第3話 なんで俺だけ
「先生どういうことですか?」
と扉が閉まると同時に准が先生に訊いた。
「先ほど奈々子さんのご両親には、何かしらの症状が出る可能性があると話させて頂いたのですが、奈々子さんが准さんのことを覚えていないとなると、記憶喪失の症状が出ていると思われます」
話を聞いた三人は驚きと戸惑いがある中、ほんの少しだが納得感もあった。
「記憶喪失にも色んな種類があるのですが奈々子さんの場合は、強いストレスや出来事、感情などが原因となり起こす記憶障害で、特徴は特定の人物などの記憶がなくなる記憶喪失だと思われます。
これに奈々子さんと准さんを当てはめると仮定ですが、事故を起こす時に准さんを助けなければならないなどの強い思いが記憶障害を起こす原因となり、その時に准さんのことを強く思ったため、准さんとの記憶だけが綺麗に抜けてしまっていると考えられます。
詳しいことや、今お話ししたことが本当かどうかは検査しないとわからないのですが、今お話しした可能性が一番高いと思われます」
「そうですか」
そう奈々子の父親が言い、准はその場で崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「なんで・・なんでだよ」
准は俯き震えた声でそう言った。
その場の三人は准にかける言葉が何一つ見つからなった。
例えかける言葉があったとしても、自分のことだけ忘れられてしまう、それでけでも、ものすごく傷つくのに、生まれてからほぼずっと一緒にいる幼馴染に忘れられているのだ、きっとどんな言葉をかけても准をより傷つけてしまうだけだ、と三人には分かっていた。
奈々子の母親は、
「もし奈々子が本当に忘れてしまっているとしても、奈々子の記憶が戻る可能性はありますよね?」
そう聞くと先生は、
「なんとも言えません。短期間で記憶が戻る方もいますが、長期間かけて記憶を戻す方もいます」
「じゃあ・・・」
希望の光が三人の心に差し込んだが、
「でも記憶が戻らなかった方もいらっしゃいます」
それを聞いた三人は絶望した。特に准はひどく絶望した。
「どうしたら戻るんですか?」
と奈々子の母親は、思い詰めた顔で訊いた。
「これは本当に人によりますが、奈々子さんの場合は事故現場に行かせないようにするとかですかね」
と先生は不安げな顔で答えた。
「まずは色々検査して、他に異常はないかなどを調べてそれから、考えましょう」
そう言って先生は部屋を出た。
奈々子の両親も部屋を出ることにした。部屋を出る前に奈々子の母親は准に、
「落ち着いたら、奈々子の様子見に来てあげて、記憶が戻ってるかもしれないから」
そう言って部屋を出た。
准は一人、夕陽が差し込む部屋で、しゃがみ込んだまま静かに涙を流した。
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