―19― 絶対に勝てるわ!
「いくぞ!」
誰かが、そう叫んだ。
すると、森の中に身を隠していた冒険者たちが一斉に
「ウゴォオオオオオオオオッッ!!」
冒険者を見た
戦闘が始まった。
「ティルミお嬢様、手はず通りに」
「ええ、わかっているわ」
作戦はこうだ。
他の冒険者たちが
そして、準備ができ次第、冒険者たちはその場から離脱。それを確認できたら、お嬢様が魔術を放つ。
僕の役割は、魔術の構築をしている間、無防備になるお嬢様を護衛すること。
冒険者たちはそれぞれ武器を振り回し、
中には吹き飛ばされて、戦線離脱する者もいる。そういう人は後方で神官が治癒をしていた。
「おい、もっとこっちに引きつけろ! このままだと魔物がお嬢ちゃんを襲ってしまうぞ!」
冒険者の一人がそう叫ぶ。
確かに、
恐らく、お嬢様が放とうとしている魔術が脅威であることに気がついているのだろう。
とはいえ、冒険者がヘイトを稼いでいるおかげで、ティルミお嬢様には近づけないでいた。
「準備、できたわ……」
お嬢様がそう口にした。
「離れてください!」
なので、僕は他の冒険者たちにそう呼びかけた。
瞬間、冒険者たちは一斉に
「〈
火系統魔術、第七位階〈
お嬢様から放たれたそれは火炎は渦巻きながら、
数々の木を巻き込みながら
肉体の一部を抉られた
倒したのは誰の目にも明らかだった。
「うぉおおおおおおお!!」
「すげぇええええええええ!!」
お嬢様の魔術を目の辺りにした冒険者が歓声をあげる。
あれだけすごい魔術を見せられたら、誰だってそうしたくなるだろう。
「はうっ」
見ると、お嬢様が息を吐いてよろめいていた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
慌てて彼女が倒れないように支える。
「ちょっと魔力を消費しすぎただけよ。少し待っていれば、回復するはずだから」
あれだけの魔術を放ったんだ。
体力を消耗するのは当然か。
「いやー、すげぇな。お嬢ちゃん」
「あんな魔術、初めてみたぜ!」
興奮鳴り止まない様子で冒険者たちがティルミお嬢様に話しかけてくる。
「ええ、ありがとう」
それにお嬢様は笑顔で応えていた。
ともかくこれで無事、
「そうだ、アメツ。先に村に戻って、無事魔物を倒したことを伝えてくれないかしら。村人たちに討伐されたことを少しでも早く伝えたいの」
「えっと、お嬢様は?」
「私は疲れたから、ゆっくり戻るわ」
ということは僕はお嬢様と一時的に離れるということだ。
そのことに不安がよぎる。
「お嬢ちゃんなら、俺たちが責任もって護衛するから安心してくれ!」
冒険者の一人がそういって胸を張る。
他の冒険者たちも頷いていた。
これなら任せてもよさそうだ。
「わかりました。それじゃ、僕は先に戻っていますので」
「ええ、お願いね。アメツ」
「お嬢様もお気をつけて」
そう返事をすると、僕は森の中を駆け足で抜けていく。
道は覚えてるので、迷うことはない。
「おい、戻ってきたぞ!」
村に戻ると、どうやら村人たちは僕たちが戻ってくることを待っていたようで、外に集合していた。
「皆さん、安心してください。魔物は無事討伐しました。他の方たちもすぐ戻ります」
そう僕が言うと、村人たちはそれぞれ歓声の声をあげた。
「よかったー!」だとか、「これで安心できる」「これもティルミお嬢様のおかげだ!」など、会話が聞こえてくる。
「よっし、今日は宴だー!」
「「うおーっ!」」
誰かが拳をあげてそう言った。
「当然、お前も参加するよな?」
「えっと、ティルミお嬢様次第ですかね」
突然話しかけられたことに困惑する。
ティルミお嬢様は参加する、と言うだろうか?
「よしっ、それじゃあ準備をするぞー!」
と言いながら、村人たちは宴の準備を始めるのだった。
◆
アメツの姿を見えなくなった直後。
冒険者たちは
魔物を解体すると必ず手に入る魔石はもちろん、毛皮や肉なんかも貴重な素材だ。
素材ごとに解体したら、手分けして運ぶ。
「私もなにか運ぶわよ」
「いいのか、お嬢ちゃん? 疲れてるんじゃないのかよ」
「疲れているのはあなた方も一緒でしょ」
そういうことなら、と冒険者の一人は素材を入れた大きな袋をティルミに手渡す。
魔力を消費したティルミには疲労がうかがえたが、それは他の冒険者たちも同様だった。
皆、戦闘をして疲れているので、ゆっくりとした足取りで森の中を歩く。
とはいえ、標的の魔物を退治した後なので、一向は警戒心もなく和気藹々と談笑しながら森の中を進んでいった。
特に、ティルミが会話の中心となり、皆を盛り上げていた。
彼女はあまり親しくない人とも、会話を盛り上げることができる天性の才能があった。
そんな折――。
「おい、なにかいるぞ!?」
誰かがそう叫ぶ。
確かに、遠くになにかがいた。そのなにかはこちらへと近づいてくる。
「クゴォオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
近づいてきたのは
「うそ!? まだいたの!?」
ティルミは驚愕する。
てっきりこの森にいる
「おい、まだ、なにかいるぜ?」
「他にも、
出現した
1、2、3……と数えて5体いることに気がつく。
どうやら五体ものの
「おい、どうする……!?」
「こんな勝てるわけがねぇ……」
誰もが動揺していた。
このままだとまずい。気持ちで負けてしまってはどんな戦いでも勝つのは難しい。
「私の指示通りに動いて! そうしたら、絶対に勝てるわ!」
ティルミは前に進み出て声を張り上げる。
絶対に勝てる根拠なんてどこにもなかった。
けれど、自分がそう言うことで、他の者たちが自信を持つことができることをティルミは知っていた。
「お前ら、行くぞ!」
「おう!」
狙い通り、彼らは動揺を脱ぎ払い、やる気に満ちあふれていた表情をする。
これなら、もしかしたら勝てるかもしれない。
ティルミはそう思った。
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