第42話 俺は蘇生魔法が使える。(神妙)

 俺は蘇生魔法が使える。

 その事実を、ある日、音夢と玲夢に告げた。


「知ってるわ」

「知ってま~す!」


 とのことだった。


「でもそれって、極めて深い絆を結んだ相手じゃないと使えないのよね?」

「あ、はい。そうです」


「センパイ、センパ~イ! あたしが死んじゃったら生き返らせて~!」

「多分無理」

「知ってた~!」


 知られてた。


「ルリエラ様からお話は聞いたけれど、多分、私でも無理なんじゃない?」

「あ、それはどうかな~……」


 音夢は、どうかなー。どうだろう。

 結局は『どれだけ互いを深く想い合ってるか』が重要だから。この魔法。


 俺の方は、まぁ、言わずもがな。多分、条件は満たしてる。

 問題は、音夢の方が俺をどう思っているか、という点。


「…………」


 そこに考えが及んだとき、心臓が一気にキュウ~ってなった。あ、あばばば。


「……橘君?」

「センパ~イ? 顔色が灰色ですよ~?」

「い、いや、何でも……」


 心配顔の二人に、俺は手を伸ばして大丈夫だと言おうとする。

 だが、それよりも先に玲夢がいきなりパンと手を打った。


「あ、そーゆーことかー!」


 ちょっと? 玲夢さん? ちょっと? 貴様、何に感づいた!?


「何よ、玲夢。どうかしたの?」


 音夢は首をかしげるばかりだが、その隣で玲夢は急にニヤニヤし始める。


「もぉ~、お姉ったら~?」

「え、何? 何なの?」


 口に手を当ててすり寄ってくる妹に、音夢はますます怪訝そうな顔つきになる。

 そして、玲夢はニヤケ面をそのままにこっちをチラチラ見てくる。


 貴様、何だその笑みは。

 まさか気づいてしまったのか。この俺の心の奥に秘めた禁断の最重要機密に!?


 ……うん、まぁ、気づかれても仕方がないかもね!


「さぁ、ついに始まりました! 第一回、お姉とセンパイの絆チェッククーイズ!」


 え、いきなり何言い出してんの、このパリピ。


「ちょっと、グラたん、効果音、効果音!」

『え、え、吾輩!?』


「はーやーくー」

『え、え、っと……、ドンドンパフパフ~! イェ~イ、イェ~イ!』

「イェ~イ、それじゃあ早速第一問でぇ~っす!」


 おま、グラズヴェルドさん……。

 アルスノウェじゃ王たる者の王、あらゆる生命の頂とまで呼ばれてたろ、おまえ。

 それが、謎のクイズ番組のADみたいな扱いされて、何て面白いことに。


「第一問! うちのお姉の苦手科目はな~んだ?」

「「家庭科。特に調理実習」」


 俺と音夢の返答は、ほぼ完全にハモっていた。


「せいか~い! じゃあ第二問、何で調理実習が苦手なんでしょ~か?」

「「他の生徒の料理が気になってついつい教えちゃって自分が疎かになるから」」


 俺と音夢の返答は、またも完全にハモっていた。


「せいか~い! それでは第三問、お姉の好きな歴史上の偉人は?」

「「勝海舟」」


 俺と音夢の返答は、みたび完全にハモっていた。


「せいか~い! それでは第四問、何で好きなの?」

「「幕末の江戸城無血開城のエピソードが大好きだから」」


 俺と音夢の返答は、もう何か、以下同文。


「せいか~い! それでは第五問――」


 そんな感じで、玲夢は次々に音夢に関する問題を俺達に出していった。

 そして、俺と音夢はそのことごとくをハモって正解し続けた。やがて――、


「それでは、いよいよ最終問題で~っす!」

「やっとか……」

「長かったわね……」


 俺と音夢は揃って疲れてため息を漏らす。

 今、何問目だっけ。

 それすらわからないくらい、この謎のクイズ企画は続いていた。


 だが、それもやっと終わる。

 いきなり始まったクイズ大会も、結局は音夢の過去の焼き直しでしかなかった。

 まぁ、知ってることを口に出してるだけで、これで絆って言われてもねぇ。


「最終問題――」


 玲夢が、最後のクイズを繰り出してくる。


「人が人を殺すのはいけないこと? いけないことなら、その理由は何で?」


 うおおおおおおおおい!!?

 さ、最後の最後でなんつー激重い質問してくんだ、こいつはよー!!?


 見ろよ、隣に浮いてるグラたんも『ええ、何その質問』ってツラして――、


『さすがはれむたん、まさかそのようなクイズを出してくるとは。ふ、深い……!』


 ダメだこの竜王、脳みその髄まで推しにヤラれてやがる!

 俺は内心にグラズヴェルドをフルボッコにしつつ、音夢の顔を盗み見た。


 音夢は、がっつり真顔だった。

 だがその横顔からは何を考えているのかわからない。


 まぁ、何を考えていたところで、今度こそ俺と答えが合うことはないだろう。

 これだけは合わない。俺は、それを確信していた。


 生きるということ、死ぬということ。

 生かすということ、殺すということ。


 それに関しては、俺と音夢の考え方は真逆で、対極で、正反対だ。

 だから合うことは絶対にない。これだけは、絶対に。

 そう思いながら俺は、音夢に合わせて自分の回答を口に出そうとし、唇を開く。


「それでは、センパイ、お姉、答えをどーぞー!」

「「人を殺すのはいけないこと」」


 二人の答えは、見事に同じだった。

 しかし、ここまでは俺も予想していた。俺と音夢が合わないのは、ここからだ。


「うんうん、いけないことだよね。じゃあ、その理由は何かな?」


 促してくる玲夢に、俺と音夢は最後の返答をする。

 最後の、そして絶対に互いに噛み合うことのない返答を、だ。


「俺達が」

「私達が」

「「同じ人だから」」


 ――だが、俺達の答えは、同じだった。


「「……あれ?」」


 そして、答えた直後に互いの顔を見るというリアクションまでも。

 俺と音夢のそんな反応を見て、玲夢がニヤニヤして言ってくる。


「もう、結婚しちゃえば~?」

「「何で!!?」」


 玲夢に対するツッコミまでハモる、俺と音夢であった。

 ……疲れた。

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