―26― 主人

「君かい、俺様の主人になりたいという者は……」


 誰だ……?


「あぁ、俺様は傀儡回の本体とでもいうべき存在だ」


 そう喋った者は、化物としか形容できない存在だった。闇の集合体とでも称すべきだろうか、その闇に目や口のパーツがバラバラについている。


「そうか、傀儡回の本体か。ここはどこだ?」


 周囲の光景もまた、奇妙だった。

 暗闇の中に、ゆらめく炎が点在している。そんな光景だろうか。


「ここは君の深層世界ってところかな」

「深層世界……」


 俺の心の中って解釈で問題ないだろうか?

 まぁ、ここがどこかなんて些細な問題だ。

 それよりも――


「お前に頼みがある。俺に力を貸して欲しい」


 今の俺は無力だ。

 力が手に入るためなら、どんなやつの力でも手に入れるつもりだ。


「いいよ」


 あまりにも、それはあっけないものだった。


「そんな簡単にいいのか?」

「おかしな返事だね。君から言い出したことだろ?」

「まぁ、それはそうだが」


 てっきり断られると思っていただけに、どうしても疑りだしてしまう。


「いやね、君の魂からなんだかなつかしい匂いがするんだ。だから、君なら従ってもいいと思ったんだ」

「なつかしい匂いか……」


 死に戻りしているとはいえ、俺自身は何度も傀儡回に乗っ取られている。だから、なつかしい匂いでもしたのだろうか。


「ともかく、よろしく。ご主人様」


 その言葉と同時に、意識が覚醒する。

 目を開けると、そこには吸血鬼ユーディートが椅子に座っていた。


「あら、まさか成功するとは思いませんでしたわね」


 吸血鬼ユーディートは目を丸くしていた。

 どうやら、成功するとは思われていなかったらしい。この人の命令に従っただけなんだけどな。


「まぁ、いいですわ。着いてきてくださいまし」


 そう彼女はどこかに行こうとする。


「えっと、なにをするんですか?」

「言ったでしょう。テストに合格すれば、弟子にします、と。今からあなたを鍛えて差し上げますわ」





「あなた、スキルはいくつ所持していますの?」

「1つです」


 正確には、〈挑発〉と〈セーブ&リセット〉の2つだが、〈セーブ&リセット〉のほうは隠しておくべきだ。


「そのスキルが、なにか伺っても?」

「〈挑発〉です」

「随分と、心許ないですね」

「自覚はしています」

「それじゃあ、今からスキルを1つ、手に入れましょうか」

「え? そんなことできるんですか?」

「あら、わたくしをどなたとご存じ?」

「偉大たる吸血鬼ユーディート様です」

「それはそうですけど、このダンジョンには1000年近く住んでいますのよ。だったら、このダンジョンのことは全て頭に入っていますわ」


 そう言って、彼女は自分の頭を差した。


「当然、スキルが手に入る宝箱の位置も全て把握していますわ」


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