―39― 手に入れる必要がないよな

「……あ?」


 目が覚める。

 どうやって死んだんだっけ?

 あぁ、そうだ、傀儡回に食べられてしまったんだ。そのことを思い出して、なんともやるせない虚脱感が全身を襲う。

 俺はどうすればよかったんだ……?

 このダンジョンを脱するために、そして、復讐を果たすために、俺は今よりもずっと強くならなくてはいけない。


「別に傀儡回を手に入れる必要がないよな」


 傀儡回は俺が強くなるための手段の1つに過ぎない。

 なのに、その果てが傀儡回に食べられるんじゃ意味がない。

 だったら、傀儡回を使わないで強くなる方法を探すべきなんだろう。


 そう決意した俺は動き出す。

 まず、〈知恵の結晶〉が置いてある隠し部屋まで行く。

 途中、数多いる魔物たちに見つかってはいけない。もし、見つかったら、今の俺ではあっけなく殺されるだろう。

 とはいえ、何度もこの動きを繰り返しているおかげで、スムーズに事を運ぶことができた。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 以下のスキルから、獲得したいスキルを『1つ』選択してください。


 Sランク

〈アイテムボックス〉〈回復力強化〉〈魔力回復力強化〉〈威圧〉〈見切り〉〈予知〉


 Aランク

〈治癒魔術〉〈火系統魔術〉〈水系統魔術〉〈風系統魔術〉〈土系統魔術〉〈雷系統魔術〉〈錬金術〉〈呪術〉〈念話〉〈強化魔術〉


 Bランク

〈剣術〉〈弓術〉〈斧術〉〈槍術〉〈体術〉〈棒術〉


 Cランク

〈身体強化〉〈気配察知〉〈魔力生成〉〈火耐性〉〈水耐性〉〈風耐性〉〈土耐性〉〈切れ味強化〉〈命中率強化〉〈回避率強化〉〈暗視〉


 Dランク

〈鑑定〉〈筋力強化〉〈耐久力強化〉〈敏捷強化〉〈体力強化〉


 △△△△△△△△△△△△△△△


〈知恵の結晶〉を使用すると、出現するスキルの一覧を見る。

 いつもながら〈剣術〉を選ぼうとして、


「ん、待てよ。本当に〈剣術〉を選ぶべきなのか?」


 指をとめていた。

 毎回〈剣術〉を選んでいたのは、寄生剣傀儡回くぐつまわしの存在があったからだ。

 傀儡回を使って戦う以上、それと相性のいい〈剣術〉を選ぶのは必然だった。

 だが、今回俺は傀儡回を手に入れるつもりがない。

 ってなると、剣を用いないで戦うことになる。そうなると、獲物を持っていない状態と相性がいい〈体術〉を選ぶべきだよな。

 だって、傀儡回以外に武器を手に入れる当てはない――


「いや、よく思い返せば、武器を手に入るチャンスなんて、たくさんあるじゃないか」


 というわけで俺は〈剣術〉を選んだ。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 スキル〈剣術〉を獲得しました。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 いつもなら、この後は、傀儡回を回収し、魔物を何体か倒して〈剣術〉をレベル2にあげる。

 けど、今回は傀儡回を回収しない。そして、傀儡回を持っていない状態で魔物を倒すのは厳しいため、〈剣術〉をレベル2にあげることも諦める。


 だから、〈剣術〉がレベル1の状態で、金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマーのいる隠し部屋へと向かった。



「おい、雑魚共かかってこい!」


 金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマーたちに〈挑発〉を使う。

 そして、うまく攻撃をかわすことで同士討ちを発生させる。

 ガシャンッ、一体の金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマーが別の金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマーに剣を強く叩きつけていた。

 叩きつけられた金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマーのその場で転倒して、起き上がるのに苦戦した。

 その隙に、その金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマーから剣を奪う。


「よく考えれば、こいつらから剣をいくらでも調達できるんだよな」


 剣の調達方法。それは、金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマーから奪うことだった。

 剣さえ、装備することができれば、スキル〈剣術〉が発動することで、断然戦いやすくなる。

 と、このときの俺は考えていた。


「やっぱ、戦いづらいッ!!」


 ある程度、こうなることは予想できたとはいえ、ここまで苦戦させられるか。

 傀儡回と金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマーの剣では、圧倒的に傀儡回のほうが強力だ。

 とはいえ、弱音を吐いても仕方がない。

 傀儡回を使えないとわかった今、この剣で戦うしかないのだから。

 そう力んだ次の瞬間――


「あっ」


 後ろから背中を切り裂かれていた。

 痛みを感じると同時、意識を失っていた。





 試行回数およそ560回目。

 俺は何度も傀儡回を使わないで、金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマーたちのいる部屋を突破しようと挑戦した。


「……無理だろ」


 そして、何度目かとなる死を迎えて、とうとう俺は音を上げていた。

 金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマーを5体までなら、なんとか倒すことができた。

 けど、このやり方では、20体いる金色の無人鎧ゴールデン・リビングアーマー駆動騎士リビングナイトを全て倒せる見通しが正直つかない。


「やっぱり、傀儡回を使うしかないのか……」


 けど、使った結果食べられるんじゃ、意味がない……。

 いや、待てよ。

 傀儡回に食べられたのは、レベル3まであげて派生スキル〈残忍な捕食者プレデター〉を獲得したことによって、巨大な顎の化物へと変貌したからだ。


「だったら、あえてレベル2で打ち止めにしたら?」


 スキルポイントを割り振るのは、俺の意思によって行われる。

 ならば、レベル3にあげないという選択を選べばいい。

 そもそも、レベル2の傀儡回の派生スキル〈脈動する大剣〉は非常に有用だ。レベル2の状態でも十分すぎるほどの戦力に違いない。

 だから、わざわざ危険なレベル3にあげる必要がない。


「試してみるか……」


 そう決意した俺は、寄生剣傀儡回が置いてある場所へと向かうのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る