第4話 不安が消えない

 次の日、准は目を赤くして奈々子の病室に向かった。


准は奈々子の病室に着くと、ドアを開けようとドアノブに手をかけた。


だが准は、ドアを開けずに立ち止まった。准は心の中で、


「奈々は、俺のことを覚えてない。前みたいに幼馴染として接することはできない。奈々に会ってどうする。奈々がまだ記憶を戻していなかったら。例え記憶を戻していたとしても、奈々を事故に合わせた俺はどう接すればいいんだ。奈々が俺を拒絶するかもしれない。そしたら俺は・・・」


「あら准くん、来てくれたのね」


准がドアの前で考え込んでいると奈々子の母親が話しかけてきた。


「あ、はい・・」


「今ね奈々子、色んな検査をしに行ってるから、多分一時間くらいしないと戻ってこないかも」


「そうですか・・」


「・・・・」


いつもはまあまあ続く会話も、こんな時なのでしょうがないのだが、話好きの奈々子の母親は心の中で、「とても、いや、すっご〜い気まずい!」と思った。


「あ、そうだ。准くんにも言わなきゃいけないことがあったんだった」


「なんですか?」


「奈々子に准くんのことを教えてあげようと思うの」


「え、・・・」


准は少し戸惑った。


奈々子に、自分との関係を教えるのに対して嬉しい気持ちもあったが、もし奈々子が、自分のことを受け入れるのを拒否されたら。そんな不安が准のことを襲った。


でも、准は頭では分かっていた。


自分ではどうすることも出来ず、奈々子が、自分のことを受け入れるか、受け入れないかを決めることである。


だから、自分にはどうすることも出来ない。


そう頭では分かっていた。


だけど、もし奈々子が自分のことを受け入れなかったら。そんな不安がどうしても准の邪魔をしてしまう。


「奈々子がね、昨日私たちにしつこく准くんのことを聞くから『今度、教えてあげる』って言っちゃったのよ。一応、私たちがいない間は愛菜たちが上手く誤魔化してくれてたんだけど・・・」


奈々子の母親からそう聞いて、准は、『奈々が俺のことを気にしてくれた』そう思ったら少しだけ安心した。


「一応先生に聞いたら、奈々子が知りたがってるならいいんじゃないか、って言ってるの。准くんが良ければ、戻ってきたら話そうと思っているんだけど、いいかしら?」


准はとても迷った。


前だったら、『全然オッケーです!』と言っただろうが、どうしても不安がよぎってしまう。准は奈々子の母親に質問した。


「奈々が、戻ってくるのに後一時間くらいあるんですよね?」


「え・・・あ、ええ、それぐらいかかると思うけど」


「じゃあ、それまで考えてもいいですか?」


「ええ、全然いいわよ」


「ありがとうございます」


そう言うと、准は病院の庭園に向かった。

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