―12― 頭、おかしくなりそう……

 試行回数およそ420回目。

 

「やばい……頭、おかしくなりそう……」


 初めて鎧ノ大熊バグベアを倒した瞬間は、あれだけ高揚していたのに、反面、今はひどく気分が落ち込んでいる。


 初めて鎧ノ大熊バグベアを倒してから、60回は死んでいる。

 今では、3回に2回は宝箱のある部屋までたどり着くことができるので、40回は戦っている計算になるか。


「なのに、なんで未だに、2体目の鎧ノ大熊バグベアを倒せないんだよッ!!」


 一体目を倒しさえすれば、〈筋力強化〉がレベル2になる。

 そうなれば、2体目を簡単に倒せるようになると踏んでいた。

 だというのに、何回やっても、2体目の鎧ノ大熊バグベアを倒すことができなかった。

 鎧ノ大熊バグベアは全部で10体もいるんだぞ。

 こんなところで躓いてなんかいられないはずなのに。


「くっそがぁ!」


 やばい、さっきからイライラが収まらない。

 おかげで集中力が落ちる。

 すると、動きの精度が落ちる。

 そしたら、失敗が重なっていく。

 その結果、余計イライラするという負のスパイラルに陥っていた。


「問題は、体力だ……」


 目の前には、たった今殺した鎧ノ大熊バグベアがいた。

 一体目の鎧ノ大熊バグベアを倒したところだ。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 スキルポイントが使用されました。

 レベルアップに必要な条件を達成しました。

 スキル〈筋力強化〉はレベルアップしました。

 筋力強化Lv1 ▶ 筋力強化Lv2


 △△△△△△△△△△△△△△△


 素早く、スキルポイントを消費し、レベルを2にあげる。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 そんな最中、俺は肩で息していた。

 一体倒すだけで相当の体力を奪われる。

 すぐには体力は回復しない。


 この少ない体力で、いくら〈筋力強化〉がレベル2にあがったとしても、残り9体の

鎧ノ大熊バグベアを倒せる気がしない……。


「しっかりしろよ、俺……!」


 自分で自分の頬を叩く。

 復讐を思い出せ。

 ナミアのことを思い出せ。


「絶対、このダンジョンを抜けてやる」


 そう言って、俺は前に進む。

 フェイントを入れつつ、右にステップする。

 すると、鎧ノ大熊バグベアBの懐に入ることができる。

 全力で拳を叩き込め!


 ドンッ! と、低い音が鳴る。

 やはり、レベル2になったおかげで、威力は上がっている。

 殴られた鎧ノ大熊バグベアBは後ろへとよろめく。

 けれど、倒すにはいたらない。

 再び、鎧ノ大熊バグベアBが襲いかかってくる。

 後ろへとステップをすればかわせるが、その後ろから鎧ノ大熊バグベアCと鎧ノ大熊バグベアDの二体が襲いかかるのがわかっていた。

 だから、転がるように姿勢を低くし、くぐり抜けるように攻撃をかわす。

 さらに、高くジャンプして、鎧ノ大熊バグベアCの頭の上に両手をのせて、その場でバク転、からの着地を勢いを利用して、鎧ノ大熊バグベアBの顔面に拳を強く殴りつける。

 トリッキーな動きをすることで、鎧ノ大熊バグベアたちが混乱して、動きが鈍くなることを知っていた。

 その隙に、さらに鎧ノ大熊バグベアBにもう一撃を拳を叩き込む。


 確か、この後、鎧ノ大熊バグベアEが横から攻撃してくる。

 それをステップで回避して、鎧ノ大熊バグベアBにもう一度、拳を叩き込むフリをする。

 フェイントだ。

 拳から逃れようと、鎧ノ大熊バグベアBが後ろに移動しようとした力を利用して、足をひっかける。

 狙い通り、鎧ノ大熊バグベアBは目の前で転倒しようとしていた。

 体勢を崩している瞬間に、全力で蹴りを加えた。


「グギャアッ!」


 鎧ノ大熊バグベアBが悲鳴をあげた。

 この動きが、試行回数420回で得た最適解――。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 魔物の討伐を確認しました。

 スキルポイントを獲得しました。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 やった。

 初めて、2体目の鎧ノ大熊バグベアを倒すことに成功した。

 けど、喜ぶ気になれない。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 肩で息しているのがわかる。

 正直、体力が限界だ。

 この調子で、あと8体倒すなんてことできるのか?

 ひとまず、〈筋力強化〉をさらにレベルアップできるかもしれないので、ステータス画面を開く。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 所持スキルポイント:8


〈筋力強化Lv2〉

 レベルアップに必要な残りスキルポイント:100


 △△△△△△△△△△△△△△△


「全然、足りねぇじゃねぇかよ」


 2体目倒すことでLv3になれるならここを突破できる可能性があると踏んでいたが、その望みもたった今潰えた。


「無理だろ、これ……」


 完全に心が折れる音がした。

 その5秒後、俺は死亡した。


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