虐げられた奴隷、敵地の天使なお嬢様に拾われる ～奴隷として命令に従っていただけなのに、知らないうちに最強の魔術師になっていたようです～

―１７― 行くわよ

「ティルミお嬢様だ！」

「ティルミお嬢様直々に来てくれたぞー！」

「これで村人も安心だー！」

　村に着いて、ティルミお嬢様が馬車から降りた途端、村人たちの声援が聞こえた

「おぉ、あれが噂のティルミお嬢様か」

「才色兼備だって噂だけど、本当のようね」

「見た目もうつくしい上に、魔術の才能に恵まれているなんて信じられないな……」

「その上、性格もいいんだろう。この前、虐待されている奴隷をお嬢様自らお救いになったと聞いたぜ」

「どんな者にも手を差し伸べるなんて、まるで女神様のようなお方だ」

　村人たちの会話が聞こえてくる。

　どうやら、ティルミお嬢様は村人中から好かれているらしい。

　ティルミお嬢様は完璧な才女であるから、この評価は納得だ。

「村人の皆さん！　魔物が現れたことで、さぞ不安だったでしょう。ですが、私が来たからには安全です。必ずや、この手で魔物を討伐することを皆様にお約束致します！」

　ティルミお嬢様が村人たちにそう呼びかける。

　透き通るようなきれいな声だった。その声を聞くだけで、心が揺さぶられそうになる。

「おぉー！　応援しているぜー！」

「がんばれー！」

「頼りにしているわー！」

　村人たちもお嬢様に熱い声援を送る。

　ここにいる者みんながお嬢様の存在に酔いしれていた。

「ティルミお嬢様。遠路はるばるよくお越しくださいました」

「あら、村長さん。おひさぶりです。以前、いただいたハーブティーとってもおいしかったわ。ありがとうっ！」

「いえ、お嬢様がわたくしにお礼を述べられるなんてとんでもない。あのハーブティーを気に入っていただけたなら、いくらでもお渡ししますよ」

「あら、本当？　わぁっ、とっても嬉しいわ」

「お嬢様に喜んでいただいて何よりです。それで、早速で申し訳ないのですが、すでに冒険者たちが集まっておりまして、あとはお嬢様をお待ちしている状態でして……」

「ええ、わかったわ。案内していただける？」

「はっ、もちろんでございます」

　というわけで、村長に連れられて歩く。

　当然、僕もその後ろをついていく。

　すると、すでに数名ほどの冒険者たちが集まっていた。

　皆、鎧に身を包み、多様な武器を持っている。強そうな冒険者ばかりだ。

「助っ人にくる貴族のお嬢ちゃんって、あんたか？」

　冒険者たちの一人が前にでて、お嬢様に話しかけてきた。

　その冒険者は背が高くがたいも良かった。腰には剣を差している。

　いきなりため口とか、無礼だな、と内心思う。

　その上、態度が高圧的だ。

「はい、リグルット家の長女、ティルミ・リグルットと申します。よろしくお願いしますわ」

　対して、お嬢様は笑顔を絶やさずに、頭を下げた。

「お、おう、俺は剣士のドドスだ。よろしく」

　冒険者のほうも、自分なんかに貴族が礼儀ただしい態度をとるとは思っていなかったようで、戸惑いの表情を浮かべていた。

「私が得意なのは魔術によるサポートです。皆様方はさぞ、ベテランの冒険者であるとお見受け致します。ですので、私が指示するより、皆様方で決めて行動なさってください。私はそれに従います」

「そうか。てっきり、貴族っていうから嫌なやつが来るかと思っていたが、あんたは違うようだな」

「あら、そう言っていただけるなんて、大変光栄だわ」

　それからもティルミお嬢様は他の冒険者たちと自己紹介を兼ねたコミュニケーションをはかっていた。

　どの冒険者も、お嬢様と話した途端、お嬢様のことが好きになってしまうのが表情でわかる。

　すごいなぁ、と思わず関心してしまう。

　お嬢様がこれだけ人を惹きつけてしまうのは、なにか言葉で言い表せない魅力があるのだろう。

　そんなお嬢様の教育係をしている僕はなんて幸せ者なんだろうか。

「アメツ、行くわよ」

「はい！」

　一通り挨拶を済ませたらしいティルミお嬢様が僕にそう呼びかけたので、返事をする。

　それからお嬢様と僕を加えた一行は魔物を倒すべく、森の中へと入っていった。