第51話「隠されたもの」
二対一だ。しかも、相手は俺とユニア。控えめに見ても、この世界でもかなり強い方のはずだ。いくら魔族の親玉といえど、ひとたまりもない。瞬殺すらありえる。
そのはずだが、俺達は苦戦していた。
俺はミスリルの剣、ユニアは神具の剣。それぞれフル装備で挑んでいるのに、一太刀も浴びせることが出来ないでいた。
「くそ、戦い慣れてない癖に、力押しで負けてるぞ」
「持っている魔力が尋常ではありませんね……」
互いにそう愚痴りながら、飛んできた魔力光をそれぞれの武器で打ち払う。
魔族ベレブの戦闘方法は、莫大な魔力を利用しての魔法攻撃。それと防御だ。
戦い方としては非常に雑。魔力を飛ばすだけの短呪文の魔法の連打が中心。
通常なら俺もユニアも無視できる威力の魔法だが、込められる魔力が超特大なのが問題だ。
しかも、連射が凄い。弾幕ゲーとまではいかないが、それに近い。
それでも付け入る隙はある。俺とユニアはそれぞれを守りながら接近し、何度か攻撃を直撃させた。
だが、そのどれもがベレブの本体に届かない。溢れる魔力が鎧となり、その身を守っていた。
俺の知る限り、最も魔力量の多い存在は魔王、次いでハスティさんだが、こいつはその間に入るくらいの力を感じる。
「思ったよりも長持ちするね。厄介だ」
剣と魔法で防御と回避を重ねる俺達を見て、ベレブが言い捨てた。
向こうの表情に余裕は無い。元々研究タイプで戦闘慣れしていないのを自覚してるんだろう。実際、俺とユニアは隙を見て接近できている。
付け入るならそこなのだが、攻撃が届かない。悪いことに、相手もそれを自覚している。
「店長、加護を受けての攻撃なら通るのでは?」
狙いは雑だが密度の高い魔力の光弾を弾きながらユニアが言う。
俺は魔法で防御壁を張りつつ答える。
「通るだろうけど、すぐ再生されそうだな。あの魔力の元を断たなきゃならん」
「魔王の骸ですね……」
ベレブの力の源は魔王の骸、そう見当はついている。
だが、戦場のどこにも見当たらない。最初の爆発で吹き飛ぶようなものでもないし、どこかに隠蔽されているのだろうが……。
「仕方ない。少し余分に力を使うかね……」
一瞬、攻撃が止まったと思ったら、ベレブの不穏な呟きが聞こえた。
同時、奴の両手にこれまで以上の魔力が集中する気配がした。
まずいな。どうにかしないと力技で押し切られるぞ。ハスティさんはまだ背後で戦ってるみたいだし、援護は難しそうだ。後ろの派手な爆発音を聞きながら、俺はそんな思考を巡らす。
「ユニア、魔王の骸を見つけ出すことができるか?」
「……わたしは情報収集に特化したワルキューレです。本気を出せばどこにあろうと発見できると判断します。問題は、しばらく無防備になることですが」
「短時間なら、俺が支える」
「……承知しました」
俺の言葉に、少しの迷いを見せてからユニアは了承した。
そして、どこからか、一本の細く長い槍を取り出す。
「こちらを。店長を守ってくれるかと」
俺に手渡されたのはヒルガルドの神具だった。優美かつ精緻な細工が手元に施された細身の槍はまるで芸術品。今は亡き本人が持てば、さぞ似合っただろう。
「ありがたく使わせて貰う」
俺が持っても似合わないが、心強い装備だ。
槍を持つ手に力を込めると、俺の意志に答えるように細身の長剣に変わった。見た目は剣だが、これは神具だ。魔法の発動体でもある。これで、これまで以上に効率よく戦える。
「店長、使い惜しみをしないよう、お願いします」
「……わかった」
ユニアの言葉の意味することを察した俺は、短くそう返す。この武器はここが使い時だ。
「ほう、神具が二つあるワルキューレか。特別製かね?」
魔力を集めていたベレブが、興味深そうに俺達を見据えた。戦い慣れてないから攻撃の準備が長いのか、魔王の骸から供給されている魔力を扱うのに時間がかかるのか、どちらだ?
俺の疑問をよそに、ベレブは油断なく真面目そのものな顔のまま両手の平をこちらに向けた。
「終わりだ!」
無数の魔力光が俺達に向かって殺到する。飽和攻撃。回避不能の攻撃だ。
「これより、周辺の解析を開始します」
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