第52話「見つけだすもの」
ユニアが小声でその能力の全開を宣言すると同時、彼女の鎧の各所に仕込まれた宝玉が輝きだした。アクアマリンの瞳もうっすらと輝き、いつも変化の少ない表情から、完全に感情が消えた。
彼女はたった今、この場を解析する機械となった。
それを理解した俺は、神具を杖代わりに、脳内で準備していた魔法を一つ起動する。
「不可侵のものよ、輝ける盾よ、顕現せよ!」
一般的なものではなく、ハスティさんのオリジナル魔法。
超強力な魔力の障壁を生み出す魔法だ。
目の前に出来あがった光の壁が、ベレブの魔法攻撃を受け止める。輝く盾越しに、魔力の爆発が目映く光る。
物理的な衝撃は無いが、防壁がどんどん削られる。それを見て、俺は順次魔力を補充。どうにかして状況を維持する。
「我慢比べだな……」
「……がんばってください」
うしろからユニアの声が聞こえた。話せるのかよ。完全に意識を失う展開っぽい技使ってるのに。
「解析モードですから、見えてはいます。会話は難しいですが、応援します」
「……無理に応援しなくていい」
そう返して、俺は防壁の強化に集中し直す。
ベレブの攻撃はまだ続いている。威力の強い魔力弾だが何とかなりそうだ。
ただ、ずっと続くならそのうち押し負ける。どこかのタイミングで解除して、上手いこと回避しつつ反撃しないと……。
「お……?」
次の手を考えていたら、攻撃が止まった。
見れば、ベレブが俺達を見て、怪訝な顔をしていた。
「お前、本当に何者だね? これに耐えられる人間など、いないはずだが?」
「ただの雑貨屋だと言っただろう」
神具の剣を構えなおして答える。こいつが学者肌で助かった。多分、俺へ興味が出て来て攻撃をやめたんだ。ワルキューレを連れた無駄に強い人間なんてまずいないはずだからな。
もし、最初に俺がフィル・グランデだってバレてたらこうはいかなかった。加護を温存した甲斐があったというもんだ。あれを使うと高確率で正体バレするからな。
「妙だな。こういう時の可能性としてはだね……」
「考える暇なんてやらねぇよ!」
目の前で考え出したので、俺は一気に前に駆け出す。神具を弓にして、弦を引く。何も無い空間から光の矢が現れ、先端をベレブに向けた。
「いけっ!」
気合いと共に、次々と光の矢を発射。あまりの速度に光の線となって次々と殺到する攻撃を、ベレブは避けもしない。
「効くと思っているのかね?」
残念ながら、矢はベレブに当たると同時に雲散霧消した。莫大な魔力がそのままバリアになっている。この程度で突破できるものじゃない。
それはわかっている。今大事なのはユニアのために時間を稼ぐことだ。
「効くとは思っちゃいない。だが、これならどうだ!」
俺は再び神具から光の矢を連射。矢はベレブに殺到するが、今度は直前で爆発。目映い閃光となる。
矢を発動体に見立てて、閃光の魔法を打ち出す。ただの目くらましだ。
戦い慣れた相手なら、すぐに復帰される攻撃だが。
「くっ……目が……」
ベレブには効果があった。本当に戦い慣れてないようだ。一応、右手を顔にあてて視力を戻すべく魔法を使っているが、あまりにも対応が遅い。
「隙ありだ!」
一気に距離を詰めて、神具を剣の形にして横薙ぎの一撃を見舞う。
ギリギリで視力を回復したベレブは右手で魔力の盾を作り、それを受け止めた。
神具の近接攻撃となると話は別なのか、これまでと違う能動的な防御だ。
「まだまだぁ!」
近づいたのいいことに、俺は連続で剣撃を叩き込む。できるだけ早く、できるだけ多く。ベレブが防御に気を使うように。
実際、目の前の魔族は全身を覆う魔力を増やして、明らかな防御状態になった。
一撃ごとに神剣と魔力がぶつかる衝撃が周囲に走り、魔力の光が火花のように散る。
まったく、これで攻撃さえ通れば何とかなるのに。フィル時代に持っていた能力を底上げする装備の数々があれば、これで勝っていただろう。
だけど、今はそれがない。あるのは、魔王の残り香すら押し切れない自力のみだ。
このままでは埒があかない。次の手に移行するかと思った時だった。
「いい加減にしたまえ!」
怒りの声と共に、ベレブが自分を中心に魔力を爆発させた。
「ぐおっ」
少し反応の遅れた俺は、防御しそこねてまともに食らってしまい、吹き飛ぶ。
距離にして五メートルほど。そこに追撃とばかりに魔力で作られた刃が打ち込まれてきた。 地面に着地した俺は、飛んできた魔力刃をどうにか切り払う。
「うっ……」
斬った瞬間、魔力の刃が無数に砕け散り、俺に向かって突き刺さった。
「くそっ、意外な魔法持ってるな……」
全身に刺さった小さな魔力の刃はすぐに消える。着ている装備のおかげで傷は浅いが、そこそこ出血した。すぐに回復魔法で癒す。
「まったく、存外しぶといね。フィル・グランデがいなくなっても、面倒なのがいるものだ」
回復した俺を見て呆れながらいうベレブ。いやいや、本人ですよと言ってやりたいが、それをどうにか抑える。多分、こいつは俺がフィルだと知ったら逆上して殺しにかかってくるはずだ。魔族は基本、魔王の崇拝者だからな。
「俺達も同じ気持ちだよ。魔王がいなくなっても、面倒なのがいるってな」
「……なるほど。たしかにそうだ」
素直に納得すると、ベレブは俺に手の平を向けた。
さて、次はどうやって時間を稼ごうか。
その時だった。
鎧と瞳を輝かせていたユニアに動きがあった。
体が動き、だらりと下げていた両手を挙げ、その手の平をベレブに向ける。
そして、短く、だが不思議とよく通る声で言った。
「――解析完了。対処開始。多重起動呪文、ディスペルマジック」
宣言と同時、ユニアの両手の平から何十という魔法陣が生み出された。
魔法陣は次々と作り出されるはしから、光となって消えていく。
ディスペルマジックは、人や物にかかった魔法を解除する呪文。それが、ベレブに向けて無数に放たれている。
「なにを……まさか!」
一瞬怪訝な顔をしたベレブが、焦りと共に背後を見た。
そこに、黒い人間状の物体が出現し始めていた。
ユニアのディスペルと共に、少しずつその全容が明らかになっていく。
見た目は人間に似ている、だが明確に種族の違いを表す角を持った魔族。
胸に突き刺さる白銀の剣。
今なお発される、どす黒い魔力。
魔王の骸がこの空間に出現した瞬間だった。
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