第7話 ごめん

「まず自己紹介するね。俺の名前は鎌田 准。十七歳。君と同じ高校に通ってるんだ」


「そうだったんですね...」


そう奈々子が言うと、二人の間に沈黙の時間が数秒入った。


「多分、君が気になっているのは、俺と君の関係だよね。簡単に説明すると、幼馴染で生まれてからほぼずっと一緒にいたんだ」


「幼馴染ですか?」


「うん。ちなみに入院してる理由は聞いたかな?」


「交通事故でって聞いてます」


「そうか...」


准はきっと、その場に自分がいたことは、奈々子に話していないのだろうと思った。

准は少し罪悪感があったが、今は奈々子に奈々子が気になっていることと、自分のことを話すことに集中することにした。


「君は、交通事故に遭った時に、僕との記憶だけがなくなってしまったらしいんだ」


「そうだったんですね」


奈々子はそれを聞いて納得した。


准は、事故に遭った理由を話そうか迷った。奈々子が自分のせいで事故に遭ったと知れば完全に自分を受け入れないことは目に見えていた。


今話さなければ当分は理由を隠したまま過ごすことになる。仮に隠したままま自分を受け入れてもらったとしても、隠したままでいいのだろうか。

自分は事故のことは知らない。そんな風に過ごしていいのだろうか。

そんな考えが准の頭の中でよぎった。だが准は心の中で


そんなのだめだ


例え奈々子に、理由を隠したまま受け入れてもらったとしても嬉しくない。それに隠し通す自信もない。

後から話したとしても、最低な奴になって余計に受け入れてもらえなくなるだけだ。准はそう思い、正直に話すことにした。


「君にどうしても話さなければならないことがあるんだ」


「なんですか?」


奈々子は純粋に聞いてきた。

准は心臓をドクン、ドクンとさせながら、唾をゴクンと飲み込んで話し始めた。


「実は、君が事故に遭ったのは俺のせいでもあるんだ」


「え...」


「終業式を終えて、家に帰る途中の横断歩道で俺が渡ろうとしたら車が来て、俺が事故に遭いそうになったんだ。でも君が俺を突き飛ばして、俺の代わりに君が事故に遭ったんだ。俺が周りをよく見て、注意して横断歩道を渡れば、奈々が事故に遭うこともなかったのに...俺のせいで...」


准は奈々子の顔を見ることができず、俯き震えた声で涙を流しながら、そう言った。


「ごめんな、俺のせいで痛い目に遭わせて。本当にごめん...」


「そうだったんですね...でも、私が事故に遭ったのは、准さんのせいではないですよね」


「え...」


准は驚いて顔を上げ奈々子の顔を見ると、真剣な眼差しで准を見ていた。


「私も軽く原因は聞いてますけど、ぶつかってきた車は整備不良でアクセルが壊れてて、キーブレーキが効かない状態になってたって聞いてます。例え原因が整備不良じゃなかったとしても、事故にあった理由が、准さんのせいにはならないと思います」


と奈々子は話した。准は奈々子がそう言うとは思っていなかった。准は奈々子に責められてもしょうがないとばかり思っていたので、准は予想していないことが起きて戸惑っていた。


「責めないの?」


「責めないですよ。この事故は誰も悪くないですし。ただ運が少し悪かっただけで」


奈々子がそう言うと准は、フッと笑った。すると奈々子が


「何かおかしいですか?」


「いや、何もおかしくないよ。ただ...」


「ただ、なんですか?」


奈々子がそう聞くと准は心の中で思った。

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