―18― 頼りにするわよ
集まった冒険者は全員で6名。
それに僕とお嬢様を加えて、全員で8名が、森の中を歩いていた。
集まった冒険者たちは知り合い同士ってわけではなく、それぞれが依頼を見て、この村に集まってきたらしい。
中には、パーティーでやってきた集団もいるらしいが。
ついでに、冒険者たちの内訳は、武器を持つ戦士が5名と最も多く、神聖魔術を得意とする神官は1名だけで、お嬢様と同じ魔術師は一人もいなかった。
魔術は3種類8系統に分類にされるが、この内、自然魔術、神聖魔術、古代魔術の3種類はそれぞれ独立して発展してきたという歴史がある。
自然魔術はある哲学者によって、神聖魔術はある聖人によって、古代魔術は原始の時代から始まったとされている。
そして、自然魔術は錬金術、神聖魔術は奇跡、古代魔術はマナ、とそれぞれ異なる名称で発展してきた。
それらが、すべて魔術として一括りにされたのは60年前、一人の偉大な賢者によって。
60年前と聞くと、昔のイメージをもたれるかもしれないが、錬金術師に奇跡、マナが1000年以上前からあったという歴史的背景を考えると、魔術の歴史はなんとも浅いことか。
今では、魔術として3種類すべてを学ぶことができるが、それは裕福な貴族のみに許された特権だ。
まぁ、僕みたいな例外はいるけれど。
平民が魔術を覚えたいなら、主に三通りだ。
一つは、道場に通って強化魔術を覚えることだ。
道場ごとに扱う武器や流派が異なるらしいが、どの道場でも肉体を強化魔術で強化した上で戦うのは共通している。
そして、この方法が最も一般的だ。
今日集まった冒険者のうち、ほとんどが強化魔術を主に戦う戦士たちなのが、その証拠だ。
次に一般的なのは教会で修行することだろう。
神官になって修行をすれば、神聖魔術を覚えられる。
最も難しいのは、自然魔術だ。
平民が自然魔術を覚えたいなら、自然魔術を使える魔女にでも弟子入りするしかない。
まず、魔女と知り合うのが難しいに違いない。
お嬢様なら、神聖魔術も強化魔術も使えるんだろうが、それらは他の冒険者たちでも十分役割をこなせるだろうし、今回は自然魔術をメインに後方で戦うつもりなんだろう。
それにお嬢様が一番得意なのは自然魔術ってことだし、最も適した選択だろう。
僕はお嬢様が怪我しないよう護衛に徹底しよう。
なんてことを考えていると、先頭が立ち止まったことに気がつく。
様子をうかがうに、討伐対象の魔物が見つかったのだろう。
それからは事前の取り決め通り、冒険者たちは散開していった。
一方から突撃するより、囲んで攻撃したほうが、優位に戦えるからだ。
僕とお嬢様は後方から魔物を攻撃することが決まっている。
どれどれ、ここから見えるかな。
そう思いつつ、双眼鏡の代わりに、水魔法で作った水をレンズの形状にして遠くを観察する。
確かに、そこに魔物はいた。
鉄のような鱗を持った巨大な大熊型の魔物。
その大きさは体長、5メートルを優に超す。
そして、今回の標的だ。
「少しだけ緊張するわ」
ふと、隣にいたティルミお嬢様がそう口にする。
表情はいつものお嬢様のままだが、これから魔物と戦うのだ。緊張するのは当たり前か。
「安心してください。僕がお嬢様を守りますので」
安心させようと、
「ふふっ、わかったわ。頼りにするわよ、アメツ」
彼女は笑った。
この笑顔を守るためなら、僕はなんだってしよう。
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