―27― どうなってやがる!
「くそっ、どうなってやがる!!」
クラビル伯爵家のガディバ・クラビルはそう言って、テーブルを叩いていた。
「なぜ、魔物による被害がこれほど増えているんだ!!」
手元の資料には、村人たちから寄せられた魔物の被害報告だ。
今まで、領地に出現した魔物は奴隷のアメツが一人で対処していた。
そのアメツがいなくなったのだ。
魔物の被害が頻発するようになるのは当然の結果だった。
他の領地なら、魔物の討伐は冒険者に任せるのが一般的だ。
そのためには健全な冒険者ギルドを運営する必要があったが、今までアメツ一人で対処できてしまったおかげで、クラビルは冒険者ギルドの運営を疎かにしてしまっていた。
結果的に、クラビル領には冒険者が住み着かず、魔物が多発する現状でもその事実は変わらない。
とはいえ、クラビルはなにもしなかったわけではない。
急遽、冒険者ギルドの運営に力を入れることで、冒険者の誘致を図った。
そのおかげでもあって、冒険者はやってきたが、事態が好転することはなかった。
今まで冒険者を冷遇していたクラビル伯爵には信用がない。そのため、やってきた冒険者はわずかだけだったのだ。
となれば、他の手段を準備する必要がある。
アメツに施したように、奴隷に魔術を教えるということだった。
だから、クラビルは奴隷を商人から購入しては、魔導書を与えた。
そして、契約魔術による痛みで脅しながら、魔導具を覚えることを強要した。
このやり方で、アメツは魔術師になれたのだ。だから、今回もそうなるはず。
結果は、奴隷は契約魔術による苦痛に耐えきれず自害してしまった。
それから、クラビルはたくさんの奴隷を購入した。
そして、全員に同じ事した。
結果、誰も魔術を覚えることができなかった。
苦痛に耐えられず自害するか、痛みを与えすぎたせいで死んでしまうか、死なずともなんの反応も示さない廃人になってしまうかのどれかだった。
「くそっ!!」
奴隷というのは高級品だ。
一人買うだけでもお金が大量に必要なのに、その全部が駄目になってしまうとなると赤字もいいところだ。
「アメツさえいれば、こんなことにはならなかったのに!!」
イライラしながらクラビルは自分の爪を噛む。
アメツは優秀だった。
どんな命令でもこなしてくれたし、自分には従順だった。
なのに、なぜ死んでしまったのだろう。
アメツがいなくなるだけで、これほどの損害を被ると知っていれば、もっと大事に扱っていたのに、と今更ながら後悔するが、時すでに遅し。
と、そんなとき、コンコンとノック音が鳴る。
「なんだ?」
イライラしているせいか語気が強くなる。
「クラビル様、報告があります」
入ってきたのは、クラビルの秘書を務めている使用人だった。
「アメツがリグルット家の奴隷になっていることを確認しました」
「なんだと……!?」
思わぬ報告に目を見開く。
「それは本当か?」
「ええ、本当のようです」
「今すぐ、リグルット家に使者を送れ!! アメツの返還を要求するのだ」
「かしこまりました」
使用人は指示通り、リグルット家に使者を送った。
そして、返ってきた返事はこういうものだった。
『そのような人物は存在しない』
その返事を見て、クラビルは怒鳴り散らす。
「くそっ、一体どうなってやがる!!」
イライラも絶頂だった。
そして、クラビルはある決断をする。
「よしっ、こうなったら、リグルット家と戦争だ」
戦争に勝ちさえすれば、なにもかも思うがままだ。
とはいえ、簡単に戦争を起こすわけにもいかない。
ひとまず、国王に対して根回しをする必要がある。
大丈夫、これは勝てる戦いだ。
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