掛けながら私は項垂れていた。生産を始めようと決めてから一時間。私はああでもないこうでもないと街中を彷徨っていたのだ。仮初の肉体にも疲労はあったらしく、歩き疲れた私はこうしてベンチで休憩しているのだ。

 緑と廃墟の街を眺めていると、ベンチでいちゃついているカップルらしき方々や、森から帰ってきたパーティの姿が見える。そのどれも笑っていた。


「人と関わるのって……楽しんだろうね」


 でも私にはそれ以上に怖いのだ。誰に何を言われるのかも分からない。相手が考えていることが分からない。それが何よりも恐ろしい。


「お?! あんたは?!」


 ベンチで項垂れている私に話しかけに来る酔狂な人などいるものか、と思いつつ顔を上げてみると、そこにいたのは見知った人物だった。


「モヒカンの人?!」


 そうだ。先日、私のPKの餌食となった人だ。この天にそびえ立つようなピンクのモヒカンは夢にまで出てきた程だ。

 取り巻きの二人とは一緒にいないらしく、今日は一人で行動しているらしい。

 ……しかし。遠慮なくぶっ殺した手前、顔を合わせると色々と気まずい。私が遠慮気味に立ち去ろうとすると、ガシッと腕を掴まれた。

 全身から血の気が引いた。


「ひっ……ごめ、ごめんなさいごめんなさい。殺しちゃったことなら謝りますからついでにお金も返しますしだから本当に許してください」


 我ながら悲しくなるくらい早口だった。視界がウルウルとしている。このアバター涙腺がめっちゃ緩い。いや現実の私も似たようなものか。

 モヒカン頭は何を言っているのか理解してくれなかったらしく、首を傾げていた。


「謝るったって……何を謝んだよ。ありゃ俺から仕掛けたようなもんだしよぉ、それにこのゲームやっててPKされてキレる奴はいないと思うぜ」

「えっと……そうな……んですか?」

「おうよ。あんな見事なPKされちゃ逆に惚れちまうぜ」

「ああ、そうなんですね」


 惚れるという表現はどうかと思ったが、とりあえずあの殺人については気にしていなかったらしい。まあ私もその後、ノリノリで何人も殺していたが。でもこうして目の前に殺した相手が出てくると、どうしても復讐の可能性を考えてしまうのだ。


「それで、あんた何を悩んでたんだ? 装備を見た感じ、始めたてって感じだが……何か攻略で困ってんのか?」

「……」


 私はしばらく考えた後、生産系スキルを取ろうか考えているが、NPCに話しかけられないことを割と正直に話した。モヒカン頭はそんな私の言葉を真摯に聞き、そして「なら付いて来な」と言って歩き出した。

 

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