気ままなゾンビぶっ殺し紀行 編

第41話 道路にゾンビがいっぱいいて邪魔。(殺意)

 道路にゾンビがいっぱいいて邪魔。


「このっ、このっ、邪魔だぞコラ! 車が通るのが見えんのか!」


 運転する俺は、プップーとクラクションを鳴らしまくる。


「橘君、それって逆効果なんじゃ?」


 助手席に座る音夢が、怪訝そうな顔で俺に尋ねてくる。


「え、何が?」

「何が、って、そんな音なんか鳴らしたら、ゾンビが集まってくるんじゃ?」


 何を当たり前のことを言うのやら。

 実際、道路をうろついてるゾンビはほとんどがこっちに気づいている。

 ノロノロと、まさにゾンビゾンビした歩き方で近寄ってくる。


「ねぇ、これ囲まれちゃったりしないかな? センパイ、大丈夫?」


 後部座席の玲夢が頭を右往左往させる。

 すでに車の周りにはゾンビしか見えないような状況だ。うんうん、囲まれてるね。


『あらあら、これじゃあ前に進めませんわね~』

「ルリエラ様、そんなのん気な……」


 俺の肩にとまっている小鳥姿のルリエラも、俺と同じくのほほんとしたものだ。

 音夢も玲夢もこっちに心配げな視線を送ってくるが――、


「考えなしに集めたワケじゃねぇさ」


 俺は、ここで無詠唱魔法を一つ発動させる。


灼烈制域テトラ・ブレイズ


 直後に俺達が乗る大型車は白い炎に包まれた。


「きゃあっ!」

「え、何、何コレ? え?」


 音夢と玲夢とが、続けて驚きの声をあげる。

 それをなだめたのは、玲夢が連れている小型ドラゴンのグラズヴェルドだった。


『れむたんよ、驚くことなかれ。真火にて包んだだけのことであるぞ』

「し、しんか……? ……あ」


 言われて、玲夢は思い出したようだった。

 そりゃあ一年も異世界で冒険者やってりゃ、見知る機会もあっただろうな。


「化学反応を介さない、燃焼の概念を可視化した『焼くための火』。ゆえに真火」


 俺は、軽くそう告げて、ハンドルから手を放した。


「ま、概念を現実に形にするにはそれなりに魔力が必要だからな。いくらアルスノウェでも、そうそうお目にかかれるモンじゃないぜ」


 座席シートに背をもたせると、どっしりとした感触を背中に感じた。

 う~む、普通の車とは一線を画すこの安心感。これだけで高いとわかる。

 本当にこんなイイクルマもらってよかったんですかねぇ、英道さん。


「あの、橘君?」

「どした、音夢。何かあったか?」


「何か、じゃなくて大丈夫なの? この車、燃やしちゃって」

「バ~カ、車燃やすワケねぇだろ。車を真火で覆っただけだって、勘違いすんな」


「覆っただけ?」

「魔力で発生させたモンなんだからな、何を燃やすかは俺が決められる」


 そして、車を包む真火が燃やすモノといえば、言うまでもないだろう。


「あ、スゴ~イ! ゾンビがどんどん燃えてる~!」


 白い炎が安全とわかると、玲夢はすぐに順応して窓から外を眺め始めた。

 俺はまた幾度かクラクションを鳴らし、ゾンビを集める。

 そして脳みそ足りてない系動く死体の皆さんは、車に近づいて白い炎の餌食だ。


「……すごい勢いで燃えてるわね」


 妹とは違って、やや気味悪げな顔つきの音夢が、外を眺めながら言う。

 白い炎は、ゾンビが触れた瞬間に燃え移り、全身を瞬く間に焼き尽くした。


 肉が焦げる匂い、なんてモンは全然感じない。

 真火の燃焼力がメチャクチャ高いのもあるけど、クルマの気密性がすげぇわ。


「……橘君」


 次々に人型の炭と化して倒れていくゾンビを見て、音夢がまた俺に尋ねてきた。

 顔色が若干ながらも青い。

 ほとんど時間を置くことなく炭になる様が、かえってグロいのかもしれない。


「この真火って、どれくらいの温度があるの?」

「太陽の表面温度くらい」

「なるほど……」


 俺が答えると、音夢もそれに納得したようで、静かに目を閉じて顔を伏せた。


「何してんの?」

「お祈りよ。ゾンビになってしまった人達に、せめて私だけでも」


 何をバカなことを。と、俺は思った。


「ゾンビに祈る必要なんかないぜ、音夢。見ろよ!」


 広い車内で腕を振って、俺は燃え上がるゾンビ達を見回す。


「令和の日本を壊し尽くした連中が、こうしてなすすべなく派手に燃え上がって炭になって灰になって、土に還っていくんだぜ! まさに最高の景色だろうが! こいつらは死者じゃねぇ、悪役だ! 悪者だ! 死して屍、燃えて灰! ってな! フハハハハ、ハァッハハハハハハハハハハァー!」

「わぁ、今日もセンパイのスイッチ入っちゃったー」

「あなたのそういうところだけはどうにかした方がいいと思うわ、私」


 高笑いを響かせる俺に、玲夢は「知ってた」みたいなツラをして、音夢は嘆息。

 何で、この最高の景色を楽しめないのか。ちょっと俺にはわかりかねた。


「とりあえず小腹空いたから何か食うか」


 言って、俺は無限収納庫からジュースとお菓子を取り出して二人に渡す。

 こうして、俺達はゾンビが全て灰燼に帰すまでの間、小休憩に入るのだった。


「ここで休憩に入れる私達って、だいぶ橘君に毒されてんじゃないかしら……」


 と、いう音夢の呟きが聞こえたが、さてさて、一体何のことやら。

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